このたび2024年12月1日付で大阪大学大学院医学系研究科 麻酔集中治療医学教室 5代目教授を拝命いたしました。
当教室は、1965年に大阪大学医学部麻酔学講座として開講しました。1965年10月、旧阪大病院の食堂でささやかな麻酔学講座発足イベントが開催されたと聞いております。講座開講メンバーは、恩地裕初代教授、小田武雄先生、土井康司先生、美馬昂先生、宮崎正夫先生、吉川清先生、吉矢生人先生の7名でした。翌年66年には麻酔科外来、いわゆるペインクリニックを全国に先駆けて開設。そして、1974年には全国2番目となる大阪大学医学部附属病院集中治療部を開設し、現在に至るまで24時間クローズド診療体制を続けております。このように当教室の歴史を振り返ると、我々の教室は大麻酔科主義を源流として、諸先輩方のたゆまぬ努力により大きく発展を遂げてきたことがよく分かります。手術麻酔だけでなく、集中治療・緩和疼痛・(現在では)無痛分娩管理といった麻酔関連領域すべてを学問の対象とする、これが我々の考える麻酔科学であり当教室の誇るべき伝統であると思います。
私は、「先輩方の築いてきた大麻酔科主義の伝統をしっかりと守り、伝統という基盤の上に当教室の価値をさらに高めていくこと」を教室運営の基本方針に掲げております。伝統を守り価値を高めるために、何が必要なのか、それは「専門性」と「学問性」を追求する麻酔科医を一人でも多く育成していくことだと考えます。専門性を追求するために、当教室伝統の大麻酔科主義という利点を生かし、手術麻酔早期特化ではなく、麻酔科全体の中から将来の専門性を模索できる教育体制を提供しております。麻酔科専門研修プログラム中、専攻医は手術麻酔・集中治療・緩和疼痛・無痛分娩管理といった麻酔関連領域すべてを経験することができるため、多くの選択肢の中から自身にあった専門性を早い段階で見つけることが可能になります。
このように充実した教育体制を通して、「私はXXを専門とする麻酔科医です」と胸を張って言える麻酔科医を輩出することが当教室の使命です。「専門性の追求」という目標を明確に提示することで後進を向かうべき方向に導いていく、その結果、常に最高レベルの臨床を患者さんに届ける。そのような教室でありたいと考えています。
また当教室は、日本の麻酔集中治療の臨床だけでなく研究も牽引して参りました。当教室にしかできない研究で世界をリードした1例をご紹介します。以前より、横隔膜を用いた呼吸様式は生理的であることから、人工呼吸管理中には自発呼吸の温存が推奨されていました。しかし、当教室の肺生理学研究により、自発呼吸努力に依存して肺傷害が悪化する現象を発見し「自発呼吸関連肺傷害」という新たな概念を創出しました。我々の研究成果は広く世界に浸透し、多くの海外・国内ガイドライン (2017年欧州呼吸器学会/米国胸部学会 急性呼吸不全に対する非侵襲人工呼吸管理ガイドライン・2017年米国胸部学会/欧州集中治療医学会/米国集中治療医学会 ARDSに対する人呼吸管理ガイドラインなど)だけでなく、JAMA・Lancet・NEJMといった一般誌にも引用され、医学界に与えた影響は極めて大きいと思います。こうした当教室の研究により、コロナ関連急性呼吸不全に対して自発呼吸努力の消失・抑制が標準治療となり、コロナパンデミックの際多くの救命に貢献することができました。
大阪大学医学部附属病院において、多職種医療従事者と密に連携することにより、当院の治療成績は生存率89%と日本最高を達成することができたことは、高い「専門性」と「学問性」を有する当教室だからこそ成し得た偉業ではないかと感じております。このように麻酔科医の原点である臨床の現場を大切にしながら、臨床で生じた疑問を解決したいという探究心を常に持ち続ける。そしてその探究心を原動力に、これからも阪大発の革新的な技術・治療法を世界に届けて参ります。
当院は、臓器移植をはじめとする侵襲の大きな手術を実施し、高度先進医療を提供する地域の中核病院として地域の要請に応える使命を有しております。現在、年間の麻酔科管理症例は7000例を優に超えますが、患者さんの安全を最優先にしながら、さらに拡大を進めて参ります。また、統合診療棟運用開始に伴い29床のICUが旧棟と新棟の2つに分かれ、重症患者さんの集中治療管理を継続しますので、これまで以上に各診療科との連携が重要になって参ります。
私は、教室運営の基本方針を掲げながら、高い「専門性」と「学問性」を有する熱意溢れる後進の育成に全力を注ぎ、これまで以上に教室並びに病院発展のために貢献していく所存でございますので、一層のご指導ご鞭撻のほど何卒よろしくお願い申し上げます。
卒業年度/
大阪大学医学部 昭和60年
専門分野/
心臓麻酔・肺外科麻酔・手術医学・臨床工学・滅菌供給
卒業年度/
広島大学医学部 平成17年
専門分野/
集中治療、呼吸管理、麻酔全般
卒業年度/
滋賀医科大学医学部 平成10年
専門分野/
ペインクリニック・インターベンショナル痛み治療・難治性疼痛治療・緩和医療・麻酔全般
卒業年度/
大阪大学医学部 平成12年
専門分野/
心臓血管麻酔・麻酔全般
卒業年度/
徳島大学医学部 平成14年
専門分野/
集中治療
卒業年度/
鳥取大学医学部 平成11年
専門分野/
集中治療・急性腎障害・麻酔全般
卒業年度/
三重大学医学部 平成11年
専門分野/
ペインクリニック・麻酔全般
卒業年度/
大阪大学医学部 平成14年
専門分野/
麻酔全般・GABAA受容体
卒業年度/
香川大学医学部 平成15年
専門分野/
心臓血管麻酔・区域麻酔・麻酔全般・費用対効果評価
卒業年度/
大阪大学医学部 平成17年
専門分野/
心臓血管麻酔・区域麻酔・麻酔全般
卒業年度/
大阪大学医学部 平成19
専門分野/
集中治療、小児集中治療、呼吸管理、麻酔全般
卒業年度/
鹿児島大学医学部 平成19年
専門分野/
集中治療、小児集中治療、呼吸管理、麻酔全般
卒業年度/
大阪大学医学部 平成20年
専門分野/
集中治療、呼吸管理、麻酔全般
卒業年度/
大阪大学医学部 平成23年
専門分野/
集中治療、呼吸管理、麻酔全般
卒業年度/
滋賀医科大学医学部 平成23年
専門分野/
麻酔全般
卒業年度/
大阪大学医学部 平成25年
専門分野/
集中治療・呼吸管理・麻酔全般
卒業年度/
大阪大学医学部 平成23年
専門分野/
集中治療、呼吸管理、麻酔全般
卒業年度/
大分大学医学部 平成24年
専門分野/
小児集中治療、小児循環器
卒業年度/
京都府立医大学医学部 平成25年
専門分野/
産科麻酔・麻酔全般
卒業年度/
大阪医科薬科大学医学部 平成25年
専門分野/
麻酔全般
卒業年度/
大阪大学医学部 平成26年
専門分野/
ニューロサイエンス・chronic pain・麻酔全般
卒業年度/
滋賀医科大学医学部 平成26年
専門分野/
救急・集中治療
卒業年度/
大阪大学医学部 平成29年
専門分野/
心臓血管麻酔・麻酔全般
卒業年度/
大阪大学医学部 平成29年
専門分野/
小児麻酔・麻酔全般
卒業年度/
兵庫医科大学医学部 平成29年
専門分野/
ペインクリニック
卒業年度/
岡山大学医学部 平成30年
専門分野/
麻酔全般
卒業年度/
三重大学医学部 平成28年
卒業年度/
三重大学医学部 令和3年
(シニア代表)
卒業年度/
長崎大学医学部 平成19年
卒業年度/
インドネシア ハサヌディン大学医学部 平成30年
卒業年度/
大阪医科薬科大学医学部 平成28年
専門分野/
ペインクリニック
卒業年度/
バングラディッシュ チッタゴン科学技術大学医学部 平成30年
卒業年度/
三重大学医学部 平成29年
卒業年度/
大阪大学医学部 平成28年
卒業年度/
大阪大学医学部 平成29年
卒業年度/
大阪大学医学部 平成28年
卒業年度/
鳥取大学医学部 平成31年
卒業年度/
東北大学医学部 平成31年
卒業年度/
国際医療福祉大学大学院 看護学分野 周麻酔期看護学領域 令和2年
卒業年度/
奈良県立医科大学大学院看護学研究科 周麻酔期看護師教育課程 令和2年
卒業年度/
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 令和3年
卒業年度/
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 令和4年
卒業年度/
奈良県立医科大学大学院看護学研究科 周麻酔期看護師教育課程 令和4年
卒業年度/
国際医療福祉大学大学院 看護学分野 周麻酔期看護学領域 令和7年
卒業年度/
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 令和7年
1965 |
![]() 大阪大学医学部麻酔学講座開講 ![]() 初代 恩地 裕教授、 |
---|---|
1966 | 大阪大学医学部麻酔科 麻酔科外来(ペインクリニック)開設 |
京都府立医科大学麻酔科 宮﨑 正夫 教授就任 |
|
1971 | 川崎医科大学麻酔科開設 高折 益彦 教授就任 |
1974 | 大阪大学医学部附属病院集中治療部開設 吉矢 生人 副部長、 島田 康弘(ロサンジェルス小児病院より)、 田中 一彦(第1外科より)、 戸崎 洋子(麻酔科より出向) の4名で24時間体制の診療を開始 |
1975 |
![]() 開講10周年記念 |
1977 | 滋賀医科大学麻酔科開講 天方 義邦 教授就任 |
1977 | 川崎医科大学救急医学講座 小濱 啓次 教授就任 |
1979 |
![]() 大阪大学医学部麻酔科 |
1979 |
![]() 集中治療部開設5周年記念 |
1983 | 香川医科大学麻酔救急医学講座開設 小栗 顕二 教授就任(京都府立医科大学より) |
1985 | 名古屋大学医学部麻酔科 島田 康弘 教授就任 |
1985 |
![]() 開講20周年記念 |
1989 | 横浜市立大学医学部麻酔科 奥村 福一郎教授就任(国立循環器病センターより) |
1992 | 長崎大学医学部麻酔科 澄川 耕二 教授就任 |
1994.1 | 兵庫医科大学麻酔科 太城 力良 教授就任 |
1995 | 滋賀医科大学麻酔科 野坂 修一 教授就任 |
1995 |
![]() 開講30周年記念 |
1995 | 名古屋大学医学部救急科 武澤 純 教授就任 |
1995 | 奈良県立医科大学麻酔科 古家 仁 教授就任 |
1997 | 大阪大学医学部附属病院総合診療部 吉矢 生人 教授就任 |
1999 |
![]() 大阪大学医学部麻酔科 |
2002 | 藤田保健衛生大学麻酔科 竹田 清 教授就任 |
2004 | 徳島大学医学部救急集中治療部 西村 匡司 教授就任 |
2005 | 鳥取大学医学部麻酔科 稲垣 喜三 教授就任 |
2005 |
![]() 開講40周年記念 |
2007 | 大阪大学大学院医学系研究科疼痛医学寄附講座 柴田 政彦 教授就任 |
2008 | 名古屋大学医学部麻酔科 島田 康弘 教授退任 |
2010 | 近畿大学医学部奈良病院救命救急科・救命救急センター 公文 啓二 教授就任 |
2010 | 徳島大学病院ER・災害医療診療部 今中 秀光 教授就任 |
2011 | 滋慶医療科学大学院大学 木内 淳子 教授就任 |
2011 | 三重大学医学部分子病態学 島岡 要 教授就任 |
2013 |
![]() 大阪大学医学部麻酔科 |
2015 |
![]() 開講50周年記念 |
2016 | 関西医科大学麻酔科 上林 卓彦 主任教授就任 |
2017 | 近畿大学麻酔科 大田 典之 教授就任 |
2017 | 成田国際医療福祉大学 麻酔集中治療医学教室 澁田 達史 教授就任 |
2022 | 近畿大学医学部麻酔科学講座集中治療部 大田 典之 教授就任 |
2024 |
![]() 大阪大学医学部麻酔科 |