腫瘍病理ホームページ

謹賀新年

 

昨年はいろいろお世話になりありがとうございました。

本年もよろしくお願いいたします。

平成16 年元旦

 


あけましておめでとうございます。

旧年中は大変お世話になり有難うございました。  

インターロイキン6を中心としたサイトカイン研究は、樹状細胞、メモリー細胞、マスト細胞の脱顆粒の研究へと発展するとともに、臓器形成や創傷治癒、あるいはがん転移に関与する上皮ー間葉系変換 (EMT)の機構の研究へと展開しています。これらの研究成果は、IL-6受容体の点変異と関節リウマチ様自己免疫疾患の発症機構の研究に寄与するものと考えています。引き続きインターロイキン6を規範としてサイトカインの作用機構を明らかにしたいと考ています。新年を迎えるにあたり、以下に今年の抱負をまとめました。ご一読いただければ幸いです。

今年は研究室発足14周年を迎えます。研究室発足以来精力的に取り組んできましたサイトカインシグナル伝達の研究は、シグナル特異的 欠損レセプターgp130発現ノックインマウスの作成、そして平成13年(2002年)には、熱海君、石原君らにより、gp130の点変異によ り誘導されたシグナル異常により、関節リウマチ様自己免疫疾患が自然発症す るという発見にいたりました。これは30年まえに私が医学部を卒業して免疫 学の研究の第一歩を踏み出したときの私の免疫学への思いを現実のデーターと して具現化したものにほかなりません。ゼブラフィシュの初期発生の研究は、山下君らを中心にして、原 腸陥入における分子基盤の研究、特に細胞の運動、極性の制御機構の研究に発 展しました。2002年(平成13年)にSTAT3が原腸陥入の細胞運動を制御していることをDev. Cellに報告し、そのごSTAT3の標的遺伝子の同定に全力を挙げてきましたが、昨年ついに細胞運動に関与するSTAT3の標的遺伝子の同定に成功しました。現在研究成果の論文は投稿中ですが、この標的遺伝子の同定に成功したことにより、山下君らの研究は、原腸陥入はもとより、臓器形成や創傷治癒、あるいはがん転移に関与する上皮ー間葉系変換 (Epithelial-mesenchymal transition; EMT)の機構の研究へと展開しています。さらに、この遺伝子が免疫系にも発現していること、炎症、免疫記憶などの免疫反応などに関与する種々の分子の活性を制御している可能性を秘めていることなどから、新たな免疫制御分子の可能性もあります。またSTAT3の標的遺伝子であることから、gp130シグナル変異による自己免疫疾患発症に関与する可能性も秘めています。今年はこの新たな遺伝子をめぐり大きな飛躍が期待できますし、あらたな研究分野の創設も、あながち夢ではないと考えています。またgp130シグナル研究より新たに同定したGabファミリーの研究はマ スト細胞の脱顆粒現象の解明へとハンドルを大きくきりました。昨年はマスト細胞の脱顆粒現象の基本的なデーターの集積を、西田君らを中心にして行うとともに、この分野では未踏のテーマである脱顆粒とマイクロチュブールとの関係を明らかにするとともに、この現象に関与している分子の同定を開始し、すでに有望な分子を同定することに成功しています。今年はこの分子の関与を確実なものとするとともに、マスト細胞における脱顆粒現象の研究に新たな1ページを加えて、この分野で世界をリードする決意です。また、gp130シグナルとサイトカインシグナル全般に関する研究は、村上君らを中心にメモリーT細胞の生成、維持機構、ホメオスタテック増殖の機構、活性化T細胞の生存機構、樹状細胞の成熟機構の研究、そして、これらにおけるインターロイキン6の重要性の発見により、インターロイキン6、およびインターロイキン6ファミリーの免疫応答における役割の重要性が再認識されつつあります。また、MHCクラスII分子の細胞内輸送の機構に関して、加門君らにより世界をリードしうる可能性を秘めた新たな知見を得ることができました。今年はこれらの研究成果を確実に論文にすることにより、世に問いかけます。gp130シグナル変異による自己免疫疾患の発症機構の研究も澤君らにより着実に基本を押さえつつあります。最終ゴールは、まだまだ先ですが、以上に述べたサイトカイン研究のいろいろな角度からの基礎研究をさらに発展させていくことにより、gp130が関与している自己免疫疾患の発症機構の解明に至ると信じています。さらに研究室 として最大の成果は、gp130シグナルの研 究、Gabファミリーを中心とした脱顆粒の研究、ゼブラフュシュの原腸陥入の研究、これら一見 何の関係もないかに見える研究が、実は、サイトカインシグナルによる、MHCクラスII分子などの物質の細胞内輸送、細胞極性の決定、細胞骨格の再編成、細胞運動、さらには上皮ー間葉系変換 (EMT)という細胞生物学全体における魅力的な研究課題のキーワード で密接な関連を有していることが実験結果として具体的な姿を現しつつあると いう点です。そしてバイオロジーとしては、それぞれの研究テーマーが、自己 免疫疾患、アレルギー、からだのかたちつくり、癌転移、再生医学と密接な関 係があると言う点です。

 

昨年2月には、コールドスプリングハーバにおいて4年間の留学を終えた深田君という力強い仲間が加わりました。また免疫の特定領域研究の最終年度にあたり2月には大阪で国外23人、国内24人の講演者による国際免疫シンポジウムを開催し、皆さまのご協力で無事、盛会にシンポジウムの開催をすることが出来ました。われわれの研究室において最重要な出来事は、5月の厳しいヒアリングを経て平成19年までの5年間の特別推進研究が認められたことです。また本年4月には横浜で、いよいよ理研免疫アレルギー科学総合研究センター(RCAI)の新しい研究棟において研究が開始されます。これにより深田、西田、熱海、北村、上村、山崎ら6名の研究員が横浜に移ることになります。RCAIではマスト細胞の脱顆粒現象の研究、ENUによる変異マウスを使用した免疫関連遺伝子の探索、特に我々はマスト細胞による脱顆粒現象やサイトカイン産生に関与するミュータントのスクリーニングとその原因遺伝子の同定、gp130変異と相乗効果を示すENUミュータントマウスの探索と原因遺伝子の同定を中心に研究を開始します。阪大では、特別推進研究のテーマであるサイトカインの基礎研究にまい進するとともに、gp130変異による自己免疫疾患の発症機構の解明に全力を注ぎます。横浜のRCAIと阪大の腫瘍病理・免疫発生教室は、テレビ会議システムにより直結し、毎週のジャーナルクラブ、研究成果報告会、研究打ち合わせは一体となり運用していきます。RCAIではENUミュータントの探索のような阪大では決して出来ない組織的な研究テーマに取り組みながら、阪大と密なる共同研究を展開することにより、今までは不可能であったブレークスルーに挑戦していく覚悟です。

 

2004年、今年は、腫瘍病理・免疫発生教室は大きな変革の年を迎えます。 何かがおこる予感がします。世の中変化、変化と騒いでいるこのときを千載一遇のチャンスととらえ、これまでの13年間に貯えたエネルギーをいよいよ爆発させる年です。時期は熟したと思います。今は、ただ爆発のその時を、Xデーに向 かって、それぞれの人が、それぞれの立場で、それぞれの仕事をやり遂げ、そ れぞれの研究テーマーに向かって驀進するのみです。そして、それらの力が融 合し大爆発がおこる、---そんな予感がする、2004年の幕開けです。

 

教室のOBも、昨年は伊藤君がNIHから帰国、名古屋大学の21世紀COE特任助教授として独立し、神経発生の研究を開始しました。また改正君がいよいよ本年4月に横浜のRCAIの研究室をスタートさせます。

中嶋君(大阪市大医学部教授)、松田君(北大薬学部教授)、改正君(RIKEN,RCAI、横浜、チームリーダー)、日比君(RIKEN, CDB、神戸、チームリーダー)、 伊藤君(名古屋大学、21世紀COE特任助教授)ら、独立して研究室を立ち上げ た人たちの研究室から、今年は朗報が届くことが期待できます。また山中君、Lee君らは、カナダやアメリカで大いに活躍し、その研究成果が日本に伝わってきています。藤谷君も最近膵臓のベーター細胞の発生分化の研究で素晴らしい成果を挙げつつあります。引き続き、白銀君、吉田君からも成果が 論文となって登場することでしょう。昨年留学した大谷君、成松君らも元気に留学生活をスタートしたようです。また織谷君、松村君も阪大第2内科、血液腫瘍内科で研究グループを率いて研究成果をあげています。このように腫瘍病理OBの活躍も今年の大きな楽しみの一つです。OBのますますの活躍を祈ります。

教室員一同一致協力して前進したいと思いますので今年もよろしくご指導、ご 鞭撻のほどお願いいたします。

 

2004年が皆さまにとって良き年でありますことを心よりお祈り申し上げます。


2004年1月1日

平野俊夫

 

 

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