Science 論文の紹介と阪大精神医学教室について

ミュンヘン大学アドルフブテナント研究所博士研究員
森康治

この度幸運にも留学後1年半ほどで私が筆頭著者の論文がサイエンス誌に受理さ れました。医局の先生方も大変喜んでくださり阪大精神科での経験も含めて手記を認めるようにとのご依頼をいただきました。

私は平成16年に愛媛大学医学部を卒業後、初期研修に関西労災病院と阪大病院を 組み合わせたコースを選択し、阪大精神科で精神科の臨床研修を受けました。大 阪大学精神医学教室に入局後の平成18年に精神科大学院に進み、研究、臨床両面 で熱心にご指導いただきました。平成22年に武田雅俊教授から学位を頂いた後、 大阪府立急性期医療センター・精神科(松永秀典部長)にて更に臨床経験を重 ね、精神保健指定医を取得しました。その後、武田教授の御推挙により阪大の精 神科と以前から関係の深いミュンヘン大学医学部・クリスチャン ハース教授の 下にフンボルト財団の援助を受けて留学しました。

ドイツへ渡り前頭側頭型認知症(FTLD)および筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因と して同定されたC9orf72遺伝子に関する研究を開始しました
この遺伝子変異はタンパク質への翻訳を受けることのないイントロン領域に存在 することが特徴です。
このイントロン領域のGGGGCCという6塩基繰り返し配列は通常2〜20リピート程度 ですが、患者では数百から数千リピートに延長しています。
また患者脳にはユビキチン関連p62陽性かつリン酸化TDP-43陰性の特徴的な神経 細胞内封入体がみられますが、これまでその細胞内封入体の構成蛋白については わかっていませんでした。
今回サイエンス誌に掲載された論文では、C9orf72
遺伝子のイントロン領域の異常GGGGCCリピート配列が、(1)定型的なタンパク 翻訳機構に則らない方法でジペプチドリピート(DPR)蛋白へと翻訳されること、 さらに(2)そのジペプチドリピート蛋白がその神経細胞内封入体に含まれるこ とを示したものです。
イントロン領域の遺伝子異常と脳内病変を直接関連付けた本研究は疾患の病理お よび病態の理解に新たな視点を提示するものと考えています。

阪大大学院在学中に受けた(厳しい!?)トレーニングのおかげで世界的に有名 なラボでPhD研究者と肩を並べて研究しています。直接ご指導いただいた大河内 正康、田上真次先生をはじめ、阪大精神科関連の諸先生方に深く感謝申し上げます。

最後に阪大精神医学教室のいいところについて簡単に。
精神医学は幅広い分野ですが、阪大は大きな医局で各分野の専門家が集まってい るため、日々のディスカッションを通して、精神医学各分野の知識を自然と深め ることができます。
若いうちに分野の全体像を眺めておくことは大切ではないでしょうか。
勉強会も毎週、豊富に開催されており、自分の興味に応じて選択することができ ます。
教室全体に学問をしようという雰囲気があり、その楽しさと厳しさを経験するこ とができます。 研究費は豊富にあり、研究機器は年々拡充されています。
研究対象としては、統合失調症、気分障害、認知症、神経症、てんかん、睡眠、 リエゾン、緩和ケアなど、研究手法としては、生化学、神経心理学、神経生理 学、精神病理学など幅広い分野におよんでおり、自分の興味に応じて選択してい くことになります。
臨床研修においては一人の患者を複数の医者で担当するため、時に意見が食い違 うこともありますが、独善的にならず多角的に患者をみる習慣を身につけること ができます。
また大学の外に目を転じると、大阪市およびその近郊の豊富に精神科病院および 総合病院精神科を有する関連の病院があり、臨床経験の豊富な指導医のもとで多 くの経験を積むことができます。
将来、精神科医・精神医学研究者になりたい医学生、研修医の皆さんにオススメ です。


[1] The expanded GGGGCC repeat in C9orf72 is translated into
aggregating dipeptide-repeat proteins in FTLD/ALS
Kohji Mori, Shih-Ming Weng, Thomas Arzberger, Stephanie May, Kristin
Rentzsch, Elisabeth Kremmer, Bettina Schmid, Hans A. Kretzschmar, Marc
Cruts,Christine Van Broeckhoven,
Christian Haass, Dieter Edbauer
Science 2013 Feb 7
http://www.sciencemag.org/content/early/2013/02/07/science.1232927


本研究の内容は以下のサイトで紹介されました。
Science now
http://news.sciencemag.org/sciencenow/2013/02/what-causes-lou-gehrigs-sticky-m.html?ref=hp



Kohji MORI M.D., Ph.D.

Adolf Butenandt-Institute, Biochemistry,
Ludwig-Maximilians University Munich
Schillerstrasse 44, 80336 Munchen
Germany
Phone: ?+49-(0)89 2180 75-478
Fax: ? ?+49-(0)89 2180 75-415
E-Mail:?Kohji.Mori@dzne.lmu.de

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