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フレイル・サルコペニア(老年代謝・糖尿病)研究室 Section of Frailty and Sarcopenia (Geriatric Metabolism & Diabetes)

2022年研究成果

フレイル・サルコペニア(老年代謝・糖尿病)研究グループは、「骨格筋での糖代謝やマイオカインの効果を見極め、骨格筋に介入することで健康長寿を達成する」ことを目標に研究を行っている。研究体制も固まり、2022年は1年間で10編の論文をPublishするなど、着実に成果をあげている。研究テーマは、フレイル・サルコペニアを対象にした臨床研究が多いが、同時にマイオカインをターゲットとした基礎研究、保健学専攻(神出研究室)や歯学研究科・人間科学研究科と共同のSONIC研究のデータを用いた疫学研究も継続している。

1.骨格筋、マイオカインに関する基礎研究

細胞を用いた実験により、マイオカインの一種であるIL-15による糖代謝の改善作用が、IL-15の受容体αサブユニットで増強することを検証した(Exp Physiol 2022)。さらに骨格筋において、筋芽細胞から筋管細胞への分化過程にIL-15のシグナルが重要であることを新たに見出した。加えて、IL-15によるオートファジー制御を検証している(論文投稿中)。また、糖尿病モデルラットに対して高血糖でもたらされる骨格筋の減少が、SGLT2阻害薬の投与によって抑制される可能性を報告した(J Clin Biochem Nutr 2022)。

2.入院・外来症例を対象とした観察研究

外来、病棟においては、我々のグループが随時CGAと筋力検査を実施し、データを入力・整理している。これらのデータでは、過去の運動習慣がその後の身体機能と転倒リスクに影響することが明らかとなった(未病学会雑誌 2022)。また、全身の骨格筋量の評価として、前脛骨筋のエコー検査は体組成計で測定したASMIと同様に有効であることを報告した(Clin Interv Aging 2022)。外来通院中の症例を対象に、非侵襲的かつ客観的にフレイルを診断することを目的として、歩行動作解析研究が進行中である。

2012年から継続中の消化器外科との共同研究である、高齢者消化器がん症例に対する術前CGAと筋力評価は、10年近い症例の蓄積により貴重なデータベースとなっている。このデータでは、術前検査により術後のリスク層別化が可能であることが次々と明らかになっており、術前筋力が生命予後に影響すること(論文投稿中)や、術前CGAや筋力は術後合併症の予測因子となることを報告した(第33回老年近畿地方会, 論文作成中)。

さらに、阪大、国立長寿、名大、鹿児島大、東大による多施設共同研究(楽木班)で、高血圧外来へ通院中である高齢者の認知機能を調べたところ、血圧とは関係なく全体の約3割に認知機能低下を認めた(Hypertens Res 2022)。このうち阪大症例に限って1年間の追跡前後で運動習慣の変化を検討したところ、一部の対象者で運動習慣が消失し、その現象には女性のうつ傾向と転倒リスクが関連していたことを報告した(ISH 2022, Hypertens Res 2022)。さらに全対象での追跡研究の結果も解析中である。AMED支援事業「糖尿病におけるサルコペニアの有病率とリスク因子の解明」についても、近畿大学、勝谷医院、ふくだ内科クリニックと共同で継続しており、2型糖尿病の高齢者よりも1型糖尿病の高齢者でサルコペニアの有病率が高く、HbA1cが高いことがそのリスクであることを報告した(J Diabetes Investig 2022)。

3.非薬物療法による介入研究

フレイルを合併した消化器がん症例への術前の栄養・運動介入が、術後合併症や術後の精神・身体機能に及ぼす影響を検討するRCTを継続中である(阪大IRB 16124, UMIN24526)。フレイル高齢糖尿病患者に対する運動強度別介入が骨格筋指標に与える影響を解明するRCT (阪大IRB 18126, UMIN34465)も継続中である。また、フレイルに対する運動療法の定量化と客観的な運動処方を行うため、整形外科クリニックと共同研究の準備が進んでいる。

4.薬剤を用いた介入研究

慢性心不全合併高齢者糖尿病へ、SGLT2阻害薬であるイプラグリフロジンの効果を検討したRCT (EXCEED)について、論文報告を行った(Geriatr Gerontol Int 2022)。また、身体的フレイルを伴う高齢者糖尿病に対してnicotinamide mononucleotide (NMN)の効果を検証する臨床研究の論文報告も行った(Geriatr Gerontol Int 2022)。

5.疫学データを用いた関連解析

北海道端野・壮瞥町コホートで、下肢筋量低下とインスリン抵抗性進展の関連を報告した(J Am Med Dir Assoc 2022)。SONICコホートでは、COVID-19流行下の身体活動変化に関連する行動のインタビュー調査を報告した(Int J Environ Res Public Health 2022)。さらにSONICコホートを用いて、血清ビタミンDと骨格筋量の関連、動脈硬化指標とフレイル・サルコペニアの関連について研究を進めている。

所属者(2022年12月現在)

赤坂 憲(学内講師)、藤本 拓(ホノルル留学中)、吉田紫乃、立花宏一、加藤のぞみ、
南 知宏(D4)、大西友理(D4)、寺嶋 謙(D2)、謝 可宇(留学生)
安延由紀子(D3)、井坂昌明、田中 稔、白井麻理(以上、理学療法士)
佐藤知子、光森英実、藪田拓哉、奥田倍子、平井雄大(以上、技術補佐員)
協力者:藤澤智巳(堺市立総合医療センター)、杉本 研(川崎医科大学)、前川佳敬(森ノ宮医療大学)、栗波仁美(日本生命病院)

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