オートファジーは高リン負荷による腎尿細管ミトコンドリア傷害に対抗する

Biochemical and Biophysical Research Communications, 524(3), 636–642 Apr 2020. PMID: 32029271

Autophagy protects kidney from phosphate-induced mitochondrial injury.

Fujimura R, Yamamoto T, Takabatake Y, Takahashi A, Namba-Hamano T, Minami S, Sakai S, Matsuda J, Hesaka A, Yonishi H, Nakamura J, Matsui I, Matsusaka T, Niimura F, Yanagita M, Isaka Y.

 

慢性腎臓病患者において高リン血症は頻度の高い合併症であり、総死亡および心血管疾患発症の独立した危険因子です。慢性腎臓病進行に伴い腎尿細管におけるリン負荷が増大し、腎障害に寄与すると考えられていますが、尿細管における高リン毒性の本態は未解明の部分が多いです。私たちはこれまで近位尿細管のオートファジー機構について研究を行い、種々の腎疾患の発症や進展にオートファジーが対抗し、腎保護的に働くことを明らかにしてきました。我々は高リン負荷のモデルマウスでも同様、腎近位尿細管においてオートファジーが亢進することを見出しました。

そこで高リン負荷に対するオートファジーの役割について検証するため、近位尿細管特異的オートファジー不全マウスに高リン食摂取を行ったところ、野生型マウスと比較してミトコンドリア機能の低下・酸化ストレスの蓄積を伴い、著明なミトコンドリア形態異常を認めました(図1)。

図1. 高リン食摂取のオートファジー不全マウスでミトコンドリアは著明に腫大し、顕著な形態異常を認めた。

次に高リン負荷下でオートファジーを誘導する因子としてミトコンドリア傷害に着眼し、近位尿細管培養細胞に高リン負荷を行ったところ、ミトコンドリア膜電位の低下および酸化ストレスの蓄積を認め、PINK1/Parkin依存性マイトファジー(ミトコンドリア選択的オートファジー)が惹起されていました(図2)。酸化ストレスのスカベンジャーであるN-アセチルシステイン(NAC)を投与するとPINK1/Parkin依存性マイトファジー活性が低下したことから、高リン負荷による酸化ストレスの蓄積がマイトファジーを誘導していることが示唆されました(図2)。

図2. ミトコンドリア選択的オートファジー(マイトファジー)のマーカーであるPINK1およびParkinの発現量。高リン負荷によりPINK1/Parkin依存性マイトファジーが誘導され、NACの投与により低下する。

本研究で高リン負荷による腎尿細管オートファジーの活性化は、傷害されたミトコンドリアを除去することで腎保護的に機能することが明らかになりました。これとは別にRubiconという普段オートファジーを抑制している分子の働きを抑えると尿細管における高リン毒性が緩和されること(論文投稿準備中)を見出しており、オートファジー活性調整が高リン毒性に対し、新規治療の対象となるのではないかと考えています。