大阪大学大学院医学系研究科 生体物理工学講座 鎌田佳宏 研究室

  • Phone No.
    06-6879-2561
  • Opening Hours
    9:00 am - 6:00 pm
  • Address
    大阪府吹田市山田丘1-7

研究紹介

Research

消化器疾患

 ライフスタイルの変化により、肥満者が世界中で増加し、いわゆるメタボリックシンドローム患者数は増加の一途をたどっています。肥満はメタボリックシンドローム関連の糖尿病、脂質異常症、高血圧症のみならず、消化器疾患を含む慢性炎症性疾患や悪性腫瘍の発症増加および病態悪化を来します。肥満により悪化する消化器疾患として肝疾患(脂肪肝、肝細胞癌)、膵疾患(慢性膵炎、膵癌)、消化管疾患(大腸癌)などが有名です。これら疾患の病態を解明し、新規診断法、治療法を開発することは喫緊の課題です。私たちの研究室では消化器疾患を対象に、その病態解明を基盤とした新たな診断法、治療法の開発を目指します。

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者は現在日本で約2000万人いると推定されています。NAFLDは非進行性の非アルコール性脂肪肝(NAFL、単純性脂肪肝)と進行性の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に分類されます。NASHは進行性の脂肪肝で、肝硬変・肝細胞癌へと進展しうる病態です(図①)。


NAFLDの鑑別診断には現時点では侵襲的な検査である肝生検が必須であり、非侵襲的診断法(non-invasive test: NIT)の開発が望まれています。またNAFLDには確立された治療法がなく、効果的な治療法の開発も強く望まれています。
一方、糖鎖は核酸、タンパク質に続く第3の鎖状生命物質であり、近年代謝、免疫にも重要な役割を果たしていることが次々に明らかにされています。糖鎖がNAFLDの病態に深く関わっている可能性が考えられ、NAFLDと糖鎖についての研究が新しいNAFLDの診断法・治療法の開発に役立つものと考えられます。これまでに血液検査によるNAFLD診断のための様々な糖鎖バイオマーカー開発を行ってきました(保健学科三善研究室での成果)。当教室ではバイオマーカーに加えて画像検査によるNIT開発のために超音波検査を用いたNAFLDのNIT開発を目指し、血液バイオマーカーと超音波診断の組み合わせにより、さらに有用性の高いNAFLDのためのNITを開発していきます。

研究テーマ

1, 超音波検査を用いたNIT開発

近年の超音波検査技術の進歩により、超音波検査で肝臓の線維化、脂肪化、炎症・壊死を評価できるようになってきました。また携帯できる超音波機器の開発によって在宅医療での超音波検査が可能となっています(2020年保険収載)。私たちは動物モデルとヒト臨床データを用いて超音波検査を用いたNIT開発を目指して研究を進めています。血液バイオマーカーとの組み合わせにより、極めて精度の高いNIT開発が期待できます。

2, NAFLD病態解明(基礎研究)

私たちは遺伝子改変マウスを用いてNAFLD病態の研究を行って来ました。脂肪組織から産生されるアディポネクチンは善玉アディポサイトカインとして知られています。アディポネクチン欠損マウスを用いた検討により、アディポネクチンが肝線維化進展を抑制すること、肝癌発症を抑制することを明らかとしました(図③(A))。また糖鎖と肝疾患についての病態解析も行っています。正常肝ではほとんど発現せず、慢性肝炎で上昇する糖鎖転移酵素であるN-アセチルグルコサミン転移酵素V(GnT-V)の過剰発現マウスでは図(③(B))のようにNAFLDの病態進展が著明に抑制されることを発見しました。現在様々な遺伝子改変マウスを用い、さらなる検討を進めています。

3, NAFLDバイオマーカーの開発(臨床研究、基礎研究)

現在NAFLDの診断には侵襲的な肝生検が必須です。血液バイオマーカーを開発することで非侵襲的にNAFLDの診断・病態評価が可能となります。腫瘍マーカーとして有名なCA19-9やAFPなどの血液バイオマーカーは古くから測定されており、診断・治療効果判定などに有用であることが知られています。我々は糖鎖修飾の一つであるフコシル化の標的蛋白であるMac-2 binding protein(Mac-2bp)とフコシル化ハプトグロビンがそれぞれNAFLDバイオマーカーとして有用であることを発見しました。そしてこれらを組み合わせることで非常に有用性の高い血液検査によるNITを開発することに成功しました(図④(A))。Mac-2bpはマウスでも有用なNAFLDバイオマーカーとなることを見いだし、企業と共同で測定キットを開発しました。
NIT開発については本邦におけるNAFLD多施設共同研究グループであるJSG-NAFLD参加施設と共同で進めています。
その他下記の共同研究も行っています。

  • ・NAFLD患者指導に重要な栄養指導の基盤形成のための栄養研究を進めています(管理栄養士の先生方との共同研究)。
  • ・安定したNAFLDの鑑別診断に重要な肝臓組織病理診断法開発のために数理モデルを用いたNAFLD肝臓病理診断法の開発を行っています(大阪大学基礎工学部との共同研究)。

4, 消化器疾患 の病態解明と新規診断法・治療法開発へ

我々は糖鎖解析の手法、超音波検査を用いて2つの軸で研究を進めています。一つはヒト消化器疾患の検体(血液検体、臓器検体)を用いて新規NITを開発する軸です。もう一つは様々な遺伝子改変マウスを用いて消化器疾患病態を解明していく軸です。これら2つの軸を基軸として研究を進めていき、得られた知見を大規模レベルの集団へ応用することでより確実な新規NITの開発、治療法の開発を進めていきたいと考えています。

お問い合わせ contact

医学修士課程、博士課程の大学院生、ポスドク研究者を募集しています。ご興味のある方はご連絡ください。