センター長ご挨拶

 

いかなる社会においても、最も大きな課題の一つは、子どもを心身ともに健やかに成長させることです。少子化に有効な対策がない日本において、ゲームやネットに耽溺する子どもや、「小1プロブレム」というフレーズで言い表されているように学校で落ち着きがなく集団行動ができない子どもが増え、いじめを苦にした自殺や青少年の凶悪犯罪も頻繁に報道されています。このような「子どものこころの問題」を科学的視点により解決することを目指して、大阪大学医学系研究科と浜松医科大学が文部科学省連携融合事業「子どもの心の発達研究センター」をスタートさせたのが平成18年度、平成20年度より金沢大学が、平成23年度からは、福井大学、千葉大学が、平成26年度からは弘前大学、鳥取大学がこの事業に参加して、現在は7大学での研究・教育活動が進行しております。このセンターでは、臨床/基礎医学、心理学、教育学等の異なる背景を持つ専門家が協働して、子どもの心の問題の深底に潜む脳の働きの変化に対して、脳科学という共通の視点からアプローチしていきます。

阪大病院ではセンター開設と同時に「親と子どもの発達相談」外来を新設して、高度専門性を備えた医師と心理士の協働によって子どもの支援を行っています。 発達の軌跡には環境要因が強い影響を与えますが、母親との健やかな愛着形成を促し、子どもの問題行動への対処方法を指導するなど、効果的な養育者支援法を開発しております。また千差万別の子どもの課題に対応する教育手法を研究開発し、妥当性を検証しております。さらに、平成28年度には、発達やこころの問題を抱えた子どもの成人期への移行や、思春期以降に明らかになる症例への対応のため、病院内に「子どものこころの診療センター」が開設され、小児科と神経科・精神科が連携して、子どもから成人まで長期的な支援が可能な体制を整えています。

センター内で蓄積されたノウハウを展開すべく、池田市や堺市を初めとする自治体において地域ネットワークの構築にも力を入れております。基礎的な研究では、発達障害を引き起こしている遺伝子群、タンパク質群の同定を行い、生物マーカーの開発に取りくんでいます。またこれらの遺伝子/タンパク質の群制御法の開発による新規根本的治療薬の開発を目指します。開設以来の5大学の成果については、各々のホームページをご覧ください。

今後とも、学際的見地に立脚した「子どものこころ」に関する教育研究を5大学で協力して推進して参りますので、どうぞご支援のほど宜しくお願いいたします。

大阪大学大学院連合小児発達学研究科
「子どものこころの分子統御機構研究センター」
センター長 片山 泰一