大阪大学大学院医学系研究科 未来医療開発専攻 ポストゲノム疾患解析学 細胞死制御(遺伝子学)  
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1)アポトーシスの解析
Bcl-2ファミリータンパク質の機能解析
アポトーシスは、幾つかの遺伝子の産物により負の制御を受けている。
Bcl-2遺伝子は、1985年にTsujimto & Croceによりがん遺伝子として発見されたが(図1)、細胞死の負の制御因子としての機能を有し、アポトーシスのクリティカルなステップを調節している。細胞死抑制機能を有するため、Bcl-2は、変性疾患の治療への応用の観点からも注目されている。Bcl-2に構造が類似したたんぱくが多数同定されており、これらはBcl-2ファミリーを形成している。機能的には、Bcl-2のようにアポトーシスを抑制するメンバーとBaxなどのようにアポトーシスを促進するメンバーに大別される。アポトーシス促進メンバーはその構造からBaxやBakのようなマルチドメインメンバー(BH1, BH2, BH3ドメインを有する)とBH3ドメインのみを有するBH3-onlyたんぱくに分けられる(図2)。 Bcl-2ファミリーたんぱくの主要な機能場所はミトコンドリア(写真)であり、外膜の透過性を正と負に調節することによりアポトーシスを制御している。アポトーシス促進メンバーが活性化されると、ミトコンドリア外膜の透過性が亢進し、intermembrane spaceに存在するタンパクが細胞質に漏出する。この中に、下流の破壊的なプログラムを誘導する因子(シトクロムc、Smac/DIABLO、HrtA2/Omiなど)が存在する。アポトーシス抑制メンバーは、この膜透過性亢進を阻止する(図3)。しかし、これらたんぱくが如何にしてミトコンドリア外膜の透過性を調節しているかに関しては、我々が提唱しているモデルを含め複数のモデルが提唱されているが、未だ統一的な見解が得られておらず、我々は、さらに種々の手法を駆使しその詳細解明を目指している。

    DNA傷害、酸化ストレスや小胞体ストレスにより誘導されるアポトーシスのシグナル伝達経路の解析

Bcl-2ファミリーのアポトーシスメンバー促進メンバーの多くは、生細胞中ではミトコンドリア外に存在し、アポトーシス刺激により活性化されミトコンドリアに移行する(図4)。また、Bcl-2ファミリーに属さず、アポトーシス刺激に応じてミトコンドリアに移行し、ミトコンドリア外膜の透過性を亢進させる因子も幾つか報告されている。このように、アポトーシスシグナルをミトコンドリアに伝える機構には多様性があるようである。我々は、核、小胞体などからミトコンドリアに如何にしてアポトーシスシグナルが伝達されるのかに興味を持って解析を行っている。

DNA傷害誘導性アポトーシス
細胞は、核DNAが受けた傷害の程度に応じ、修復か細胞死を選択するが、このセンサー機構にも興味を持っている。この問題にアプローチするために、X線照射により細胞質に蓄積し、ミトコンドリアに働きかけてシトクロムc遊離を誘起する因子を、単離ミトコンドリア系をアッセイ系に用い、単離精製を行なった。その結果、核クロマチン構成因子であるリンカーヒストンH1の一つH1.2(H1c)を同定し、種々の解析により、H1.2がDNA2重鎖切断によるアポトーシスに関与することを明らかにした(図6)。つまりX線によるDNA2重鎖の切断によりヒストンH1.2がクロマチンより遊離、その後細胞質に漏出しミトコンドリアの膜透過性を直接亢進するスキームが明らかになった。細胞が受けたDNA傷害の程度を、遊離ヒストンH1.2の量に反映さえ、アポトーシスを惹起している構図が見える。
小胞体ストレス誘導性アポトーシス
Bcl-2ファミリーの幾つかのメンバーは小胞体膜や等価と考えられる核外膜にも局在することが知られているが、そこでの機能の詳細は不明である。我々は、小胞体ストレス(※)により如何してアポトーシスシグナルが惹起されるかに興味を持ち、Bcl-2ファミリーたんぱくの機能との関連で解析を行なっている。


小胞体ストレス(※):小胞体内にunfolded proteinsが蓄積すると細胞は、それらのたんぱくを正しくfoldingするためシャペロンの産生を促進させるなど種々の応答を行う。また。その異常がある閾値を超えた場合、アポトーシスのシグナルを惹起すると考えられている。この小胞体に異常たんぱくが蓄積した状態を小胞体ストレスと呼ぶ。
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    2)カスペース非依存的細胞死の解析
アポトーシスを起こさない細胞株(Bcl-2過剰発現マウス胚由来繊維芽細胞やBax/Bak欠損マウス胚由来繊維芽細胞)を用いた解析から、これらの細胞はアポトーシス刺激によりオートファジー(自食反応)に依存した細胞死機構を活性化し死に至ることを見出した(図10図11)。このautophagic cell death機構を含め、哺乳動物細胞は複数の非アポトーシス細胞死機構を有しており、これらの詳細な解析は、哺乳動物細胞が有する死の機構の全貌解明に必須のものと考えている。
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    3)ミトコンドリア膜透過性遷移現象(mitochondria permeability transition:MPT)の解析
単離ミトコンドリアをCa2+などで処理すると、分子量が15,00程度の分子が漏出し、膜電位(membrane potential)の低下、ミトコンドリアの膨潤、それに伴う外膜の崩壊が起こる(図7)。これをミトコンドリア膜透過性遷移現象と呼ぶ。この現象はたんぱく複合体(permeability transition pore complex: PTP complex)により制御されていると考えられており、外膜のVDAC (voltage-dependent anion channel)、内膜のANT (adenine nucleotide translocator)やマトリックスたんぱくであるCyclophilin Dなどを含むと考えられているが(図8)、その実体はいまだ明らかにされていない。MPTはアポトーシスやネクローシスの時に見られるミトコンドリア外膜の透過性亢進に関与することが示唆されてきたが、我々は、最近MPTの制御因子と考えられてきたCyclophilin D欠損マウスを作製し、このマウス肝由来のミトコドリアはMPTを起こさないこと、MPTはアポトーシスには関与しないこと、MPTは過剰なカルシウムや酸化ストレスによるネクローシスに関与することを示した。さらに、Cyclophilin D欠損マウスは心筋の虚血・再灌流傷害(心筋梗塞)に強い耐性を示すことを明らかにした(図9)。このようにCyclophilin Dやその機能標的などは、心筋梗塞の治療のための良い標的分子であることを示している。
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