内耳のしくみ

内耳における音伝達の仕組み

外界からの音は、外耳、中耳を通り、内耳蝸牛に達します(図1)。蝸牛の断面図である図2Aを見てください。 この臓器は、三つの管によって構成されています。その中で、上下の二つの管には、通常の細胞外液とほぼ同じイオン組成(150 mMのNa+、5 mMのK+)を示す外リンパ液が入っています。 一方、中央の管には、細胞外液であるにも関わらず、高いK+濃度(150 mM)を有する「内リンパ液」が満たされています(図2B)。 ちなみに、Na+濃度は2 ~ 5 mM、Ca2+濃度は20 µMと低いことがわかっています。 また、外リンパ液を基準とすると、内リンパ液では常に+80 ~ +100 mVの高電位を測定することができます。この電位・イオン環境は、体内で蝸牛にのみ観察されるものです。

感覚細胞である有毛細胞は、感覚毛が分布する頂上膜のみを内リンパ液に、細胞体を外リンパ液に浸しています。有毛細胞は、その下にある支持細胞の層とともに「基底板」と呼ばれる膜状の細胞外基質にのっています。この三要素をまとめて、「感覚上皮帯」と言います。音入力により、まず、基底板が振動を受け、感覚上皮帯全体が揺れます。 次に、有毛細胞の感覚毛が屈曲し、その頂部にある機械刺激感受性イオンチャネルが開口します。 すると、内リンパ液に豊富にあるK+がチャネルを通って有毛細胞に流入し、細胞を電気興奮させます(図2B)。 すなわち、この過程で、“音の機械的(物理的)刺激が電気信号に変換”されることになります。 結果として、神経伝達物質の放出が発生し、神経線維を通じて脳へと音情報が伝わります。

さて、聴力が正常である若者は、20 Hzから20,000 Hz(=20 kHz)の範囲の音を聴き分けることができます。 この“周波数弁別能”の成立には複数の要素が関わりますが、その中で最重要なものの一つをご説明します。図3は、二回転半の蝸牛を伸ばし、中を観察したものです。蝸牛の頂上ほど、低音を感知します。 ここで、感覚上皮帯に含まれる基底板の性状を考える必要があります。基底板は、頂上(低音部)へ行くほど、幅が広く柔らかくなっています。この物理的の勾配が、周波数弁別能に必須の役割を果たしています。その他にもいくつかの仕組みが周波数弁別に関わっています。