センターの目的

設立の背景

少子化が進む一方で、不登校や引きこもり、また少年による凶悪な犯罪など、21世紀日本の最大の社会的課題の一つは子どものこころの問題であるといっても過言ではありません。とりわけ、自閉スペクトラム症、注意欠如/多動性障害 (ADHD)等の発達障害を持つこどもは、近年その頻度が高いことがわかってきました。これらの子どもたちは、個々のニーズに応じた教育がなされないと学校で落ちこぼれていきやすいこと、また適切な対応がなされないと大きなこころの負担をかかえながら社会生活をおくることが多いと言われ、そのことが思春期・成人期における不適応や「引きこもり」、「抑うつ」、「犯罪行為」等の二次障害につながる可能性があることが知られております。このように、子どものこころの問題を考える時に、発達障害児の適切な療育・教育は欠かすことができません。

ところが、発達障害の病因に関してはまだ不明の点が多く、生物学的指標もないことが、教育・療育上の大きな支障となっております。子どものこころの問題の原因を科学的かつ学際的に探るためには、臨床家と分子生物学や神経画像等発達障害の研究に必要な技術に卓越した基礎研究者の連携が欠かせません。このような経緯で、平成18年4月、文部科学省の支援のもとに、大阪大学と浜松医科大学の連携協力により『子どものこころの発達研究センター』による教育研究事業がスタートしました。

この事業は大阪センター・浜松センターの両者により担われ、平成20年度から金沢大学、千葉大学、鳥取大学、さらに平成26年度からは福井大学、弘前大学が参画し、7つの大学の連携により得られた成果に基づいて新たな教育・療育方法を開発していくことを究極の目的としております。大阪センターでは主として、子どものこころの障害の分子機序の解明とその治療法の開発を目指します。

事業の概要

大阪大学の取り組み

  1. 学際的研究システムの構築: 基礎(分子生物学者、神経生理学者)と臨床(医師、教育者、臨床心理士等)が一体となった研究システムを構築します。
  2. 分子生物学的探索:新しいマイクロアレイ技法を導入した、革新的なこころの問題の診断技術、発達障害、統合失調症、感情障害の感受性遺伝子とタンパク質の解析。
  3. 環境が発達障害に及ぼす影響の探索:現代社会におけるストレスや環境の変化、とりわけ質の悪い睡眠が発達に及ぼす影響について疫学、分子生物学、生理学的検索により追求します。
  4. 画像研究:機能的MRI、近赤外線分光法(NIRS)などで行動異常の基礎をなす脳活動を解析し、神経解剖学的異常を探索します。
  5. 動物モデル解析部門:疾患に関連する個々の遺伝子の機能を遺伝子改変モデルで解析します。
  6. 疫学的追跡調査と専門家育成:特別な支援を要する子どもたちがどのくらいの頻度で存在するのかを検索し、現実的なニーズに応じて専門家を養成します。
  7. 地域ネットワーク支援:民間支援団体や自治体等地域とのネットワーク作りの支援と早期発見システムの構築などを行っています。

大阪大学医学部附属病院に「子どものこころの診療センター」を設置し、専門的診療及び子育て支援の場を設けると同時に、臨床研究を行うことになりました。発達障害児の教育・療育に関しては家庭・学校や福祉との連携が欠かせませんが、大阪大学では、平成17年から医師、公立学校の教諭、一般市民向けの、発達障害に関する講演を行っています。平成18年度からは、堺市との受託研究として、発達障害の疫学調査、発達障害の療育支援、就労促進のための啓発活動、発達障害診断法の開発を行っています。

子どものこころの専門家育成をめざして

当センターでは、医師、看護師、基礎研究者、臨床心理士、教師等職種を超えて「子どものこころの専門家」育成を目指しています。
<研究者の育成>
大阪大学、金沢大学、浜松医科大学、福井大学、千葉大学からなる連合大学院を設立して、共通カリキュラムを作成し、遠隔講義や、共同実習を通じて専門家を育成します。
<専門家の育成>
大阪大学医学部附属病院内の「親と子の発達相談外来」を専門医や看護師にとっての実習の場といたします。
<啓発活動>
各自治体と共催で、子どものこころの問題の捉え方や対処方法に関するセミナーや講演会を行い啓発活動に努めます。研究成果は、シンポジウムや講演セミナーの形で一般市民に講演します。