頭蓋頚椎移行部から全脊椎脊髄、末梢神経にいたる幅広い疾患を対象としております。
病態や症状に応じて、保存治療あるいは手術治療を行います。手術加療を行う場合、病態を考えて術式を決定しますが、安全に行うことを前提とした上で、侵襲度の低い治療法を選択するように心がけております。
また、いずれの疾患も、症状のみならず、患者さんの年齢や社会的背景を考えて、手術を行うか、またどのような術式を選択するかを相談させていただきます。
第1頚椎(環椎)と第2頚椎(軸椎)がずれ、不安定になる病気です。関節リウマチの患者さんに生じることが多いですが、リウマチがなくても、加齢、外傷(歯突起骨折)、環軸椎癒合症、歯突起後方偽腫瘍、ダウン症、モルキオ病などにも生じます。
後頭部や後頚部の痛みから四肢のしびれ、運動障害まで、病状の進行により様々な症状をみとめます。脊髄の圧迫や不安定性が軽度の場合、頸椎カラーなどによる保存治療を行いますが、重度の場合、インプラント(金属)と骨移植を併用した固定術を行います。
脳底面の大後頭孔あるいは大孔という部位に小脳の一部がはまりこむ病気です。その程度によって、延髄を圧迫したり、髄液還流障害から、脊髄に空洞を生じたりします。くしゃみやいきんだ際の頭痛、後頭部痛が代表的な症状ですが、空洞症がすすむと、背部や両上肢のしびれ、運動障害が生じることがあります。また、延髄の圧迫が強い場合、嚥下障害、構音障害や睡眠時無呼吸症候群を発症することもあります。症状が軽微な場合は経過観察となりますが、重篤な場合は、減圧を目的として後頭骨の一部を削ったり、硬膜形成を行ったりします。空洞症が改善しない場合、空洞にチューブをいれる手術(空洞―くも膜下腔シャント術)を行う場合があります。
加齢により椎間板が変性すると周囲の椎体にも変形がすすみ、脊柱管が狭くなります。主に脊柱管の中央部分(脊髄)を圧迫すると、両手のしびれや巧緻運動障害(細かい動作がしづらくなる)、四肢運動障害や歩行のバランスが悪くなるなどの症状(頚椎症性脊髄症)を生じます。また、脊柱管の外側や椎間孔とよばれる神経根の通り道を圧迫すると、上肢のしびれや痛み、運動障害(頚椎症性神経根症)を生じます。症状が重篤な場合や脊髄の圧迫がとても強い場合に手術治療を検討します。減圧を目的とした前方法と後方法がありますが、神経を圧迫している部位や大きさ、頸椎のアライメントなどを考えていずれのアプローチがよいかを決定します。
なお、日本人をはじめとした東洋人に多いとされる頚椎後縦靭帯骨化症という病気があります。脊柱管のなかの後縦靭帯が骨化するものです。無症状なことも多いですが、骨化の程度やその他の骨の変形とあわさって、前述の頚椎症としての症状を呈するようになります。
椎体間にある椎間板の変性、破綻により内容物が脊髄、神経根を圧迫する病気です。ヘルニアの高位や大きさによって症状が異なりますが、上肢、手指のしびれや運動障害を生じるこが多く、大きいものの場合、歩行障害などをおこすこともあります。症状が軽微な場合は、頚部の安静、投薬治療、理学療法などの保存治療を行いますが、症状が強い場合は、手術を検討します。前方法と後方法がありますが、近年では、ヘルニアの部位や大きさによっては、後方法にかぎって、内視鏡治療を行う場合があります。
脊柱管の中の後縦靭帯や黄色靭帯が骨化する病気です。骨化が小さく、これによる症状がない場合は経過観察でかまいませんが、脊髄の圧排が強く、症状を呈する場合外科治療を検討します。両下肢の運動感覚障害や痙性歩行、膀胱直腸障害の出現の可能性があります。
一般的に頚椎、腰椎と比較して胸椎は可動性が低いため、頸椎、腰椎と比較すると、椎間板ヘルニアの頻度は低くなります。しかし、病変のサイズによっては重篤な運動障害をきたす可能性があり、また、頸椎、腰椎に比べると手術の難易度がます傾向があります。
腰椎レベルでの椎体や椎間板の変性、靭帯の肥厚などにより脊柱管が狭窄して硬膜が圧迫され生じる病気です。馬尾神経が圧迫されると典型的には間欠性跛行(一定時間の立位や歩行で下肢のしびれや脱力が生じて歩きづらくなり、休憩で症状が改善する)がみられます。また、神経根が圧迫されると同神経の支配領域の下肢の痛み、しびれや筋力低下が出現します。初期の場合は、投薬や理学療法で症状が改善される場合もありますが、症状が進んでくると手術を要します。顕微鏡下での除圧手術がスタンダードですが、近年では、症例によっては内視鏡下での除圧術も検討します。
椎間板の変性、破綻で生じる病気です。ヘルニアによる馬尾や神経根の圧迫が強いと、下肢の痛みや運動感覚障害が生じます。投薬やブロック治療で症状の緩和が得られない場合、手術を検討します。ヘルニアの大きさや部位、患者さんの年齢、体格など、総合的な判断で術式を決定しますが、内視鏡あるいは顕微鏡でのヘルニア摘出術を行います。
上下の椎体がずれる病気です。加齢による椎間板や椎間関節の変性によって生じる変性すべり症、成長期の椎弓の骨折(分離)に加齢性変化が加わり生じる分離すべり症があります。すべりによる硬膜管や神経根の圧排により狭窄症状が出現します。すべりが軽度であれば、除圧術を検討しますが、すべりが重度であれば、インプラントを使用した固定術が必要となります。
主として加齢により、椎間板や椎体に変性、変形が生じることで脊椎が側方に弯曲した状態です。側弯により脊柱管狭窄や椎間孔狭窄を伴うと加療を要します。腰痛に加え、下肢の運動感覚障害や痛みが強い場合には外科治療を検討します。単一の神経障害の場合には内視鏡下でのピンポイントの除圧治療を考慮しますが、通常、後方、あるいは側方からの固定術の適応となります。
手首からてのひらの真中には正中神経という神経が走っています。この神経は、骨と靭帯(屈筋支帯)により囲まれたトンネル(手根管)を通りますが、手の使いすぎなどで、同神経が障害されることで生じます。第1指から第4指にかけてのしびれ、痛みと拇指の付け根の筋肉(拇指球筋)の萎縮が特徴的にあらわれます。症状が軽微な場合は、手首の安静や投薬治療などの保存治療となりますが、症状が強い場合は、前述の靭帯の切開による手根管開放術の適応となります。
足の裏へいく後脛骨神経という神経が内くるぶしにある骨と膜でできたトンネル(足根管)で圧迫をうけておきる病気です。かかとを除く、足の裏のしびれ、痛みを生じます。症状が強い場合、足根管の表面をおおっている屈筋支帯を切離する手術を行います。
脊髄は硬膜という膜につつまれていますが、その硬膜の中に腫瘍ができる病気です。脊髄内に腫瘍が存在する場合(髄内腫瘍)と硬膜内の脊髄外に腫瘍が存在して脊髄を圧迫する場合(硬膜内髄外腫瘍)があります。様々な種類の腫瘍があります。画像検査で腫瘍の良悪や組織型を推測しますが、手術による摘出を行われければ、確定診断はできません。 良性かつ手術で良好な摘出が得られれば基本的に後療法を要しませんが(画像フォローは行います。)、悪性の場合は放射線治療や薬物治療などの後療法を要することがあります。
脊椎骨に腫瘍ができる病気です。原発性(脊椎組織のみに発生する場合)と転移性(別の組織からの腫瘍、がんなどが脊椎に腫瘍を形成する場合)に大別されます。組織診断のために、まずは生検術などを検討します。診断結果により、追加の治療を検討します。
転倒などによる外力が加わり、椎体が頭尾側につぶれるような骨折をおこす病気です。骨粗鬆症を伴う高齢者に多い外傷です。くしゃみや咳などでも骨折をおこすことがあります。また、気づかないうちに生じていることもあります。無症候なこともありますが、強い腰痛を生じることが多く、コルセット装着下、腰部の安静を保ち、投薬治療(痛みどめや骨粗鬆症に対する治療)を行います。痛みが強い場合や早期の離床が望ましい場合などに、骨折椎体の中にセメントを注入する手術(経皮的椎体形成術BKP)を検討します。
転倒、転落や交通事故などにより、脊椎脊髄に大きな外力が加わった結果、脊髄障害をきたした状態です。脊椎骨の骨折を伴う場合と骨折を伴わない場合があります。前者の場合の多くは、不安定性をみとめるため、固定術が必要となります。また、後者の場合でも、強い四肢の運動障害や膀胱直腸障害をみとめる場合、症状の改善を目的に減圧手術を行う場合があります。受傷時の症状が重度であればあるほど大きな後遺症が残る可能性があります。
脊柱管の中の硬膜外に血液がたまる病気です。血液をさらさらにする薬剤を投与中のかたに生じやすいですが、特にきっかけとなるような既往歴を持たないかたにも発症します。血腫のたまる部位によって症状は異なりますが、頚部痛や背部痛、四肢のしびれや運動感覚障害などを生じます。症状が軽微な場合は保存治療となりますが、症状が強い場合には血腫除去術の適応となります。
脊髄をおおっている硬膜の血管や脊髄の中の血管に奇形が生じる病気です。硬膜動静脈瘻や動静脈奇形、海綿状血管腫、血管芽腫などが代表的なものです。出血をおこし、脊髄障害をきたす場合と血液の環流障害により脊髄浮腫をおこし症状が出現する場合があります。手術を行う場合、カテーテル治療による異常血管の塞栓術という方法や外科治療での血流遮断、以上血管摘出術などがあります。
脊髄のなかに空洞が生じて髄液がたまり、中から外へ脊髄を圧迫する病気です。空洞の明らかな原因が特定できない場合もありますが、キアリ奇形、外傷、癒着性くも膜炎、脊髄腫瘍に合併して生じることが多いです。空洞の部位や大きさによって症状は異なりますが、典型的には、両上肢のしびれ、温痛覚障害が生じます。原因が明らかな場合は、原因疾患の治療を優先します。原因がはっきりせず、症状が軽微な場合は、経過観察となりますが、症状が重い場合は、空洞にチューブをいれる手術(空洞―くも膜下腔シャント術)の適応となります。
何らかの理由で脊椎椎体や椎間板に細菌感染がおき、炎症を生じる病気です。血液培養検査や生検などで起炎菌を同定したのち、抗生剤治療が基本となります。感染コントロールがつかず、骨破壊が進行する場合、内視鏡下での椎間板掻破洗浄術を行ったり、自家骨移植を行ったりします。感染部位の安定化のために、感染部位の頭尾側の骨にインプラントを挿入する手術を検討することもあります。