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Clinical Journal Club 13. Ecological Fallacy (生態学的誤謬)

Ecological Fallacy (生態学的誤謬)とは?

   Ecological Study(地域相関研究、又は生態学的研究)を解釈する際に注意すべき点として、Ecological Fallacy (エコロジカルファーラスィー: 生態学的誤謬(ごびゅう))があります。集団レベルで言えることが、個人レベルでは当てはまらない現象の事です。

   以下に、Ecological Fallacyを理解するためのEcological Study(地域相関研究)の例(フィクションです)をお示しします。架空の「キノコα」と「メガフードβ」の地域別、平均摂取量を例に見てみましょう。

Ecological fallcayの無い例

・・・集団レベルで言えることが個人レベルでも当てはまる

左上図) 「村P」と「村Q」の集団レベルデータ

   「村P」と「村Q」での平均寿命と、「キノコα」の平均消費量を調査してみたら、正の相関が有ることが分かりました。地域全体の統合データからは、「キノコα」は長寿と関係が有る!と仮説を立てることが出来ます。

左下図) 「村P」と「村Q」の個人レベルデータ

   「村P」と「村Q」の個人レベルのデータに分解してみても、「キノコα」と寿命には正の相関が有りました。「キノコα」と長寿の関係はより確からしいと思われます。(厳密には、「村P」と「村Q」の背景因子での補正が必要ですが、、、。)

   「村P」と「村Q」で、「キノコα」の摂取量以外の背景因子(収入や生活スタイルetc)が似通っている場合には、集団レベルで言えることが個人レベルの結果を反映している可能性が高く、Ecological Studyから導き出された仮説は、個人レベルでも当てはまると類推されます。

   次に、集団レベルでの観察結果が、個人レベルでの観察結果に反する例(Ecological fallacyに陥っている例)をお示しします。

Ecological fallacyの有る例

・・・集団レベルで言えることが個人レベルでは当てはまらない

右上図) 「国A」と「国B」の集団レベルデータ

   「国A」と「国B」での平均寿命と、「メガフードβ」の平均消費量を調査してみたら、正の相関が有ることが分かりました。地域全体の統合データからは、「メガフードβ」は長寿と関係が有る!と仮説を立てたくなりますね。

右下図) 「国A」と「国B」の個人レベルデータ

   しかし、「国A」と「国B」の個人レベルで調査(データを分解)してみたら、各国内では「メガフードβ」と寿命には負の相関が有りました。「メガフードβ」は長寿どころか、短命と関係が有りそうなのです!

   何故、集団レベルで言えたことが、個人レベルでは当てはまらないのでしょうか?これは、「国A」と「国B」とで背景因子(平均収入、生活スタイル、人種etc.)が大きく異なるからです。背景因子があまりにも違いすぎる集団を平均値で比べる時には、Ecological fallacy (生態学的誤謬)に陥ることがある為、注意が必要です。

Ecological Study(地域相関研究)の意義

   こうして見ると、Ecological studyEcological fallacyに陥る危険があるから、"やっても無駄な研究"と思われるかもしれませんが、特に仮説の創生(Hypothesis generation)には良い研究です。真実を見出そうとする時に、初めから大規模なRCT(比較対照試験)を立ち上げるのは、手間・金銭的な面からも奨められません。Ecological Study仮説の検証(Hypothesis testing)にはなりませんが、(手間・金銭をかけずに)比較的簡単に行えるという長所があります。研究デザインの位置付けを認識した上で、評価しましょう。