研究の背景

多くの骨系統疾患は、低身長や関節症などを合併し、重症例では胸郭低形成や呼吸機能不全を伴うために長期生存が望めない。成人期には骨変形や脊柱管狭窄による運動機能障害や骨痛などが最大の問題となる。従来、効果の高い治療法はなく、「治らない病気」として対症療法によるコントロールのみが行われてきた。しかし近年、骨形成不全症に対する骨吸収抑制療法や低ホスファターゼ症に対する酵素補充療法など新しい治療法が導入され、根本的な治療の道が開かれた。さらに、疾患特異的 iPS 細胞分化誘導系を利用した病態解析や薬剤スクリーニングなどにより先進医療が開発されつつある。また、骨系統疾患の一部は指定難病として取り扱われることになった。このように、骨系統疾患をとりまく診療環境は劇的に変化している。従って、それに対応して胎児期・新生児期・小児期など各段階のいずれにおいても正確な診断を行い、治療を前提とした臨床情報を共有するためのネットワークの構築は急務であり、産科医、新生児科医、小児科医、基礎研究者の連携は必須である。

研究代表者らは、平成 25 年度までの研究課題「重症骨系統疾患の予後改善に向けての集学的研究(H24-難治等(難)− 一般− 040)」において骨系統疾患の実態調査などを行い、本研究遂行のための基礎を構築してきた。また、骨系統疾患の病態解明や新たな治療法の開発を目的として、iPS細胞研究拠点と連携し、疾患特異的 iPS作製のための患者検体を提供してきた実績を有する。さらに、本研究班の研究者らは、FGFR3関連疾患由来の iPS細胞を利用することにより治療薬候補としてスタチンを見いだしており、今後、非臨床試験、臨床試験を推進していく予定である。また、最近開発された低ホスファターゼ症の酵素補充療法の企業治験および医師主導治験にも関わっており、現在、薬剤承認申請の段階にある。この薬剤については承認後にも市販後調査を踏まえたデータ解析が必要となるため、専門性の高い診療研究チームを作ることが必要である。また、このような新規治療法の効果および有害事象を正しく評価するためには、それぞれの疾患の自然歴を把握することが重要である。

このような背景から、本研究においては、骨系統疾患をとりまく診療環境の変化に対応し、さらに新規治療法の開発および実用化を進めるため、診断基準・重症度分類・治療介入基準・治療終了基準などを組み込んだ診療ガイドラインを策定する。有効な治療法のない疾患群の病態解析および治療法の解析のためには疾患特異的 iPS細胞の作製が重要と考えられ、当研究組織の活動により患者検体の収集を推進する。

2015年08月10日
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