我々の研究室では難治性脳腫瘍である膠芽腫に対してCAR-T細胞療法、CAR-NK細胞療法の開発の研究を行っております。CAR-T細胞療法、CAR-NK細胞療法とは免疫細胞の一種であるT細胞やNK細胞を改変し、腫瘍細胞の表面に発現する抗原を認識させて、腫瘍細胞を攻撃する免疫療法であり、特にCAR-T細胞療法は血液腫瘍の領域では実用化され、高い有効性が示されています。
我々は大阪大学血液腫瘍内科と共同で、膠芽腫に対するCAR-T細胞療法、CAR-NK細胞療法の開発を行っており、実用化に向けた試みを行っております。
我々の研究室では手術で採取した検体を用いて、培養細胞を樹立し、それらを用いた動物実験モデル(Patient Derived Xenograft、PDX)を作成しております。
このPDXを用いることで、悪性脳腫瘍の分子生物学的メカニズムを明らかにし、新規治療の開発に向けて研究を行っております。
良性脳腫瘍の一つである髄膜腫は緩徐に進行する疾患で、無症候で発見されれば経過観察を行いますが、増大した際には脳への圧排が生じ、手術が必要となります。経過観察時の自然経過は様々な様式があり、我々は経過観察を行っている髄膜腫の自然経過についての研究を行っており、症例の治療の必要性を予測する研究を行っております。
Carboplatin単剤療法を受ける患者を対象に再発膠芽腫(rGBM)の治療を目的としたマイクロバブル共振子併用時のExAblate 4000タイプ2を使用した血液脳関門(BBB)開放による治療手技の安全性及び実現可能性の確認を評価する臨床研究(登録終了)
本臨床試験では集束超音波装置ExAblate 4000タイプ2を脳腫瘍の治療に応用しようとする試みを行いました。集束超音波はすでに医療機器として、本邦にも導入されており、本態性振戦や一部のパーキンソン病の患者に保険適応となっていますが、近年マイクロバブルの投与下に低周波の集束超音波(FUS)を照射することで、脳腫瘍の治療に応用する試みが世界的に行われています。
本臨床試験では脳腫瘍に対して集束超音波を用いた治療を行う本邦初の試みを行いました。現在登録は終了しておりますが、新たな治療の開発の試みを続けてまいります。
ExAblate 4000タイプ2
治療の一例
当施設ではJCOG脳腫瘍グループ参加施設として、以下の臨床試験に参加しております。
当施設ではJCCG脳腫瘍グループ参加施設として、以下の臨床試験に参加しております。
その他の多施設共同研究として以下の臨床試験を行っております。
近年、腸内細菌は全身の様々な疾患と関与していることが報告されています。脳疾患に関してもうつ病等の精神疾患やパーキンソン病といった変性疾患との関係が報告されており、腸脳相関という言葉で知られています。 また、腸内細菌が産生する代謝産物を介して動脈硬化にも関与し、脳の血管病変である脳梗塞にも影響していると考えられています。 私たちのグループでは脳動脈瘤やその破裂が引き起こすくも膜下出血と腸内細菌との関係について研究を行っており、くも膜下出血患者さんにおける腸内細菌の特徴を世界に先駆けて報告しました(図1)。
また、くも膜下出血の発症直後に生じる急性期脳損傷(EBI)に着目し、基礎的な研究を行い腸内細菌が免疫細胞を介してEBIに関与していることを報告しました。 現在も多くの患者さんにご協力をお願いして人の腸内細菌と脳動脈瘤との関係を研究するとともに、基礎的な実験で脳動脈瘤の発生や破裂、また、破裂時の脳損傷と腸内細菌との研究を進めており、臨床への応用を目指して研究を進めています。
図1 群間比較解析結果 赤がくも膜下出血患者に多い菌を表す。
川端、高垣ら STROKE (2022)
現在、多くの病院で様々な疾患を対象とし臨床情報を収集して解析を行う研究が行われています。
これまでは病院の医師等が手入力で情報を登録しており、その手間と人の手によるミスが問題となっていました。
大阪大学は多施設臨床研究支援としてOCRネット(大阪臨床研究ネットワーク)という安全かつ正確に臨床情報を集約するシステムを有しており、大阪大学神経内科・脳卒中科と協力しこのシステムを脳卒中領域で用いた臨床研究を進めています。
大阪府下の病院群で情報を共有し、今後の臨床に役立つ情報を発信していきたいと考えています。
近年、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現するために、ブレインマシーンインターフェース(以下BMI)の開発が盛んに行われています。BMIとは、人の脳活動を検知し、その信号を機械に伝えることで、身体的制約にとらわれることなく自らの意志や行動を周囲に示すことができるツールで、本システムが実用化されれば、身体的な障害を有する方々の生活の質を向上させることが可能となります。しかし、質の高い脳波信号を検知するには、脳表 もしくは脳内に電極を留置しなければならず、その侵襲性(留置のリスク)が問題となっていました。
この問題を解決すべく、私たちのグループは、大阪大学産業科学研究所の関谷毅教授、大阪大学高等共創研究院の栁澤琢史教授とともに、人の脳血管の中から検出した脳波信号を用いたBMIシステムの構築に着手し、現在も研究を進めています。
なお、本研究はムーンショット型研究開発事業のご支援のもと、さまざまな専門家にアドバイスをいただきながら進めています。
(ムーンショット型研究開発事業HP)
私たちは腰痛や足の痛みを生じる椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの腰椎変性疾患の治療を行っています。同じ手術を行っても、速やかに痛みが軽快する人もあれば、難治性の痛みが残る人もあり、そのような差が生じる原因は特定できていません。私たちは、「腰椎への機械刺激に反応するメカノセンサーというタンパク質を作り出す遺伝子の発現(働き)によって痛みの程度が変わるのではないか」という仮説を持っています。本研究の目的は、腰椎変性疾患の手術で取り除かれる組織を用いてメカノセンサーの遺伝子やタンパク質の発現を調べることにより、痛みの発生のメカニズムを解明することです。
我々は、2012年からプロレス団体に所属する選手の頚椎の定期検診を行ってきました。その結果、選手の頚椎椎体前方に前縦靭帯の骨化によると思われる巨大な骨化病変が高頻度に形成されることがわかった。この骨化病変は加齢とともに増大し、40歳以上の選手の約7割に観られました。選手は技を受ける際に頸部を前屈させて受身をとることが多く、受身を取る際の頚椎前方への機械的負荷が刺激となって骨化病変を生じる可能性が考えられました。今回の研究では、頚椎の定期検診を行っているプロレス団体に所属する選手を対象として、発病前からの定期検診で得られたデータを用いた観察研究を行うことにより、頚椎骨化病変の発症要因を探索し、骨化病変の自然経過や脊髄障害を生じるメカニズムを解明することを目的とします。
黄色靭帯骨化症において、骨化の原因は特定されていません。しかし、骨化病変による脊髄への圧排により重篤な神経症状を呈することがあり、外科治療の適応となります。一方、健常骨において、骨を形成するハイドロキシアパタイト/コラーゲン結晶には部位特異的な配向性があり、その配向の決定に応力感受細胞であるオステオサイトをはじめ、様々な因子が関わるとされます。そこで、病的な骨化と考えられる黄色靭帯骨化における骨配向性とそれを決定する因子を、骨化のみとめない群との比較を通じ検討することで、黄色靭帯骨化症の発症メカニズムを解明することを目的とします。
神経障害性疼痛の発症メカニズムや神経刺激療法の効果発現メカニズムを調べています。脳MRIなどの多様な神経画像検査や神経生理学的検査を行うことで、神経障害性疼痛で生じている脳内の神経回路異常を調査し、痛みのバイオマーカーの開発を目指しています。また、痛みやしびれの多面的な評価にも取り組んでいます。
中枢性脳卒中後疼痛の病変部位の検討
Hosomi et al. Pain Res 2016, 2021
脊髄損傷後疼痛における神経線維の変化
Dong et al. Front Neurol 2023
反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)による皮質興奮性の変化
Hosomi et al. PAIN 2013
神経障害性疼痛における大脳の運動機能領域の変化
Mori et al. Pain Res 2019
視床痛モデルサルにおいて情動系の機能結合が増強
Kadono et al. Sci Rep 2021
神経回路異常による痛み発生機序(仮説)
Hosomi et al. Nat Rev Neurol 2015
末梢神経や脊髄、脳などの感覚に関わる神経系が障害されると、「しびれ」が出現する場合があります。「しびれ」は日常生活に支障をきたすことがありますが、自覚的な症状であるため、これまで十分な評価と治療介入は難しいとされてきました。私たちは「しびれ」の評価とメカニズムに関する研究を行っています。本研究では、主に質問票を用いて、「しびれ」の種類を分別し、その程度を目に見えるようにすることを目指します。