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3月20日 岩田貴光先生の論文が「Annals of Clinical and Translational Neurology」に掲載されました。

3月20日 岩田貴光先生の論文が「Annals of Clinical and Translational Neurology」にて掲載されました。

論文タイトル「Abnormal Synchronization Between Cortical Delta Powerand Ripples in Hippocampal Sclerosis」

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/acn3.70032

海馬と大脳皮質の活動の同期性から海馬硬化症が検出できることを発見

てんかんは、脳の異常な電気活動によって生じる神経疾患で、痙攣発作や認知機能の低下を引き起こすことがあります。てんかんの診断に脳波検査は必要不可欠ですが、脳波の中でも特に「高周波振動(HFO)」と呼ばれる脳活動は、てんかんの発生源を特定するための重要な手がかりとされています。てんかん患者さんの海馬には病的なHFO(てんかん性Ripple)と生理的で記憶の定着を担うHFO(Sharp-wave Ripple)の2種類が見られますが、これらは波形がよく似ており両者を区別するのは非常に難しい課題でした。

岩田貴光らは、以前に海馬の脳波を長時間に渡って観測することで、生理的な海馬のSharp-wave Rippleが睡眠覚醒リズムによって大きく変動し、その変動は皮質のデルタ帯域(0.5〜4Hz)の活動と強く同期することを示しました。

そこでこの研究チームは海馬硬化症によるてんかん患者さんの「海馬のRipple」と「大脳皮質のデルタ波」との関係に着目しました。海馬硬化症は海馬の神経細胞が変性することでてんかんを発症し、薬剤だけではてんかんをコントロールすることが難しくなることの多い病気です。

この研究チームは、脳に電極を埋め込んだ16人の患者のデータを解析し、海馬のRippleとデルタ波の同期性を調べました。その結果、海馬硬化症の患者さんの海馬のRippleは、てんかん原性の低い患者さんの海馬に比べてデルタ波との同期が著しく低いことが判明しました。

この研究により、「海馬Rippleと大脳皮質のデルタ波の同期度」が、海馬のてんかん原性を推定し海馬硬化症を見分ける新たな指標になる可能性が示されました。この方法を用いることで、患者の脳波データから高い精度(94.1%)で海馬硬化症を識別できることが確認されました。これは海馬を切除する前であっても海馬の活動の特徴から高い精度で病理診断が推定できたことになります。

海馬のSharp-wave Rippleは、記憶の整理や定着に重要な役割を果たしています。Sharp-wave Rippleが減少したり、てんかん性Rippleが増加したりすると、記憶力が低下する可能性があります。これまでの研究でも、てんかんでは記憶障害がよく見られることが報告されており、今回の研究結果によって、てんかんの患者さんの記憶障害の発症メカニズムを解明することが期待されます。

この発見により、てんかんの診断精度が向上し、より正確な治療計画を立てることができる可能性があります。また、海馬Rippleとデルタ波の関係をさらに詳しく調べることで、記憶障害の新たな治療法開発にもつながる可能性があります。

この研究は、てんかんだけでなく、記憶や認知機能の研究にも大きな影響を与えることが期待されています!

 

 

図1

(A) 手術前のMRIと電極留置後のCTデータを示した画像で、海馬内の電極の位置を示している。(B) 海馬電極(A1–A2)間で記録されたバイポーラ電位(上)を70~180 Hzのバンドパスフィルターで処理したもの(下)。青い陰影部分は検出されたRippleを示す。(C) 代表的な3つのRipple。

図2

各線は、NE群(左)およびEP群(右)の患者における、24時間にわたるZスコア変換されたRippleの頻度(赤)と皮質デルタ帯域のパワー(青)の平均値と95%信頼区間を示している。