大阪大学大学院医学系研究科
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分子病態生化学
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Department of Molecular Biology and Biochemistry, Graduate School of Medicine, Osaka University
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近況

檜井 孝夫

広島大学大学院医歯薬学総合研究科
先進医療開発科学講座外科学(第二外科) 内視鏡外科学講座 講師

1)菊池章教授との出会い
私は、1989年3月に広島大学医学部を卒業し、同大学第二外科に入局、広島大学病院、県立広島病院で消化器外科の修練を積んだ後、1994年4月から大学院生となり虚血再還流障害をテーマに第一生化学教室に出入りしながら研究を開始していました。半年後、菊池先生が第一生化学の教授として選出され、翌年(1995年)4月からの新講座の立ち上げ準備のため留学先のUCSFから一時帰国された際、旧教室メンバーとの面談があり、生化学に残るかどうか決めなければなりませんでした。研究やサイエンスに対する情熱や考え方をはじめ、学生時代は私と同じくサッカー部に所属し、練習中に実験用のタイマーをぶら下げながら生化学で実験をしていた話や、最初に目指した内科医から生化学者に転向した話などを聞くうちに、直感的に菊池研で研究をやろうと決心しました。消化器外科医として膵癌や大腸癌に高頻度に変異があることが知られていたRasに興味があり、生化学や分子生物学の基礎を学びたいと思っていたことも大きな動機となりました。大学院1期生は私を含めて3人、他に小山眞也講師(現、就実大学教授)、岸田昭世助手(神戸大学から転任、現、鹿児島大学分子病態生化学講座教授)、それから岡崎想子さん(後の岸田昭世教授夫人)の7人で菊地研はスタートしました。

2)大学院での研究生活
菊池先生は、広島大学に来られる前にUCSFでRasと結合する蛋白質としてRalGDSを同定し、RalGDSがRasファミリーのG proteinであるRal (Ras like)を活性型に変換する制御蛋白質であったことから、Rasの下流にRalGDS/Ralのシグナル伝達系が存在することを報告されていました。私の研究テーマはRalの遺伝子変異によるGTPase活性や標的蛋白質との親和性の解析と、Ras/RalGDS/Ralのシグナル伝達系におけるRasとRalの翻訳後修飾(脂肪修飾)の意義についてでした。それまで握っていたメスをピペットにもちかえて、朝から深夜までの実験生活が始まりましたが、のめり込み易い性格の私は、分子生物学実験の面白さに夢中となり、再現性のある正確なデータを出すことに情熱を注ぎました。その当時、研究の全体像が十分に理解できていたとは言えないのですが、アナログ的な臨床の世界からデジタルで結果がでる分子生物学実験の面白さに夢中になり、半ば腕試しをしている様な気持ちでした。午後11時ころから始まる教授回診(教授が自分のベンチの所に来るので、こう呼んでいた)で、一緒にデータを見ながらデータの判定と解釈を行い、翌日の実験計画を示されました。厳しいながらも的確な指導のお陰で、効率よく研究が進みました。幸運にも研究開始から1年後の1996年4月にはJ. Biol. Chemにpublishされ学位論文となりました。

3)大学院後半での留学準備
菊池研での学位取得に目処がつき大学院修了後の進路について考え始めた頃に感じたのが、大学院で学んだ事をそのまま臨床に持ち帰っても、独立した研究者(Principle Investigator)として研究を継続していくには力不足ではないかという危惧でした。研究留学に対するあこがれもあり、菊池先生に相談したところ、手紙や推薦状の書き方などのノウハウを教えていただきました。最終学年の4月から手紙やメールで就活を行い、UCLA、MD Anderson、ミシガン大学、ハーバード大学の内科学や病理学に属する4つの研究室に面接の旅に出たのは冬になってからでした。いずれも名だたる名門大学であり、大勢のラボのメンバーを前にして慣れない英語で大学院での研究のプレゼンした際には大変緊張していましたが、質疑応答になると、予想以上の高い評価が得られ、大きな自信となりました。最終的には大腸癌のgeneticsで有名なミシガン大学のDr. Eric R. Fearonの研究室に留学することに決めました。菊池先生からは、「しっかり自分を売り込んで、正当に評価をしてもらい、十分な給料をもらうよう交渉してこい」と言われていたので、世界的に有名な大先生が相手といえども、堂々と交渉することができ、比較的恵まれた環境で研究に専念することができました。

4)ミシガン大学での研究
Fearon labでは、なにか新しいプロジェクトにチャレンジしてやろうと考え、腸上皮細胞の発生、分化に関与すると考えられ大腸癌のがん抑制遺伝子の候補遺伝子であったcaudal 遺伝子関連のホメオボックス転写因子であるCDX2について研究することとなりました。ポスドクとなると、大学院生時代のような丁寧な指導もなく、ボスから与えられたテーマについて、ひたすら自分で問題を解決しながら研究を進めていく事になり、自由に使える研究資金は潤沢にありましたので、何でもさせてもらいました。菊池研で習得した正確な実験技術はおおいに役立ち、ポスドク3年目にしてようやく最初の論文がでました。消化管癌におけるCDX2の発現異常についての研究を進めるうち、そのプロモーターにマウスの大腸上皮細胞に特異的な転写活性領域がある事を発見し、それを応用してコンディショナルノックアウトマウスの手法を用いてマウスの大腸浸潤癌モデルの作製を行いました。このプロジェクトのため、ミシガン大学での研究期間は8年間に渡りました。通常、新しいマウスモデルの確立には数年を要しますが、まだこのマウスのプロジェクトに不安をかかえていた時期に、たまたま菊池先生がミシガン大学に来られる機会があり、それまでの研究のデータを見せたところ、非常に高く評価をしていただき激励していただきました。留学期間も長くなり、多少弱気になっていた時、その言葉は大きな自信となり、プロジェクトを完遂する事ができました。ミシガン大学での仕事ぶりは、ボスのFearon教授にも十分評価をしていただき、帰国後のマウスを使った研究の継続を許可していただきました。

5)広島大学での臨床と研究
現在、広島大学大学院医歯薬学総合研究科の第二外科学講座ならびに内視鏡外科学講座において、大腸癌の腹腔鏡下大腸切除術や化学療法を中心に臨床にたずさわりながら、3人の大学院生とともに大腸癌の浸潤や転移に関する研究をしています。菊池先生が広島大学に赴任されてから大阪大学に移られるまでの菊池研の成長と業績をみるにつけ、自分がその歴史の最初のページから参加できた事は大きな財産となりました。これらは、ミシガン大学でポスドクとして新しい研究を始めた時や、広島大学にもどって自分の研究室を立ち上げた時にどれほど役立ったことか判りません。当たり前の事を当たり前にやり、こつこつ継続してやっていけば成果や評価がついてくるのだという成功例を見せていただきました。これから大腸癌研究の分野で自分の研究領域を確立し、診断や治療に役立つ研究成果をあげ、世の中にcontributeして行きたいと思っております。

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