加齢によるオートファジー活性の変化がミトコンドリア機能低下を介して腎老化を引き起こす

Autophagy. 2016 May 3;12(5):801-13.

Time-dependent dysregulation of autophagy: Implications in aging and mitochondrial homeostasis in the kidney proximal tubule.

Yamamoto T, Takabatake Y, Kimura T, Takahashi A, Namba T, Matsuda J, Minami S, Kaimori JY, Matsui I, Kitamura H, Matsusaka T, Niimura F, Yanagita M, Isaka Y, Rakugi H.

 

オートファジーは細胞内蛋白質やオルガネラの分解機構であり、細胞質成分の品質管理を通じて細胞内の恒常性維持を担っている。そのため、「オートファジー活性の経年的な減弱により、細胞内老廃物の蓄積が起こり老化につながる」という仮説が成り立つ。しかし生体内でオートファジー活性を評価する方法が確立しておらず、また長期飼育の必要性から報告がほとんどないため、結論は得られていない。本研究では新たに確立した遺伝子改変マウスを用いた検討により腎尿細管オートファジーが、①加齢により減弱するか、②腎老化に対抗するかを検証した。

①Atg5floxマウス(Atg5はオートファジーに必須の分子)と薬剤誘導性近位尿細管特異的Cre 発現マウスとの交配により薬剤誘導性近位尿細管特異的オートファジー不全マウスを作製し若年・老年マウスを用いた。2週間オートファジー不全状態にしたところ、老年マウス腎尿細管ではオートファジーの選択的基質であるp62陽性凝集塊蓄積が著増し、老年マウスの尿細管においてオートファジーが多くの基質を処理していることが判明した(図1)。次にオートファゴソーム可視化マウス(GFP-LC3 マウス)を用い、自由摂取下あるいは24時間絶食、クロロキン投与有あるいは無の条件下でオートファゴソームの数を評価した。老年マウス腎尿細管では自由摂取下でもオートファジー亢進が見られる一方、若年マウスで見られる絶食に対するオートファジー亢進は見られなかった。

図1. 加齢により腎尿細管ではオートファジーの仕事量が増加し、不全によるダメージが若年マウスに比較して相対的に大きくなる。

②Atg5floxマウスと近位尿細管特異的Cre 発現マウスとの交配により近位尿細管特異的オートファジー不全マウスを作製し2年令まで検討した。老年オートファジー不全マウスでは腎機能低下、腎萎縮を認め、さらにミトコンドリアDNAコピー数減少(図2)・ミトコンドリアDNA損傷、ミトコンドリア機能低下、ゲノム不安定性、アポトーシス増加、タンパク凝集塊蓄積、酸化ストレス亢進といった老化様所見が認められた。

図2. 老年のオートファジー不全マウスはミトコンドリアDNAコピー数減少およびミトコンドリアDNA損傷が野生型マウスに比較して悪化する。

以上より、オートファジーは加齢ストレスに抗すべく持続的に活性化され、経年的にオートファジー依存性が増すこと、しかし新たなストレスに対し適切な応答ができず、相対的オートファジー低下状態となり老化につながること(すなわち代謝ストレスに対するオートファジー亢進の硬直性)が明らかになった(図3)。オートファジーを低下させない医学的戦略が老化・慢性腎臓病の防止に貢献する可能性が示された。

図3. 加齢によるストレスに抗すべくオートファジーは持続的に活性化され、オートファジー依存性が増す。しかし新たなストレスに対しては適切なストレス応答ができない。このような反応性の低下は、おそらく日常臨床でも高齢者におけるストレスに対する適応性低下の一因であると思われる。オートファジーが低下することで、ミトコンドリアDNA損傷、数の減少、機能低下、またゲノムDNA損傷などが生じ、腎臓の老化を加速させる。