将来の進路を迷っている高校生諸君へ

医学研究者へのお誘い!

 

 皆さんの中には、家族や親しい人が、癌や、脳卒中、心臓病あるいは紫斑病のような難病で亡くなったり、あるいは闘病生活に苦しんでいるというような経験をおもちの方があるかと思います。医学が進歩したおかげで、人生50年といわれた昔が懐かしいくらい、今では人生80年があたりまえの時代です。しかし、私たちのまわりには、若くして膠原病や白血病などで死んでいった友達や家族、あるいは幼児を残して卵巣癌や胃癌で死んでいった若い母親や父親が沢山います。死には至らなくても私たちの周りには、重いぜんそくで苦しんでいる友達や、糖尿病を患っている人、あるいはひどいアトピー性皮膚炎で悩んでいる人、慢性関節リウマチで関節が自由にならない人など、これだけ医学が進んだのにもかかわらず治らない病気で苦しんでいる人が沢山います。

 私は、大学の医学部で免疫学や分子生物学の講義を介して、医学部の学生の教育を行う一方で、現代の医学をもってしても治らない病気、例えば、血液の癌や関節リウマチのような難病の原因を明らかにし、その治療法を開発するために必要な実験結果を得るために、たくさんの大学院の学生と毎日研究室で仕事をしています。 

 大学の医学部の教授、あるいは研究者に対して皆さんはどんなイメージをいだいているのでしょうか?私の研究室では朝から夜遅くまで研究に従事している人はほとんどが、25才〜30才くらいの大学院の学生です。あるいは、20才位の医学部の学生もいます。彼らは、ウォークマンを聞きながらそれぞれの思い思いの自由な服装で、時には冗談を言ったり、時には人生を語りあったり、自分がやっている研究結果について討論したり、それはそれは自由に研究を楽しんでいます。おかげで、私もいつまで経っても年をとりません。

 私たちの体を作っているのは、ひとつひとつの細胞です。数えることが出来ない位の多くの細胞が集まって、私達の脳、心臓、肝臓、あるいは手足や胃を作っています。これらの細胞がどのようなしくみで増えたり機能を発揮するのか?これらの細胞はすべてひとつの受精卵が分裂して、その子供の細胞が脳になったり、足になったり、免疫細胞であるリンパ球になります。どうしてひとつの受精卵からこれだけ多種類の顔をした細胞ができるのでしょうか?皆さん、おたまじゃくしを観たことがあるでしょうか?おたまじゃくしがどうしてカエルになるのでしょうか?皆さん不思議に思いませんか? 私達はこのような生命の“不思議のしくみ”を明らかにしようとしています。さらに、病原性大腸菌O157のような病原微生物に対して、体の免疫システムはどのように戦い、私達の体を守っているのでしょうか? これらの体のしくみが、うまくいかなくなった時に、癌が出来たり、リウマチのような病気やアトピー性皮膚炎が起こるのです。ではどのようにしたらこれらの病気を治すことができるのでしょうか? このような疑問に答えるために、皆真剣に研究に取り組んでいます。

 医学部の研究室はまるで水族館であったり、動物園であったり、あるいは、料理教室のようなものです。私達は、ネズミや犬にえさをあたえたり、ネズミや人の細胞を試験管の中で育てたり(培養)しています。そして、時には、色々な試薬を混ぜて(まるで料理でオムレツやケーキを作るようなものです)細胞の働きがどのように変化するかを観ています。そこは、生き物の世界であり、数式の世界ではありません。研究はいつも思う様な結果がでるとは限りません。失敗の連続で、もう研究なんか二度とやりたくないと思うこともあります。ちょうど山登りにもにて、頂上を目指しているときは、どこに目標があるのかわからず道に迷うこともあります。あるいは苦しくて登頂を断念しようと思うこともあります。しかし、山の頂にたった瞬間、目の前に広がる予想だにしなかった素晴らしい別世界を目の当たりにしたときのあの感激を思い出してください。研究の結果、時には、思いもかけなかったような新しい発見をすることがあります。この瞬間は言葉では語り尽くすことはできません。研究者自身が、自分が、世界で初めて新しい事実を発見した、そしてそのことにより世界中の研究者が追い求めていた疑問に答えることができる。さらに原因不明であった病気の原因が明らかになり、最終的には不治の病であった病気が治るようになる。みなさんこのような感激を味わってみたいとは思いませんか?

 医学の研究をしていると世界中の人と友達や知り合いになれることができます。今では、インターネットで毎日世界の研究者と研究結果を討論したり、共同研究についての話し合をしています。そして、世界各地で開催される研究会(学会)に出席し、親交を温めたり世界の各地を訪れる機会が多くあります。皆さんは、世界を視野に入れてそして未来を見つめて大きく羽ばたいて欲しいと思います。そして、その源は好奇心です。カエルの卵がどうしてカエルになるのか?不思議に思いませんか。病気が起こるしくみも基本的には同じです。医学をやってみませんか?癌や難病を治す新しい方法を発見しませんか?すべては、あなたの熱意と不思議に思う素直な気持ちが解決してくれます。

 

 では、どのようにしたら医学研究者になれるのでしょうか?現在私の大学を例にとりますと、以下のような道があります。

1)普通に、医学部の入学試験を受ける(勿論センター試験も)

 これは、いわゆる前期日程で定員は約80名です。

2)後期日程(定員10人)、センター試験を受けたのち、論文試験と面接を受ける。この場合、数学が苦手でもセンター試験程度の数学さえなんとかすれば、論文試験(長文の科学的な英文を読み、それに対して、種々の設問に日本語で論理的に答える)を頑張れば合格できます。

3)学士入学、これはいわゆる編入学試験で定員は10名です。他の学部在籍の人、又は、卒業した人が受けることができます。競争はかなり厳しく、例年全国から、理学部、薬学部、あるいは工学部などの出身の人が受験しています。なかには、文学部や法学部を卒業して合格した人もいます。合格すれば医学部3年次に編入されます。

いずれにしても医学部卒業後は研究をするために大学院医学研究科博士課程に進むことになります。4年の博士課程を終了して医学博士の学位をもらい、いよいよ一人の医学研究者として世界に羽ばたくことになります。たいていの人は2年か3年アメリカなどの大学か研究所に留学してさらに見聞をひろめ研究者として育っていきます。

 以上は、いわゆる医学部受験の道であり、医師免許を取得することができるコースですが、医師免許はいらないが医学研究者になりたい人には、他の道もあります。

1)他学部卒業の後、大学院医学研究科修士課程を受験する。現在、全国で2つの国立大学で実施されています。私の大学では、定員は20人です。2年間で医学修士になり、さらに研究を続けたい人は、4年の博士課程に進めます。

2)他学部の大学院修士課程を修了したのち、医学部の大学院博士課程を受験する。この方法でも多くの人が医学研究の道を志しています。この場合は、試験は英語と専門試験だけです。

 

 いずれにしても、英語の読解力や話す力は大切です。今の国際化社会、どの学部に進むにしても英語だけは自由に使えるようにしておいて下さい。

では、皆さん、いつかお会いできるのを楽しみにしています。


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