「サイエンスは芸術」と、私がまだ若者であった時に恩師の多田富雄先生が仰っていました。
絵も音楽もからきし駄目な私でも、芸術という高尚な行為に携わることができるものかとワクワクした記憶があります。
この言葉の意味はアプローチの違いはあるにせよどちらとも真理を追求する行為であることに拠る、とともにサイエンスにおいても未知の事象に対しての感じ方は十人十色であり、アプローチの方法も異なることに拠ることであると認識しています。ゲノム編集、オミクス解析、イメージングなど様々な実験手法がある現在に置いて、アプローチの違いは益々多様化しています。もっと細かいところでは、理解し難い解析結果に対しての感じ方も個人により異なり、従って次の手段も異なります。
このように真理に向かう膨大な迷路を日々あーでもない、こうでもないと右往左往しているのが、基礎研究者の日常かと思います。この中では職位などはあまり関係なく、若い学生の方が正しい場合もあり、信じた仮説が間違いであるようなことは日常茶飯事であります。
我々の研究室では、個人の自由な発想のもとで真理を謙虚に追求することを理念としています。
みなさんと共に苦しく(9割?)も楽しい(1割)サイエンスという芸術に携わっていきたいと思っています。
大阪大学大学院医学系研究科 ゲノム生物学講座 生殖遺伝学教室
林 克彦