感染症免疫検査部門 <感染微生物検査室>

感染微生物検査室とは?

ヒトに肺炎や下痢症などの感染症をおこす原因微生物はおよそ1400種類以上あると言われています。微生物検査室では、患者さんより採取した検査材料を用いて「どのような菌が原因で病気を起こしているのか」、「どのような治療薬が有効か」について検査し、主治医に連絡しています。また、入院・外来患者様ならびに病院職員を院内感染から守るため、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などの薬剤耐性菌検査や迅速インフルエンザ検査等を実施しています。
さらに、患者様に安心安全な医療環境を提供するため、腎透析液の清浄管理、内視鏡の清浄度調査、手術器具の滅菌チェックおよび病棟の環境調査を定期的に実施し院内感染の発生を未然に防止しています。

検査内容

当検査室では、下記のような多岐にわたる検査・調査を実施し、患者様の感染症診断ならびに安心安全な医療環境の提供に貢献しています。

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    微生物検査の流れ

    微生物検査は、概ね下記の流れに沿って検査が行われています。血液検査など他の検査とは異なり、結果報告には時間を必要とします。

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    塗抹検査

    「塗抹検査」とは、患者さんから採取した検査材料(喀出痰など)中に存在する細菌を染色液で染色し、顕微鏡で拡大(多くの場合は1000倍)して観察する検査です。拡大して観察することにより、細菌の存在や炎症・感染の有無を把握することができます。さらに原因菌を推定することにより、抗菌薬を選択する際の判断材料にもなります。数10分から1時間程度で結果が分かるため、迅速性に優れた検査の一つです。

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    培養検査・同定検査

    検査材料中にどのような細菌が存在するのか、あるいは塗抹検査にて確認された細菌が実際にはどのような細菌なのかを知るために実施する検査が「培養検査」です。細菌は培養することで増殖し、肉眼でも観察可能な集落(コロニー)を形成します。「培養検査」で細菌に集落を形成させ、「同定検査」で集落を用いて様々な性状を確認しどのような細菌かを決定します。結果報告には少なくとも18~24時間が必要です。

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    薬剤感受性検査

    現在,日本国内で使用できる抗菌薬200種類弱の中で、いずれの抗菌薬が治療に使用できるのかを調べる検査が「薬剤感受性検査」です。原因菌に対し有効な抗菌薬、無効な抗菌薬を調べることにより、より適切な治療薬(抗菌薬)の選択が可能になります。結果報告には少なくとも18~24時間が必要です。

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    呼吸器感染症

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    呼吸器感染症とは咽頭炎や急性・慢性気管支炎、肺炎、副鼻腔炎など上気道、下気道および肺で生じる感染症です。

    主な原因微生物と検査方法

    原因微生物のうち最も多く検出される細菌として、肺炎球菌やインフルエンザ菌が挙げられますが、これらの他にモラキセラや緑膿菌、結核菌など様々な細菌が原因菌となります。またアスペルギルスなどの糸状菌と呼ばれるカビの仲間も原因菌となります。患者さんより採取した検査材料を用いて、「塗抹検査」にて細菌の存在や原因菌の推定、炎症・感染の有無などを確認し、「培養検査」にて原因菌を特定します。次に「薬剤感受性検査」にていずれの抗菌薬が治療に使用できるのかを調べます。(「微生物検査の流れ」参照)
    ウイルスではインフルエンザウイルスやアデノウイルス、RSウイルスなどが原因微生物として挙げられ、ウイルスの構成成分を特異的に検出する抗原検査により検出します。

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    検査材料

    上気道:咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、後鼻腔ぬぐい液
    下気道:喀出痰、吸引痰、誘発痰、気管支肺胞洗浄液、肺生検

    結果報告までの目安

    塗抹検査:検査材料到着当日

    培養検査:原因菌の発育する速さにより報告までにかかる時間が変わります。

    原因菌 報告までの目安
    細菌(肺炎球菌やインフルエンザ菌) 1~2日
    カビ 1日~4週程度
    結核菌やその仲間 1週~最長8週

    薬剤感受性検査:培養で得られた原因菌を対象に実施します。

    原因菌 報告までの目安
    細菌(肺炎球菌やインフルエンザ菌) 培養結果 + 18~24時間
    カビ 培養結果 + 4~5日
    結核菌やその仲間 培養結果 + 3~4週

    ウイルス抗原検査:検査材料到着当日

    腸管感染症

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    腸管感染症には、腸管に障害を引き起こす微生物を経口摂取することにより発症する感染性腸炎、微生物の産生する毒素などを経口摂取することにより発症する食中毒、抗菌薬投与により腸管の正常細菌叢が撹乱されることにより発症する抗菌薬関連下痢症があります。

    主な原因微生物と検査方法

    腸管に病原性を発揮する細菌として、サルモネラやカンピロバクター、大腸菌O-157、赤痢菌、コレラ菌、腸炎ビブリオなどが挙げられます。また毒素により食中毒の原因菌となる細菌として、黄色ブドウ球菌やセレウス菌、ボツリヌス菌が挙げられます。腸管感染症では主に「培養検査」にて原因微生物が存在するかを調べます。検査材料となる糞便には常在菌と呼ばれる細菌が大量に存在する為、これら常在菌と原因菌とを見分けやすくするための特殊な培地(選択培地)を使用して培養します。
    抗菌薬関連下痢症の代表的な原因菌であるディフィシル菌の場合、ディフィシル菌の構成成分および産生する毒素を特異的に検出する抗原検査およびディフィシル菌専用の特殊な培地を用いた培養検査により検出します。
    ウイルスでは、ロタウイルスやノロウイルスが主要な原因微生物として挙げられ、ウイルスの構成成分を特異的に検出する抗原検査により検出します。

    検査材料

    糞便、直腸粘液、胆汁など

    結果報告までの目安

    塗抹検査:検査材料到着当日

    培養検査:原因菌の発育する速さにより報告までにかかる時間が変わります。

    原因菌 報告までの目安
    細菌(サルモネラなど) 1~2日
    結核菌やその仲間 1週~最長8週

    薬剤感受性検査:培養で得られた原因菌を対象に実施します。

    原因菌 報告までの目安
    細菌(サルモネラなど) 培養結果 + 18~24時間
    結核菌やその仲間 培養結果 + 3~4週

    ディフィシル菌検査:検査材料到着当日~2日
    ウイルス抗原検査:検査材料到着当日

    尿路感染症

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    尿路感染症とは、腎盂腎炎など主に腎臓から尿管で起こる上部尿路感染症と、膀胱炎や尿道炎、前立腺炎など膀胱から尿道・前立腺で起こる下部尿路感染症の総称です。

    主な原因微生物と検査方法

    尿路に基礎疾患(尿路結石や前立腺炎など)が無い場合、最も多く検出される原因菌は大腸菌です。次いで大腸菌以外の腸内細菌やブドウ球菌などが検出されますが、概ね1種類の細菌が原因となります。一方、尿路に基礎疾患がある場合や尿道カテーテル留置などの処置が施されている場合、大腸菌はもちろんですが大腸菌以外にも緑膿菌や腸球菌などが原因となる例も多く、また複数種類の細菌が原因となる割合も増加します。患者さんより採取した検査材料を用いて、「塗抹検査」で細菌の存在や原因菌の推定、炎症・感染の有無などを確認し、「培養検査」で尿中に存在する菌量などを考慮し原因菌を特定します。次に「薬剤感受性検査」でいずれの抗菌薬が治療に使用できるのかを調べます。(「微生物検査の流れ」参照)

    検査材料

    尿(中間尿、カテーテル尿、膀胱尿)

    結果報告までの目安

    塗抹検査:検査材料到着当日

    培養検査:原因菌の発育する速さにより報告までにかかる時間が変わります。

    原因菌 報告までの目安
    細菌(大腸菌や緑膿菌など) 1~2日
    結核菌やその仲間 1週~最長8週

    薬剤感受性検査:培養で得られた原因菌を対象に実施します。

    原因菌 報告までの目安
    細菌(肺炎球菌やインフルエンザ菌) 培養結果 + 18~24時間
    結核菌やその仲間 培養結果 + 3~4週

    眼感染症

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    眼感染症とは、結膜炎や眼瞼炎、涙嚢炎、角膜炎、眼内炎など、眼およびその周囲で生じる感染症です。

    主な原因微生物と検査方法

    原因微生物は、黄色ブドウ球菌やインフルエンザ菌などの細菌、酵母、糸状菌と呼ばれるカビの仲間、アカントアメーバ、クラミジアなど多岐にわたります。眼感染症は、他の感染症よりも採取できる検査材料が極めて少量の場合が多く、すべての検査をまんべんなく実施できないことがあります。そのため、原因微生物特定のための適切な検査を実施するためには、コンタクト使用歴、眼に怪我を負いやすい職業歴や趣味(園芸、果樹栽培など)などの情報をもとに、推定される原因微生物に適した検査方法を選択します。患者さんより採取した検査材料を用いて、「塗抹検査」にて細菌の存在や原因菌の推定、炎症・感染の有無などを確認し、「培養検査」にて原因菌を特定します。次に「薬剤感受性検査」にていずれの抗菌薬が治療に使用できるのかを調べます。(「微生物検査の流れ」参照)

    検査材料

    眼瞼擦過物、眼脂、涙嚢分泌物、角膜擦過物、硝子体液など

    結果報告までの目安

    塗抹検査:検査材料到着当日

    培養検査:原因菌の発育する速さにより報告までにかかる時間が変わります。

    原因菌 報告までの目安
    細菌(黄色ブドウ球菌やインフルエンザ菌など) 1~2日
    アカントアメーバ 3~7日
    カビ 1日~4週程度
    結核菌やその仲間 1週~最長8週

    薬剤感受性検査:培養で得られた原因菌を対象に実施します。

    原因菌 報告までの目安
    細菌(表皮ブドウ球菌やインフルエンザ菌など) 培養結果 + 18~24時間
    カビ 培養結果 + 4~5日
    結核菌やその仲間 培養結果 + 3~4週

    薬剤耐性菌の伝播防止

    細菌の中には、抗菌薬に長期間さらされると耐性を獲得し、本来有効な抗菌薬が効かなくなるものがあります。これらの細菌をまとめて「薬剤耐性菌」と呼びます。近年、病院の中だけではなく病院の外(市中)でも薬剤耐性菌による感染が拡大しており国際的に大問題となっているほか、新しい薬剤耐性菌も次々と発見されています。安心・安全な医療の提供のためには薬剤耐性菌を常に監視し、地域、国内さらには国外にまで目を向けた幅広い情報収集が必要です。
    当検査室では薬剤耐性菌の院内アウトブレイクを早期に発見するため、週に1度、薬剤耐性菌がどれだけ検出されているかを病棟ごとおよび外来で集計し、調査・報告しています。また、年に1度、薬剤耐性菌の検出状況や阪大病院で検出された主要な細菌の薬剤感受性パターンを解析しています。さらに、その結果をホームページ上で公開し、他施設からも閲覧可能にする事により、院内に留まらず地域医療の充実に貢献しています。

    内視鏡の清浄度調査

    近年、内視鏡を用いた検査・診断技術は目覚ましく進歩しており、これに伴い内視鏡検査を受けられる患者さんは年々増加しています。当院では検査終了後の内視鏡は、ガイドラインを遵守した洗浄消毒を実施しています。当検査室では、次の患者さんが使用される内視鏡がきちんと洗浄消毒され清潔な状態であるか(清浄度)を定期的に確認し、内視鏡の清潔管理に貢献しています。

    清浄度調査方法

    洗浄消毒後の内視鏡から採取したサンプルの培養を行い、細菌が検出されないことを確認しています。

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    腎透析液の清浄管理

    定期的な清浄度調査

    日本では、透析療法を受けられる患者さんは年々増加し、2012年末の時点で30万人を超えました。このような透析患者さんに対し、さらなる安心・安全な透析療法の提供が強く求められるようになりました。当検査室では2006年12月より透析液の清浄度(エンドトキシン測定、生菌数測定)を定期的に評価しています。評価には各種ガイドラインを参考に基準を設け、透析液の清浄度評価に役立てるとともに、基準を逸脱した透析装置には使用中止措置を取れるような体制を整えています。

    エンドトキシン測定

    エンドトキシンとは細菌が有する毒素の一種で、血中に大量に混入するとショック状態(急性の循環不全を来し、様々な臓器や組織の機能不全に陥る状態)に陥る危険性があります。したがって、透析装置には透析液中のエンドトキシンを除去するフィルターが取り付けられており、安全に透析を受けられるような仕組みになっています。当検査室では定期的に透析液中のエンドトキシンを測定し、確実にエンドトキシンが除去されていることを確認しています。

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    生菌数測定

    エンドトキシンの除去が確認された透析液であっても、まれに生きた細菌(生菌)が存在することがあります。そこで、当検査室では、透析用水を定期的に培養し、生菌がどれくらい存在するのかを測定しています。

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