神経化学研究室

アルツハイマー病診断治療薬開発研究グループ

スタッフ:
大河内正康(グループリーダー)、田上真次
特任研究員:
柳田寛太、中山泰亮、児玉高志、辰巳真一
大学院生:
姜 経緯(4年)、森康治(3年)
実験助手:
藤井加奈

研究の概要: 2002年「アミロイドβペプチドと同じメカニズムでNotch受容体からアミロイドβ様ペプチドが産生されること」を発見した論文がEMBO journal誌に受理された。 2005年「新規アミロイドβ様ペプチドの一種であるNotchβペプチドがNotchシグナルの過程で産生されること」を明らかにした論文がThe Journal of Biological Chemistry誌に受理された。 2006年「アミロイドβペプチドを産生する酵素複合体であるγセクレターゼが細胞内で単一ではなく、機能的に異なる数種からなること」を明らかにした論文がBiochemistryに受理された。 2007年「アルツハイマー病病原性物質アミロイドβ42を産生する仕組みがもつ生理作用」を明らかにした論文がMolecular and Cellular Biology誌に受理された。

γセクレターゼ研究グループ (大河内・田上グループ)

タウ研究グループ

田中稔久講師、Golam Sadik(特任研究員)、Begum Nurun Nessa(大学院生)、加藤希世子(実験助手)

Fig.1
Fig.2
Fig.3
Fig.4

アルツハイマー病(AD)やタウオパチー(Psychogeriatrics 5; 15-17,2005.)を含む神経変性疾患における、タウ蛋白のリン酸化とそれにともなう神経細胞死機序についての研究を、我々は担当している。細胞の骨組みは微小管を初めとする構造体で支えられているのだが、タウ蛋白は、1)のようにこの微小管に結合してチュブリンとチュブリンとの間のヒンジとしての役目をもち、チュブリンから微小管への重合促進能を保有している。タウ蛋白はリン酸化されると、2)のように微小管結合能をもたなくなり、正常な細胞骨格を崩壊させる。さらにリン酸化タウ蛋白はPaired Helical filaments (PHF)を形成するが、これは軸索へ物質の輸送路に交通傷害を引き起こし、結果的に細胞障害をおこす。タウ蛋白のリン酸化レベルは、3)のように様々なキナーゼ(リン酸化酵素)とフォスファターゼ(脱リン酸化酵素)とのバランスにより制御されている。タウ蛋白を主としてリン酸化する酵素は、プロリン指向性キナーゼと呼ばれる一群であり、MAPキナーゼ群(JNK/ p38 MAPK)、サイクリン依存性キナーゼ群(CDK5、cdc2 kinase)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK-3)などが知られている(Annal.Psychiat. 5,65-79,1995.)。我々は、今までにGSK-3の活性化とリン酸化タウ蛋白の関係を検討し、InsulinやIGF下流の細胞内情報伝達系がGSK-3の活性を通してタウ蛋白のリン酸化レベルを制御していることと、アポトーシスに関連していること、この経路がきわめて重要であることを明らかにしてきた(J. Neurochem. Exp. Neurol. 56,70-78.1997. FEBS Lett 469,111-117,2000. Acta Neuropathol (Berl) 105:381-92,2003.)。フォスファターゼに関しては、PP-1、PP-2A、PP-2Bといったいくつかのフォスファターゼがタウ蛋白の脱リン酸化に関与しているが、これらのフォスファターゼは細胞内情報伝達系において上記のキナーゼの活性にも影響を及ぼし、フォスファターゼの活性低下はタウ蛋白脱リン酸化阻害とリン酸化酵素活性化といった2重の意味でタウ蛋白のリン酸化レベルを上げることを見出してきた(FEBS Lett. 426,248-254,1998.)。

ADにおいては脳内の炎症性変化が以前より指摘されているが、免疫学において近年明らかにされてきた自然免疫システム(Innate Immune System)に関連するToll-like Receptor (TLR)とそれに伴うタウ蛋白リン酸化と細胞死の関係を研究している。実際TLRの下流には、上記のJNK/ p38 MAPKが存在し、これらが活性化するとタウ蛋白がリン酸化される(Psychiatry Clin Neurosci. ;60 Suppl 1:S27-S33, 2006.)。また、アポトーシスとの関連においては、ADにおける神経細胞死にアポトーシスの関与が数多く報告されること、アポトーシスは促進因子と抑制因子のバランスにより方向が決まることから、AD脳における内因性のアポトーシス阻害蛋白の発現の検討と、アミロイドβによるアポトーシス阻害蛋白の発現抑制に関して検討を行ってきた(NeuroReport 15;851-854,2004.)。

タウ蛋白は自己重合してPHFを形成するが、4)のようにGlycosaminoglicanや14-3-3蛋白といった結合物質があると、その自己重合が促進することが知られている。我々は、その中で14-3-3蛋白というscaffold蛋白とタウ蛋白の結合がリン酸化によって影響を受けることを見出し、詳細に検討している。

これらの研究から、微小管重合因子としてのみ知られるタウ蛋白のより新しい機能や側面を解明し、さらにタウオパチーと呼ばれるようになった広範な神経病理の病的過程を明らかにできればと考えている。

アルツハイマー病関連遺伝子研究グループ

メンバー:森原剛史(助教)、林紀行(大学院生)、横小路美貴子(大学院生)

現在臨床開発が進んでいるアミロイド病理に対する次世代アルツハイマー病治療薬は、1995年までの相次ぐアルツハイマー病原因遺伝子の発見がきっかけとなり進展した。 遺伝子解析技術は毎年長足の進歩を続けており、新たなアルツハイマー病関連遺伝子の発見と、それによるまったく新しいアルツハイマー病理メカニズムや診断治療法の開発が期待されている。

当教室はアルツハイマー病について臨床から基礎研究まで様々な専門家が揃っているという他にはない特徴がある。その特徴を生かし遺伝子研究も臨床検体を用いた候補遺伝子の探索にとどまらず、他のグループとも協力しながら候補遺伝子の機能解析(Hum Mol Genet 16:15-23, 2007, J Hum Genet 53:296-302, 2008)、動物モデルを用いたトランスレーショナルなアプローチやアルツハイマー病表現型との関連の検討など多角的に研究を進めている。

遺伝子研究以外にも以下の研究を行っている。次世代アルツハイマー病治療薬の可能性が期待されているNSAIDや、curcuminの作用メカニズムに関する研究も国内外の研究者と協力しながらおこなっている(J Neurochem 83:1009-1012, 2002, Neuropsycopharmacology 30:1111-11120, 2005, Psychogeriatrics 6:1-3, 2006)。また、高齢者に対する非薬物療法の無作為化介入試験を神経心理グループおよび教室外の施設と協力しながら行っている。

分子精神医学研究グループ より詳しいホームページはこちら

メンバー:橋本亮太(特任准教授)hashimor@psy.med.osaka-u.ac.jp、安田由華(特任研究員)、大井一高(大学院生)、福本素由己(大学院生)

本研究グループは、統合失調症をはじめとする精神疾患の分子に基づく研究を行っています。テーマは大きく分けて二つあり、ひとつは精神疾患の脆弱性遺伝子を同定する臨床研究であり、もうひとつはすでに同定された脆弱性遺伝子の機能を明らかにする基礎研究です。臨床研究においては、遺伝子解析を中心として、精神疾患の中間表現型と考えられている認知機能、脳画像、神経生理学的所見、遺伝子発現との関連を検討することにより、新たな脆弱性遺伝子を見出すことを目的としています。基礎研究では、ディスバインジンなどのすでに同定された統合失調症の脆弱性遺伝子について、その機能を明らかにすることにより病態を解明することを目的としています。本グループではディスバインジン遺伝子が日本人においても統合失調症と関連することを初めて示し、ディスバインジンの神経系における機能(グルタミン酸の放出や神経保護作用への関与)を世界で初めて報告しました(Hum Mol Genet, 13:2699-2708,2004)。このように臨床研究と基礎研究を結びつけることにより、精神疾患の病態を解明し、新たな治療法の開発を目指した研究を行っています。

橋本の所属は、大阪大学大学院医学系研究科附属子どものこころの分子統御機構研究センターであることから、大人における精神疾患だけでなく、子どもにおける精神疾患に関する集約的治療や臨床研究も行っています。精神疾患の臨床・研究に興味がある方を歓迎しています。

神経変性過程を細胞小器官レベルから検討するグループ

メンバー:工藤 喬(助教授)kudo@psy.med.osaka-u.ac.jp、谷向 仁(医員)、木村 亮(大学院生)、鎌形英一郎(大学院生)、田渕信彦(大学院生)、久保幹子(実験助手)

異常蛋白蓄積と小胞体ープロテアソーム系アルツハイマー病をはじめとする中枢神経変性疾患の共通する病態過程は、凝集しやすい異常蛋白が神経細胞内に蓄積する事である。従って、この過程を詳細に検討することで、神経変性疾患の包括的な治療法に繋がる可能性がある。一方、細胞内の蛋白処理機構として細胞小器官であるプロテアソームを介する系あるいはオートファジーを用いた系などが近年報告されてきた。プロテアソームは小胞体機能とも連関し、小胞体ストレス応答反応も、異常蛋白蓄積による変性過程に関与していることが予想される。そこで、当グループは、(1)異常蛋白蓄積と小胞体ストレス反応(UPR; unfolded protein response)の関係を明らかにして治療法開発を目指す、(2)異常蛋白蓄積とプロテアソーム機能の関係を明らかにして治療法開発を目指す、(3)異常蛋白蓄積とオートファジーの関係を明らかにして治療法開発を目指すという3つの視点から研究を進めている(図参照)。

これまでの成果として、家族性アルツハイマー病の代表的責任遺伝子であるプレセニリン1の変異体は小胞体ストレス反応を障害することを明らかにし(Nat Cell Biolog 8: 479-485, 1999 J Biol Chem 276: 43446-43454, 2001 Ann N Y Acad Sci 977: 349-355, 2002 Biochem Biophys Res Commun. 318: 435-438, 2004)、小胞体ストレスで誘導されるシャペロン蛋白はアミロイドの代謝を変化させ、アミロイド産生を抑制することなどを明らかにしている(Biochem Biophys Res Commun 344: 525-530, 2006)。これらの知見を踏まえ、小胞体シャペロン誘導剤の開発に成功し(特許出願中)、その治療への応用について検討を始めている。

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