大阪大学医学部 脳神経外科

対象疾患

神経機能疾患

運動異常症

パーキンソン病

振戦(ふるえ)、筋強剛、無動、姿勢反射障害を主症状とします。原因不明の病気ですが、脳内のドーパミンという物質が減少してしまう病気です。よってドーパミンまたは類似薬を投与することで症状の改善がみられます。内服治療で症状の改善が得られにくくなって来ると手術治療が必要になることがあります。
【治療】脳深部刺激術、集束超音波破壊術(振戦)、定位的破壊術

本態性振戦

振戦とは筋肉が意識とは無関係に収縮と弛緩を一定のリズムで繰り返すことによって起こる体の震えのことです。振戦は主に上肢に生じますが、頭部や声、体幹、足に生じることもあります。内服治療だけでは十分に震えが抑制できず、日常生活に支障をきたす場合は、集束超音波や手術による治療を検討します。
【治療】集束超音波破壊術、定位的破壊術、脳深部刺激術

ジストニア

ジストニアは筋肉に勝手に力が入ってしまい、思い通りに動かせなくなる病気で、顔面、頚部、手、足から全身まで様々な部位に生じます。内服治療の効果が乏しい場合は、症状にあわせて手術やボツリヌス毒素による治療を検討します。
【治療】脳深部刺激術、定位的破壊術、ボツリヌス毒素治療

脳深部刺激術

脳の深い部分に刺激用の電極を植え込み、胸部や腹部の皮下に刺激装置を植え込みます。持続的に脳を電気刺激することで運動症状を改善することができます。

集束超音波破壊術

体外から多数の超音波を照射し、脳内の一箇所に集めることで熱を発生させて、脳組織を熱凝固させる治療方法です。主に振戦の治療に使用されています。彩都友絋会病院との協力で行っています。

定位的破壊術

定位凝固療法とは、脳の深い部分に熱凝固用の電極を挿入し、熱を発生させることで標的を熱凝固させる方法です。脳深部刺激術と同等の効果が期待できます。体内に装置を植え込むことなく効果が得られることが特長です。

てんかん

大阪大学におけるてんかん外科の特徴

脳神経外科は小児科、放射線科、精神科、神経内科、臨床検査部、放射線部、患者包括サポートセンターと協力し、大阪大学医学部附属病院てんかんセンターとして診療を行っています。

大阪大学医学部附属病院てんかんセンターは大阪府のてんかん支援拠点病院・包括的てんかん専門医療施設であり、協力施設との合同カンファレンスを行っています。

てんかん診療に必要な多角的な検査を行なっています。

  • 神経心理学的検査
  • 電気生理学的検査:脳波、脳磁図[図1]、長時間ビデオ脳波
  • 画像検査:MRI、核医学検査(FDG-PET, SPECTなど)
  • 電気生理学と画像を融合した検査:脳波-fMRI同時計測[図2]
  • 神経機能検査:脳磁図、ワダテスト
  • 頭蓋内電極による検査:定位的頭蓋内電極留置[図3]
    または開頭による頭蓋内電極留置[図4]後、
    詳細なてんかん焦点の同定、脳機能局在の同定[図5]

ナビゲーションシステム、外視鏡を用いた安全で低侵襲な手術[図6]

図1 脳磁図(脳モデルに表示)

図2 脳波fMRI同時計測

図3 定位的電極留置

図3 定位的電極留置

図4 硬膜下電極留置

図5 頭蓋内電極を用いた詳細なてんかん焦点の同定

図5 頭蓋内電極を用いた脳機能局在の同定

図6 ナビゲーションと外視鏡

当科におけるてんかん手術件数実績

てんかん手術件数1998から2018(総件数)20192020202120222023
てんかん焦点切除術1971518231520
├ 側頭葉てんかん86681237
└ 側頭葉外てんかん111910111213
頭蓋内電極留置術110107121611
├開頭による硬膜下と深部電極留置10876564
└定位的電極留置 (SEEG)2317107
脳梁離断術4241443
離断術(半球離断、後四半球離断など)3301110
ラジオ波凝固術900100
迷走神経刺激装置留置術508761316
├新規3474589
└ジェネレータ交換1613157

難治性疼痛(神経障害性疼痛など)

感覚を担う神経系の障害によって起きてくる痛みが神経障害性疼痛です。
代表的なものとして、中枢性脳卒中後疼痛、脊髄損傷後疼痛、腕神経叢引き抜き損傷後疼痛、幻肢痛、脊椎手術後に残る脊髄症や神経根症(脊椎手術後症候群)、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性末梢神経障害性疼痛、その他の末梢神経障害による痛みなどがあります。
神経系の障害は完全に回復することが難しいことが多く、しばしば治療に難渋します。

怪我や炎症による痛み(侵害受容性疼痛)の時とは異なる神経障害性疼痛用の治療薬がまず用いられます。
その他、病状に応じて、外科治療、神経ブロック、心理療法、運動療法、集学的治療などがあります。

難治性疼痛に対する治療

薬物治療が無効な場合に病状に合わせて以下の神経刺激療法(ニューロモデュレーション療法)や脊髄後根侵入部破壊術を行っています。
脳神経外科は疼痛医療センターの一員として、他科とも連携して診療にあたっています。

脊髄刺激療法

脊髄背側の硬膜外腔に電極を挿入して、脊髄を刺激することで痛みを和らげる治療法です。一時的なテスト刺激で効果があった場合、刺激装置の植え込みを行います。
当院では様々な刺激パターンをテストして効果判定を行っています。また、手術は局所麻酔で行い、必要最小限の皮膚切開で植え込みをしています。

脊髄刺激療法

脊髄後根進入部破壊術

腕神経叢引き抜き損傷後疼痛など特定の痛みに対して行われ、特に電撃痛に効果的です。

脊髄後根侵入部破壊術
Kimoto et al. J Neurosurg Case Lessons 2022

非侵襲脳刺激

当科では、外科治療だけでなく、皮膚を切らずに痛みを緩和する新規治療法の研究開発を進めています。非侵襲脳刺激は、体外から電気や磁気、超音波などで脳を刺激する体への負担の少ない手法です。

反復経頭蓋磁気刺激

低出力経頭蓋集束超音波刺激
Lee et al. Sci Rep 2015

痙縮(けいしゅく)

痙縮は、脳卒中や頭部外傷、脊髄損傷、脳性麻痺など、中枢神経の障害によって引き起こされる麻痺の一種です。
痙縮が起こると、麻痺が生じた手や足の筋肉が徐々に硬くなったり、勝手に手足が震えたりもします。この様な状態が続くと、筋肉や関節が固まってしまったり、痛みなどを起こしたりします。
痙縮に対する治療は、一般的には飲み薬やリハビリテーションを行いますが、これらの治療では十分な効果が得られない場合には、筋肉へのボツリヌス毒素による注射療法や外科的治療により症状を緩和させることができます。

バクロフェン髄腔内持続投与療法
(ITB療法)

バクロフェンは脊髄に働き余分な筋肉の収縮を抑制させる薬です。
ITB療法では脊髄が入っている随腔内にカテーテルを留置し、腹部に植え込んだポンプから持続的にバクロフェンを投与し痙縮症状を緩和することができます。

顔面けいれん・三叉神経痛・舌咽神経痛

顔面けいれん

顔の片側の筋肉が自分の意思とは関係なく収縮を繰り返す病気です。典型的には目の周囲の筋肉から始まり、次第に口の周囲に広がっていきます。 一般的には中年以降にみられる病気で、ひどくなると、目が開けられなくなり日常生活に支障をきたします。顔面神経が脳から出てくる部分を血管が圧迫することが原因です。
治療法にはボツリヌス毒素の注射と血管の圧迫を取り除く手術(微小血管減圧術)があります。ボツリヌス毒素はおよそ3カ月おきに注射が必要です。

三叉神経痛

片側の顔面に数秒から数十秒続く発作的な激痛(電撃痛)を繰り返します。痛みは顔の感覚を担っている三叉神経の領域に生じます。 顔に触れたり、会話や食事などで、痛みが誘発されることがあります。典型的三叉神経痛では、三叉神経を血管が圧迫することで起きてきます。
治療法には、内服薬、微小血管減圧術、神経ブロック、ガンマナイフがあります。多くの場合、カルバマゼピンという内服薬が効きますので、まず内服薬での治療が行われます。
薬物治療が無効な場合、そのほかの治療が適応になります。

舌咽神経痛

三叉神経痛に比べて稀ですが、舌咽神経を血管が圧迫することで起きてきます。片側の喉の奥や舌の後ろの痛みで、耳に広がる場合があります。 三叉神経痛と同様に発作的な激痛を繰り返し、飲み込みなどの特定の動作で誘発されます。
三叉神経痛に準じた治療が行われます。

微小血管減圧術

血管が脳神経を圧迫して顔面けいれんや三叉神経痛、舌咽神経痛を起こしている場合に行われます。
耳の後ろから開頭して、顕微鏡の下で血管による圧迫を除去する手術です。
当院では、術前に詳細な画像検査を行って、血管と脳神経などの位置関係を立体的に把握して手術計画を立てています。
手術中には、聴神経などの神経機能モニタリングを行ったり、脳血管の血流の確認をしたり、より操作性の高い外視鏡を用いたりして、手術成績の向上に努めています。

術前3D画像

外視鏡

術中脳神経モニタリング

小脳動脈が三叉神経を圧迫
Iwata et al. J Neurosurg Case Lessons 2023

脳神経を圧迫していた血管を移動

術中血管描出撮影

黄:三叉神経、 赤:前下小脳動脈、 緑:上小脳動脈、 青:錐体静脈