統合生理学教室
大阪大学大学院医学系研究科 生命機能研究科 生命を支える電気信号:分子からシステムへ
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電位センサー

1.電位センサーの動作原理

経細胞では,静止時は細胞外に少なく細胞内に多いK+に対する透過性が高いので,膜電位はK+の平衡電位に近い-60mVほどです。活性化時には,細胞外に多く細胞内に少ないNa+に対する透過性が一過的に上昇するので,Na+の平衡電位に近いプラス側の値へシフトします。このNa+の透過性は一過性であり,またそれにつづいてK+の透過性が上がるので,膜電位は再びマイナス側へ戻ってきます。これら一連の膜電位変化を活動電位とよびます(図左下)。

新規電圧センサー膜タンパク質の発見

電位依存性イオンチャネルは,細胞膜のイオン透過経路を形成し,この活動電位を担っています。活動電位が生じるためには,(1)特定のイオン(Na+,K+)に対する透過性があること,(2)膜電位に依存してその開き方が変わること,の二つの性質が必要で,電位依存性イオンチャネルにはこれらの性質が備わっています。電位依存性チャネルは,細胞膜の外から眺めると真ん中にイオンを通す孔があり(これをポアという)このまわりに,膜電位変化を検出する四つのセンサー構造があります。チャネル全体は四つの相同なユニットが組み合わさった構造をしており,各ユニットは,ポアの壁を構成するドメインと電位を感知する電位センサードメインの二つのドメインから成ります(図右)。

生体膜での膜電位シグナルを伝達する分子実体としては、電位依存性イオンチャネルと呼ばれる膜蛋白群が長い間研究されてきました。電位依存性イオンチャネルは、最初に1930年代に、直径1ミリメートルほどもあるヤリイカの巨大神経軸索を用いた実験と数理的な解析から、神経の興奮性の実体として提唱され(*1)、1980年代からの故沼正作教授らが率いた日本での精力的な研究などにより、蛋白の一次構造が明らかにされ、膜電位を感知する電位センサー部分と、エフェクターとして機能するポアドメインからなる構造をとることが明らかにされました。

しかし、これまで電位センサーはあくまで電位依存性チャネルのポア構造のために膜電位を感知する特殊な装置と信じられ、それ以外の生物機能に働くとは想像だにされていませんでした。

(*1) ホジキンとハクスレーは,神経興奮の現象を非線形方程式で表現することに成功したことで,1963年ノーベル医学・生理学賞受賞した