教授挨拶

大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学教授  下村 伊一郎

1.自己紹介

 皆さん、こんにちは。科長の下村です。

 1989年に大阪大学医学部を卒業し、内科学で垂井清一郎教授そして松澤佑次教授のご指導を受け、その後市立豊中病院へ出向、1995年より米国テキサス大学へ留学(ゴールドスタイン教授・ブラウン教授)、2001年に分子制御内科へ帰局、2002年より生命機能研究科・医学系研究科病態医科学(病理病態学)教授、2004年より分子制御内科教授、2005年より内分泌代謝内科教授として現在に至っています。

 これまでの主な仕事として、内臓脂肪型肥満・肥満脂肪組織の病態解明、脂肪細胞由来ホルモンであるアディポネクチンの発見とその生理病態学的意義、脂質代謝にかかわる転写因子SREBPの病態意義の解明、および脂肪萎縮性糖尿病の病態解明とレプチンによる治療法開発などをおこなってきました。これまで携わらせていただいた内臓脂肪の仕事は、メタボリックシンドロームとして特定検診の必須検討事項となり、またアディポネクチンやレプチンの仕事も、実際の患者さんの新たな診断学、治療学につながりました。これまでご指導をいただいた先生方、一緒に仕事をしてくださった共同研究者の方々にたいへん恵まれた結果に他ならず、心よりの感謝の気持ちでいっぱいです。

 私は、私自身がこれまで味わわさせていただいた内科の医学者としての喜びを、現在一緒に仕事をしている教室の先生方、またこれから一緒に仕事をする若い先生方に経験していただきたいと強く願っています。


2、 教室の紹介

 大阪大学内分泌・代謝内科は現在教室員60名あまり、同窓会の会員数は400名を超える、日本でも最大規模の陣容を要する内分泌代謝内科学教室です。日本全国の大学にこれまで多くの教授を輩出し、また同門の先生方は、近畿地区、特に大阪府、兵庫阪神地区の主だった多くの関連施設で、院長、副院長をはじめ、部長、医員として、中心的に活躍しています。

 2000年、先代の松澤佑次名誉教授(現、住友病院院長)が阪大病院長であられた時に、現在の内科系科の診療科別教室編成の基礎を築かれました。旧ナンバー内科からの伝統のある複数のグループが同じフロアに一同に集まり、診療、教育、研究、すべてのことを皆で一体としておこない、とても穏やかで優しさに満ちた教室となっています。


3、 4つのグループ

 第1研究室は、これまで糖の流れを重視した理論的なインスリン治療学の構築を通して日本人の糖尿病治療のスタンダードを作り上げました。また膵臓ベータ細胞の転写因子研究やシグナル伝達異常に関する仕事で国内外に高い評価を築いています。

 第2研究室は、垂井名誉教授をはじめとして糖代謝病学への貢献、インクレチン概念の発見は世界的なものであり、また1型糖尿病が自己免疫疾患であることを組織学的に世界に先駆けて示し、さらに最近、劇症1型糖尿病という新たな疾患概念の発見をおこないました。

 第3研究室は、松澤名誉教授に導かれた内臓脂肪型肥満、内臓脂肪症候群、メタボリックシンドローム概念発症の研究室です。新たな脂肪由来分泌因子アディポネクチンの発見とその生理病態学的意義、さらに臨床的意義の解明の研究で、高い評価を得ています。

 第4研究室は、阪大は、山村雄一先生の時代より日本の内分泌学のメッカであり、その研究・臨床の中心を担ってきたグループです。病理病態学教室のグループと一体となり、内分泌学、脂肪細胞機能不全学について、高い学問レベルで臨床の課題の解明と治療法の開発を目指しています。


4、 私達が目指すもの

 内分泌代謝内科学は、その専門性とともに、全身を相手にする統合内科学としての側面が大きい診療学問領域です。したがって活躍する仕事の場として、国立、府県立、市立、民間の大きな病院で、内分泌代謝内科医および総合内科医として、また大阪・神戸を中心とした多くの企業での産業医として、さらには地域医療を担う実地医家・家庭医として、多くの展開があります。同窓会を構成する先生方の仕事先も、多岐にわたります。今後、大阪、兵庫、近畿地区を中心とした多数の関連施設で、医療を支える人材の育成を大事に考えています。さらには、これまで多くの偉大な先輩達が築いてきてくれた世界的な大きな学問の潮流・伝統を引き継ぎ、さらに発展させて、将来大学の教官として、また研究者として、日本の医学の発展を担ってくれる医学徒を育てていくことに力を注いでいきたいと考えています。これらの意味で、私達は、学生への授業、病棟実習、各種研究会での学生・研修医・専攻医への教育などを、教室員みなで真剣におこなっています。

5、 大阪大学内分泌・代謝内科学教室方針7ヶ条

 我々が一体となって前に進んでいくにあたり、阪大内分泌代謝内科教室方針7ヶ条を掲げました。この方針を医局、そして各研究室に掲げ、私達の教室の基本理念として、いろいろな時に方向性を決める上での指針としています。

(1) 先輩達が築いてきた実績に感謝し高い誇りを持ち、診療、研究、教育を通して、構成員の自己実現と世の中の役に立つことを目指す。

 私達の教室は、大変偉大な先輩の先生方が築いてこられた実績と伝統のおかげで、今日を迎えています。私達はそのことを常に感謝し、そして誇りに思い、そのような強い意識の基でそれぞれのメンバーが自分の中心にする仕事、診療、研究、教育を行っていき、医療人としての自己実現を果たす、そしてそのことを通して社会、世の中の役に立っていくんだ。「一人一燈、萬人萬燈」の精神で、一人一人の仕事を、そして教室の仕事を大事にしていきます。

(2) 一つ一つの仕事をきちんとまとめていく。

 大学人として経験させていただく多くのことを自分たちの自己満足に留まらせず、一つ一つきちんと世に出し、日本あるいは世界の他の医療者、医学研究者のために役立てていく、この姿勢が大事だと考えます。

(3) 組織の一員として個々の役割を果たす。

 組織の中で皆いろいろな役割を持っています。すべての役割が一つ一つの主役で、その時々小さく見えても大きく見えても、教室にとってかけがえのない仕事です。自分の持ち場に与えられた仕事をきちんと果たしていく、この姿勢が大事だと考えます。

(4) 組織の中での、グループおよび個人のidentityと自主性を大事にする。

 組織は決して縛るためのものではなく、グループそして個人がidentityと自主性を十分発揮するための場を保証するものであると思います。組織はグループのために、グループは個人のために、逆に、個人はグループのために、グループは組織のために、この姿勢が強くいいチームを作ります。

(5) 大学生活を楽しみ、充実させる。

 大学は、アカデミア、学問を楽しむ場所です。大学人としての楽しみを満喫する。同門の先生方とともにその楽しみを享受していく。常に医学徒としての生活を楽しんでいきたいと思います。

(6) 先輩、同僚を敬い、後進を育てていく。

 ここまで私達の教室を作ってきてくださった先輩、今の仕事の場を互いに支えてくれている同僚に常に敬意を払う。そして皆でこの高い伝統を受け継ぎ、さらに発展させ、佳き医療人となっていってくれる後進を真剣に育てていく、この姿勢が世の中への貢献となっていきます。

(7) 気持ちのいい挨拶と時間を守る。

 いい教室になるために、皆がよく知り合い、信頼し合うことが一番重要で、その意味で、気持ちのいい挨拶をお互い常に心がけコミュニケーションをとる、そしてお互いを思いやる意味でなにごとにおいてもきちんと時間を守る。この姿勢が大事だと考えます。


 以上、このような理念のもとで、教室員そして同門の先生方が協力、団結して、診療、研究、教育をおこない、人の世の中に役立って行きたいと強く願っています。

 人の世の中に役立ちたいという志を持たれる方、そのような志の医学研究をおこないたいと感じる方、専門性の高い代謝内分泌学診療に加え、統合医としての内科学に興味を持たれる方、どうか、私達の教室および関連の研究会をご訪問下さい。患者さんの笑顔を常にその目標とする思いやりに満ちた優しい医師・医学徒として共に歩んでいきましょう。

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