オートファジーフラックス障害とミトコンドリア機能低下は近位尿細管における脂肪毒性に寄与する

J Am Soc Nephrol. 2017 May;28(5):1534-1551. PMID:27932476

High-Fat Diet-Induced Lysosomal Dysfunction and Impaired Autophagic Flux Contribute to Lipotoxicity in the Kidney.

Yamamoto T, Takabatake Y, Takahashi A, Kimura T, Namba T, Matsuda J, Minami S, Kaimori JY, Matsui I, Matsusaka T, Niimura F, Yanagita M, Isaka Y.

 

過剰な脂肪摂取は細胞傷害や炎症を惹起する(脂肪毒性)。遊離脂肪酸β酸化にATP産生を依存している腎尿細管への脂肪毒性については不明な点が多い。オートファジーはリソソームにおける細胞質成分分解の総称であり、細胞恒常性維持や飢餓応答に寄与する。本研究では脂質負荷が腎尿細管オートファジーフラックスへ与える影響を評価し、脂肪毒性・脂質代謝における腎尿細管オートファジーの役割について検証した。

近位尿細管培養細胞にパルミチン酸(PA)を負荷すると、オートファゴソームの形成促進を認めるもオートファジーの基質であるp62蛋白凝集塊の蓄積を認め、PAはオートファジー経路の後期段階を抑制した。電顕にてリソソーム内に消化不良オルガネラ蓄積を認め、LysoSensorを用いた観察にてPAによるリソソーム酸性化不良が判明した。次にオートファゴソーム可視化マウス(GFP-LC3 マウス)に対し2ヶ月間高脂肪食(HFD)負荷を行い、自由摂取あるいは24時間絶食、クロロキン投与有あるいは無の条件下で評価した。HFD群腎尿細管では自由摂取下でオートファジー活性化が見られる一方、ND群で見られる絶食に対するオートファジーフラックスの亢進が欠如していた。HFD群の腎尿細管にはリソソーム膜蛋白lamp1 陽性の空胞形成が観察され、内部にはGFP陽性リン脂質が蓄積していた。以上より過剰脂質蓄積による機能不全リソソームがオートファジーフラックス障害につながることが示された(図1)。

図1. 高脂肪食を与えた肥満マウスの腎尿細管には著明な空胞形成を認めた。過剰な脂質負荷によりリソソームにリン脂質が蓄積していることが明らかとなった(上段)。肥満マウスは、自由摂取下でオートファジー活性化が見られる一方、通常食摂取群で見られる絶食に対するオートファジーフラックス亢進が欠如していた(下段)。

次に近位尿細管特異的オートファジー不全マウス(KOマウス)及び野生型マウスに対しHFD負荷を行ったところ、KOマウスでは尿細管ミトコンドリア機能低下が増悪し、マクロファージ浸潤とインフラマソーム活性化を認めた。さらに、肥満を呈する慢性腎臓病患者の腎組織において、リソソーム内リン脂質蓄積とオートファジーフラックス障害を表すp62蛋白凝集塊の蓄積を認めた(図2)。

図2. 肥満を呈する慢性腎臓病患者の腎組織において、空胞病変(リソソーム内リン脂質蓄積)とオートファジーフラックス障害を表すp62蛋白凝集塊の蓄積を認めた。

以上より、HFDによりオートファジーへの依存性が高まるが、リソソーム機能障害からオートファジーがスムーズに機能せず、ミトコンドリア機能低下も相まって虚血による腎障害増悪につながることが明らかとなった。これらは腎脂肪毒性についての新しい機序解明であり、今後オートファジーフラックスに焦点をあてた慢性腎臓病治療の創薬につなげていきたい。