あけましておめでとうございます。
旧年中は大変お世話になり有難うございました。
あたらしい年を迎えて、みなさまそれぞれの思いを秘めて、あたらしい年に想いをはせておられること思います。
1990年に医学部付属バイオメディカル教育研究センター腫瘍病理としてスタートした平野研も、今年の3月で満15周年を迎えます。教室の元スタッフの中嶋君、松田君、改正君、日比君、伊藤君はすでにそれぞれの研究室をもち活躍中です。また織谷君、松村君、草深君など、多くのOBがそれぞれの研究室で頑張っています。現在、山中君、李君、大谷君、白銀君、藤谷君、吉田君、成松君の7人が海外の研究室で研究活動を続けています。腫瘍病理本体は、現在、生命機能研究科免疫発生学教室となり、石原助教授、山下君がスタッフとして、村上君は腫瘍病理の助教授として、多くの大学院生の指導に当たっています。引き続き、増田さん、久保田さんが秘書業務を担当、池谷さん、林さん、土山さんがテクニカルスタッフとして研究活動を力強く支えてくれています。特記すべきことは、昨年4月1日より横浜市鶴見に理化学研究所、免疫アレルギー科学総合研究センター(RCAI)が完成し、我々の教室から、深田君、西田君、熱海君、上村君、北村君、山崎君らと、大学院生の加峰君、伊東君らが横浜に移動したことです。また横浜には、菊池さん、北条君、石倉さん、伊藤さんらのテクニカルスタッフと秘書の志村さんを迎えたことです。さらに4月1日からテレビ会議システムを導入して、阪大と横浜の研究室が、月曜日のセミナーはもちろんのこと、土曜日の研究報告会、毎日の研究の打ち合わせを一体となり行い、非常によい成果を挙げていることです。このように、15年まえ、中之島の旧蛋白研の研究室からスタートした腫瘍病理教室は、物理的、精神的に自己増殖を繰り返し、本体は医学系研究科腫瘍病理、生命機能研究科免疫発生、理研免疫アレルギー科学総合研究センターサイトカインチームと拡張し、OBは、北は北大から、南は神戸の理研発生再生科学総合研究センターまで、また海外へと、その活躍の場を広げています。研究の内容も、単なる免疫教室というよりは、免疫、発生、がん、再生医学、血液学、など広く生命科学をカバー、シグナル伝達研究を基本に、細胞の運命決定機構を解明するという精神はいよいよ健在であると思います。このような背景で、今年3月26日には、腫瘍病理発足の地である中之島に、昨年4月に完成した阪大中之島センターにて、15周年公開シンポジウムを開催します。講演者13人全員が腫瘍病理OBか現役で構成されている非常にユニークな試みです。プログラムはホームページにすでに掲載済みですので一度ごらんください。またシンポジウム終了後、阪大中之島センター交流サロンにて初めての同窓会を開催しますので、皆様ふるってご参加ください。また第1回平野論文奨励賞(注釈)の授賞式も開催します。
研究のほうは、山下君、宮城さんらにより大きなブレークスルーを成し遂げることができました。腫瘍病理の研究方向だけでなく、生命科学に大きなインパクトを与える研究成果です。亜鉛欠乏は免疫不全、成長障害、神経系の異常など、さまざまな障害を引き起こすことが知られています。事実亜鉛要求性の蛋白は300種、亜鉛要求性の転写因子も多数存在します。私たちのインターロイキン6を中心としたサイトカインシグナル研究プロジェクトにより、原腸陥入、創傷治癒、がん転移などに関与する、上皮ー間葉系変換 (EMT)の機構に、亜鉛トランスポーターが重要な役割を果たしていることが明らかになりました。我々の研究は、現在あまり注目を浴びていない亜鉛による生体機能調節研究領域の新たなる発展の起爆剤になると考えています。亜鉛トランスポーターの発現制御機構、亜鉛トランスポーターによる細胞内亜鉛濃度調節機構、亜鉛による免疫応答、発生過程、がん転移の制御機構の解明など、亜鉛を中心とした、新しい生命科学の創設に全力を挙げる覚悟です。これらの研究成果は、インターロイキン6受容体の点変異と関節リウマチ様自己免疫疾患の発症機構の研究にも寄与するものと考えています。引き続きインターロイキン6を規範としてサイトカインの作用機構を明らかにするとともに、亜鉛シグナルの分野で世界を牽引したいと考ています。亜鉛の細胞内輸送機構、亜鉛と癌転移機構、亜鉛と免疫応答、亜鉛トランスポーターの発現制御機構、亜鉛トランスポーターの欠損マウスの作成に関して、山下君、宮城さん、加々良君、横浜の深田君、北村君、西田君、山崎君、加峰君、伊東君らが総力を結集して全力投球します。またマスト細胞の脱顆粒現象の基本的なデーターの集積を、西田君、山崎君、加峰君、伊東君らを中心にして行うとともに、この分野では未踏のテーマである脱顆粒とマイクロチュブールとの関係を明らかにするとともに、この現象に関与している分子の同定を開始し、すでに有望な分子を同定することに成功しています。gp130シグナルとサイトカインシグナル全般に関する研究は、村上君らを中心にメモリーT細胞の生成、維持機構、ホメオスタテック増殖の機構、活性化T細胞の生存機構、樹状細胞の成熟機構の研究、そして、これらにおけるインターロイキン6の重要性の発見により、インターロイキン6、およびインターロイキン6ファミリーの免疫応答における役割の重要性が再認識されつつあります。また、MHCクラスII分子の細胞内輸送の機構に関して、加門君らにより世界をリードしうる可能性を秘めた新たな知見を得ることができました。引き続き、北村君、加門君、川辺君、金さんらにより更なる発展を目指します。gp130シグナル変異による自己免疫疾患の発症機構の研究も澤君、中川君、植田さん、沢君、八田君らにより着実に基本を押さえつつあります。またメモリーT細胞の研究も上村君、Khiong君らにより更なる発展が期待されます。RCAIではENUによる変異マウスを使用した免疫関連遺伝子の探索、特にマスト細胞による脱顆粒現象(西田、山崎、加峰、伊東、菊池)、樹状細胞におけるMHCII分子移動(北村、深田、伊藤、北条)に関与するミュータントのスクリーニングとその原因遺伝子の同定、gp130変異と相乗効果を示すENUミュータントマウスの探索(上村、深田、北村、石倉、北条、伊藤)、と原因遺伝子の同定を中心に研究がすでに開始され、現在順調にスクリーニングが進行中です。今年は有望なミュータントが見つかることが期待されています。さらに、以上のすべての研究成果をもとに、石原君、山下君、野村君らにより、ヒトの関節リウマチの原因因子の研究が本格的にスタートしたことです。最終ゴールは、まだまだ先ですが、以上に述べたサイトカイン研究のいろいろな角度からの基礎研究をさらに発展させていくことにより、gp130が関与している自己免疫疾患の発症機構の解明に至ると信じています。さらに研究室 として最大の成果は、gp130シグナルの研究、Gabファミリーを中心とした脱顆粒の研究、ゼブラフュシュの原腸陥入の研究、これら一見何の関係もないかに見える研究が、実は、サイトカインシグナルによる、MHCクラスII分子などの物質の細胞内輸送、細胞極性の決定、細胞骨格の再編成、細胞運動、さらには上皮ー間葉系変換 (EMT)という細胞生物学全体における魅力的な研究課題のキーワードで密接な関連を有していることが実験結果として具体的な姿を現しつつあると いう点です。そしてバイオロジーとしては、それぞれの研究テーマーが、自己免疫疾患、アレルギー、からだのかたちつくり、癌転移、再生医学と密接な関係があると言う点です。そして、目の前に未踏の亜鉛の世界が展っているという<ぞくぞくする>ような現実があります。
高浜虚子の句に<去年今年(こぞことし)貫く棒の如きもの>という有名な句があります。一夜明ければ確かに暦は新しい年を迎えます。しかし、一晩寝ただけで世の中が変わるはずもありません。現在の一秒一秒は、過去の一秒一秒の、そして明日の一秒一秒は、現在の一秒一秒の積み重ねの結果です。我々の人生や研究には、なにか一本貫いたものがあるはずです。腫瘍病理の<物事の本質を見極める>という理念、<世界に羽ばたく>という志は、年が変わっても不変です。腫瘍病理の現役の皆さん、OBの皆さん、腫瘍病理の理念と志を忘れずに、研究に、人生に、仕事に、驀進してください。
2005年、今年は、腫瘍病理教室、免疫発生教室、理研RCAIサイトカインチームはさらに発展します。これまでの15年間の成果を世界に問いかけます。時期は熟したと思います。それぞれの人が、それぞれの立場で、それぞれの仕事をやり遂げ、それぞれの研究テーマーに向かって驀進するのみです。そして、それらの力が融合し生命科学に新風をおこす、---そんな予感がする、2005年の幕開けです。
教室員一同一致協力して、<物事の本質を見極める>という理念と、<世界に羽ばたく>という高い志をもって一歩一歩前進したいと思いますので今年もよろしくご指導、ご鞭撻のほどお願いいたします。
教室員一同一致協力して前進したいと思いますので今年もよろしくご指導、ご 鞭撻のほどお願いいたします。
2005年が皆さまにとって良き年でありますことを心よりお祈り申し上げます。
平成17年元旦
平野俊夫
(注釈)平野論文奨励賞:一件10万円、毎年1月から12月までの間に掲載された論文の中から優秀な論文を1−2件選び、一件あたり10万円の奨励賞を贈る。
対象:阪大腫瘍病理/免疫発生、北大松田研、RCAI改正研、RCAI平野研、名古屋大伊藤研、大阪市大中嶋研、CDB日比研からの論文、その他独立した研究室を持たない腫瘍病理OBが関与している論文で、OBが第1著者か、corresponding authorである論文(ただし国内研究機関に限る)
論文のレベル:J. Exp. Med., EMBO J, J. Cell Biol. Dev Cellなどの雑誌相当かそれ以上のレベルの論文を対象とする。該当する論文がない年度は授賞を見送る。
応募:2月15日までに平野までメイルで論文の内容を報告、さらに別冊かPDFファイルを印刷したものを郵送する。
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