胆道とは
胆道とは、肝臓で作られた胆汁が十二指腸に至るまでの経路のことです。胆汁を流すための管である「胆管」、 その途中で胆汁を一時的に貯留しておく袋である「胆嚢」、十二指腸への出口である「十二指腸乳頭部」または「ファーター乳頭」に区分されます(図1)。
胆道がんとは
胆道がんとは、肝外の胆道に発生した上皮性悪性腫瘍の総称で、肝臓外の胆管に発生する「胆管がん」、胆嚢に発生する「胆嚢がん」、 十二指腸乳頭部に発生する「乳頭部がん」に分類されます(胆道がん取扱い規約)。 一方、肝臓内の胆管に発生したがんは肝臓がんとして分類されています。
公益財団法人がん研究振興財団による2015年度がん統計によると、の統計に2014年度の胆道がんによる死亡者数は18,117人で、 これは悪性新生物による死亡者の約5%を占めています。年齢別に見ると胆管がん、胆嚢がんとも60歳代に多く、 男女比は、胆管がんでは1.7:1で男性に多いのに対して、胆嚢がんは1:2前後で女性に多く見られます。
胆嚢がん症例の多くが胆嚢結石を合併していることから、胆嚢結石が胆嚢がんの発生に関与しているといわれていますが、詳細は不明です。 また、膵管胆道合流異常がある場合、胆嚢がんの発生頻度が高くなることが知られています。
胆管がん・乳頭部がん
胆管は直径が5〜10mm程度の細い管状の臓器で、がんが発生すると胆管の狭窄や閉塞が生じ、 胆汁の鬱滞が起こります。この状態が進むと、皮膚や眼球の白い部分が黄色くなる黄疸という症状が現れます。 このような状態を閉塞性黄疸といい、 胆汁に含まれるビリルビンという色素がその原因です。
閉塞性黄疸になると、便の色が白っぽくなったり、尿の色が濃くなったりすることがあります。 また、黄疸の出現とともにかゆみを自覚することもあります。
胆嚢がん
初期の胆嚢がんではがん自体による特有の症状はほとんどありませんが、 胆嚢結石や胆嚢炎に由来する症状がみられることがあります。
病状の進行に伴って、右上腹部に痛みを自覚したり、右の肋骨の下に 腫大した胆嚢を触れたりするようになることがあります。 また、がんの進展によって胆管が狭窄・閉塞すれば胆管がんと同様に閉塞性黄疸になることもあります。
胆道がんでは、初期には自覚症状に乏しく発見は難しいのですが、 診断技術の進歩やスクリーニングの普及により比較的早期に発見される例もみられるようになっています。 胆道がんの診断に用いられる主な検査は以下のとおりです。
血液検査
初期には血液検査で異常が認められることはありませんが、 胆汁の鬱滞が起こると肝臓から排泄されるビリルビンやアルカリフォスファターゼ(ALP)が基準値を超えて高くなってきます。 胆道がんでは、CEAやCA19-9という腫瘍マーカーが上昇することが知られていますが、全ての症例で上昇するとは限らないこと、 また、胆道がん以外の消化器がんなどでも上昇することがあるため、これらは補助的な検査として位置づけられています。
超音波検査
胆管や胆嚢の異常を調べるのに適しており、また、 特別な処置を必要とせず外来で簡便に行うことができます。 閉塞性黄疸の場合には、胆管の閉塞部を知ることができ、 また、腫瘍をとらえることが可能な場合もあります。
CT・MRI
胆管拡張の有無やその原因・部位などを調べることが可能です。 造影剤を用いることにより、 超音波検査ではわからなかった腫瘍をとらえられることがあります。 また、がんの場合には周囲の血管や臓器への広がり具合を知ることができます。 またMRIでは非侵襲的に胆道を描出するMRCPが普及し、 診断に用いられるようになっています(図2)。 また、使用する造影剤の種類は、血管を描出するものと、胆道を描出するものなど、複数あるため、 同じ撮影方法でも、複数回の検査が必要となることがあります。
CTでもMRIでも、複数の造影剤を組み合わせることで、より細かく癌の進展を診断する場合があり、治療前に、何度も撮影する場合があります。
胆道内視鏡検査(胆道造影・胆道鏡),経皮経肝胆道造影
造影剤を胆道に直接注入して胆道を描出する胆道造影検査では、単に造影を行うのみではなく、 胆汁の採取や狭窄部位の生検を行うことが可能です。造影方法には、内視鏡を十二指腸まで挿入し、十二指腸乳頭部から細いチューブを挿入する内視鏡的逆行性胆道造影 (ERC)(図2)と、 皮膚の上から肝臓を通して 胆管に針を刺し造影を行う経皮経肝胆道造影(PTC)(図5)があります。胆道造影で病変と思われる部位の生検を行っても、診断に難渋する場合は胆道鏡を用いた生検を行う場合もあります。
閉塞性黄疸の場合には、 黄疸を軽減する目的で胆汁を体外に誘導するためのチューブを胆管内に留置する対症療法の処置も行います。黄疸は治療前に軽減する必要があり、いずれかの方法で胆汁ドレナージ(内視鏡的経鼻胆道ドレナージ:ENBD(図3)、内視鏡的逆行性胆道ドレナージ:ERBD(図4)、経皮経肝胆道ドレナージ:PTCD、(図5))を行い、黄疸の値を下げる必要があります。この場合、閉塞でチューブの交換や、ドレナージ方法を変更する場合があります。複数のドレナージ方法を併用しても時間がかかる場合もあります。
胆道がんに対する治療には、手術療法、化学療法、放射線療法などがありますが、このうちで根治的治療として確立しているのは手術療法のみです。 したがって、遠隔転移がない場合には手術が第一選択となります。一方、遠隔転移がある場合やがんが胆管周囲の主要な血管にまで広がり手術で取りきることが不可能な場合は、 化学療法や放射線療法が選択されます。
また、治療開始前に黄疸がある場合、前にのべた胆汁の内・外ろうを行って、黄疸を改善してから(減黄)、がんに対する治療を開始することになります(前述の胆道造影 の項を参照してください)。このため、治療開始までに時間がかかる場合があります。
手術療法
胆道がんに対しては手術療法が唯一の根治的な治療法です。 このため当科では、明らかな遠隔転移を有するような症例を除いては、 根治性を追求した外科的治療を積極的に行っています。
肝臓を切除する場合には、手術後の肝臓の機能を担保するために、経皮経肝的門脈塞栓術(PTPE)を行って、手術の後にのこる予定の肝臓を大きくしてから手術を行う場合があります。この場合、手術までに約1月程度の期間がかかります。
(1) 胆管がんに対する手術療法
病変を含めて可能な限り広範囲な胆管とともに、 がんが転移しやすい胆管周囲のリンパ節を一塊にして切除することが原則です。肝門部・上部胆管がんではがんが肝内胆管にまで広がることが多いため、 肝臓を同時に切除する必要があります。一方、遠位胆管がんでは、多くの場合、 膵臓の一部と十二指腸を同時に切除する膵頭十二指腸切除術が必要となります。また、肝臓や胆管、リンパ節へのがんの広がり具合によっては、 肝切除と膵頭十二指腸切除を同時に行う場合もあります。
(2) 胆嚢がんに対する手術療法
胆嚢がんに対する手術術式は、がんの進行度によって大きく異なってきます。 病変が胆嚢の粘膜内に留まっているような初期の場合には、胆嚢を切除するだけで根治性が得られます。一方、がんが粘膜を越えてくると、肝臓、胆管、十二指腸などの周囲臓器に広がったり、リンパ節に転移したりすることがあります。このような場合、胆嚢に加えて胆管、肝臓、膵臓・十二指腸などを同時に切除し、リンパ節を切除する術式を選択することになります。
(3) 乳頭部がんに対する手術療法
乳頭部がんに対しては、一般的には膵頭十二指腸切除が選択されます。 腫瘍が乳頭部に限局している場合や高齢者などのhigh risk症例に対しては乳頭部の局所切除も行いますが、術後早期に再発した症例が報告されており、 慎重に適応を判断する必要があります。
当科における胆道系手術件数推移
当科における胆道癌手術成績
化学療法
胆道がんに対する抗がん剤としては、他の消化器がんで用いられる 5-FU、シスプラチン、アドリアマイシン、近年保険適応となった塩酸ゲムシタビン、S-1(ティーエスワン®)などがあります。切除による治療が困難な場合や切除後に再発した症例にたいしての標準的な治療法は塩酸ゲムシタビンとシスプラチンの併用療法と考えられています。また、切除の前や後の補助化学療法に関しては、胆道癌では有用性が占められていません。そのため、当科では臨床試験の一環として、術後の補助化学療法を約半年間行っております。
また、外科的に切除困難とされる症例に対しても、一定期間の化学療法を行い、腫瘍の縮小が得られたのちに積極的に切除を行う場合もあります。
膵臓がん、胆道がん、肝細胞癌がんに対する化学療法は、抗癌剤治療専門のチーム(先進癌薬物療法開発学グループ)とも協力・相談しながら診療を行います。先進癌薬物療法開発学グループの診療内容のページもご参照ください。
(https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/gesurg/consultation/develop/liver_biliary_tract_pancreas.html)
放射線療法
胆管がんに対する放射線療法には、体の外から放射線を照射する外部照射と、 胆管内に留置したチューブを通してラジウムやイリジウムの針を送り込み、病変部に照射する 腔内照射があります。当科では、切除による治療は困難だが、遠隔転移のない場合に化学療法と併用して行うほか、切除後断端に癌の遺残が考えられる場合に放射線照射を追加する場合があります。これらの場合、治療期間は約1月から2月程度かかります。
治験について
標準治療による治療が困難な場合などに、治験という方法で新しい治療方法を受ける事ができる場合があります。当科と連携している治験については以下も参照してみてください
(https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/gesurg/trial.html)
肝葉切除を伴わない胆道癌切除例を対象としたゲムシタビン/シスプラチン(GC)併用療法とゲムシタビン/S-1(GS)併用療法の術後補助化学療法のランダム化第Ⅱ相試験(UMIN臨床試験登録000036449):登録中
胆道がんは切除が唯一の根治療法ではありますが、さらなる治療成績向上を目的として、術後の補助化学療法の必要性が考えられています。 しかしながら、手術後に、どのような抗癌剤(塩酸ゲムシタビン、シスプラチン、S-1)を投与したら補助化学療法が完遂できるかはわかっていません。 この臨床研究は大阪大学胆道癌治療研究会を中心に胆道癌の治癒切除後に抗癌剤を異なる方法で投与し、その治療効果などを比較する試験です。
局所進行切除不能胆道癌に対する放射線化学療法(UMIN臨床試験登録000001206):限定登録中
切除が不能である胆道がんに対しては、 化学療法単独による治療法より、放射線と化学療法の組み合わせによって、より治療効果が挙げられる可能性があります。 この臨床試験では塩酸ゲムシタビンと放射線の組み合わせにより治療を行い、その安全性と有効性を確認します。
胆道癌におけるFDG-PETの有用性に関する研究:試験終了
PETは陽電子放出核種を用いて生体内の生理機能を画像化する検査ですが、 FDGが糖代謝の亢進しているがん細胞への取り込まれることを利用して、がんの存在を知ることが可能です。 保険診療開始前から研究として行っており、リンパ節転移を予測できる可能性について報告してきました。現在は、保険診療として行っております。
切除不能胆道癌に対するGEM/CDDP/S-1とGEM/CDDPを比較するランダム化第Ⅲ相試験(UMIN臨床試験登録000014371):試験終了
病理学的リンパ節転移を認める進行胆道癌に対するGEM/Cisplatin/nab-PTX療法の第I/II相試験(UMIN臨床試験登録000029490):登録中
切除が困難な胆道がんの場合、現時点では塩酸ゲムシタビンとシスプラチンの併用による化学療法が標準治療となっています。しかし、より治療成績を向上させるためは、より有効な新しいお薬(抗がん剤)および新しい治療法(抗がん剤の組み合わせ方法や投与方法など)の開発が不可欠であると考えています。
現在まで、関西肝胆道オンコロジーグループの多施設共同研究で、標準治療であるゲムシタビンとシスプラチンにS-1を加えた3つのお薬を組み合わせて新しい治療法を開発臨床試験を行ったところ、良好な成績でした。
現在、膵癌で非常に効果があることが証明されており、胆道がんに対しても効果が期待されるnab-PTXを標準治療に加えて投与する方法の臨床試験を行っています。海外では胆道癌に対して大きな効果が示されている治療法であり、リンパ節転移を認めている再発率の高い症例に対して治療を行います。この臨床試験では、使用するnab-PTXが胆道癌に対して保険収載されていませんので、われわれの校費または研究費でまかなうこととしています。これら3つのお薬を組み合わせた新しい治療法は、あなたの病状に対して効果が期待できる治療法であると考えています。