研究

フレイル・サルコペニア(老年代謝・糖尿病)研究室 Section of Frailty and Sarcopenia (Geriatric Metabolism & Diabetes)

2018年研究成果

老年代謝・糖尿病グループでは、加齢や代謝疾患などにより影響され、他臓器との連関が注目されている骨格筋をターゲットとした基礎研究または臨床研究を行っている。生活習慣病とサルコペニアに関する基礎研究と臨床研究に加え、高齢消化器癌術前評価の有用性に関する研究、高齢者糖尿病患者を対象とした介入研究などを継続的に行っている。

1.フレイル、サルコペニアと生活習慣病の関連性:

フレイル、サルコペニアは、生活習慣病の存在によりその病態が促進されることが臨床的検討から明らかにされつつあり、その観点に基づき基礎研究、臨床研究を行っている。

基礎研究については、腹水癌細胞接種ラットを用いたカヘキシーに対する運動による改善効果において、低強度運動が筋低酸素状態改善を介して筋萎縮を防止することを明らかにしたこと(Tanaka M et al, FASEB J, 2019)や、IL-15のトランスジェニックまたはノックアウトモデルを用いたIL-15のマイオカインとしての意義について検討を行っている(科研費基盤研究B)。

IL-15に関しては、IL-15トランスジェニックマウスが野生型より良好な耐糖能を示し、その基盤にAMPK-TBC1D1-GLUT4経路が関与していることを明らかにした(Fujimoto T et al, Biochem Biophys Res Commun 2019)。現在はマイオカインIL-15の細胞内動態、筋量調節機構の解明を行っている。

臨床研究については、糖尿病におけるサルコペニア、フレイルの頻度の実態調査(後述)や、サルコペニア合併糖尿病患者の食後高血糖への介入がサルコペニアに与える影響(医師主導臨床研究)を検討しているほか、骨格筋エコーを用いた簡便なサルコペニア評価法を提示した(Isaka M et al, J Am Med Dir Assoc 2019)。透析患者を対象としたフレイルの頻度・意義も明らかにした(岡山大学との共同研究、Aging Dis 2018、Geriatr Gerontol Int 2018など3報)。

サルコペニア診療ガイドライン2017、フレイル診療ガイド2018の作成にも貢献した。

2.高齢外科手術前評価としての高齢者総合機能評価、身体機能評価の有用性:

当院消化器外科と以前から行っている共同研究として、手術適応と判断された高齢消化器癌患者を対象に術前の高齢者総合機能評価(CGA)が術後合併症または予後へ影響について検討しており、術後せん妄や予後予測におけるCGAの有用性を明らかにしてきた(Surg Endosc 2018)。現在は、術前の筋力や過去の運動習慣の高齢消化器癌患者の術後予後予測における有用性などを検討している(日本老年医学会近畿地方会2018)。高齢消化器癌患者に対する術前の身体トレーニング+アミノ酸補充の効果を検証する前向きランダム化比較試験(「高齢癌術後予後増悪因子であるフレイルへの術前介入の有用性の検討(課題番号16124)」)が、消化器外科の協力のもと進行中である。

3.高齢者糖尿病患者を対象とした臨床研究:

高齢者糖尿病のエビデンス構築を目的に高齢糖尿病患者を対象とした臨床研究を考案し、症例を蓄積中である(「高齢糖尿病患者に対する食後高血糖改善がフレイル・サルコペニアに及ぼす影響の検討」(大阪大学医学部附属病院倫理委員会承認済)、「フレイル高齢者の全国的な情報登録・連携システムに関する研究」(長寿医療研究開発費)。「糖尿病・耐糖能異常におけるサルコペニアの有病率とリスク因子の解明糖尿病・耐糖能異常におけるサルコペニアの有病率とリスク因子の解明」(日本医療研究開発機構(AMED))では、近畿大学、愛媛大学、勝谷医院、ふくだ内科クリニックとの多施設調査を行い、糖尿病患者において血糖管理不良がサルコペニアのリスク因子であることを断面調査で明らかにした(論文投稿中)。現在、縦断調査の解析が進行中である。「慢性心不全合併糖尿病患者における心機能に及ぼすイプラグリフロジンL-プロリンの影響に関する無作為化群間比較試験」(課題番号16399)も、25の多施設研究として進行中である。

4.今後の抱負 <フレイル・サルコペニア改善をターゲットとした介入法の確立>

フレイルの基盤となるサルコペニアの病態解明とその有効な予防法の確立は急務である。高齢糖尿病患者、高齢癌患者を対象に、フレイル・サルコペニア改善をターゲットとした介入法の確立とその基盤にあるメカニズムの解明を同時に進めていく(下記ポンチ絵参照)。

所属者(2019年4月現在)

杉本 研、栗波仁美、赤坂 憲、高橋利匡(留学中)、藤本 拓、立花宏一、加藤のぞみ、吉田志乃、大西友理、謝 可宇
協力者:藤澤智巳(堺市立総合医療センター)、前川佳敬(森ノ宮医療大学)
安延由紀子、井坂昌明、田中 稔(以上、理学療法士)、菅原ゆかり、笠岡榮子、白井麻理、佐藤知子、横山理子、高木祐子、岸 朋彦、安田 歩(以上、技術補佐員)

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