トップページ > 臨床研究の紹介 > Clinical Journal Club > 7. Medical Writing

Clinical Journal Club 7. Medical Writing

   第49回外国語メディア教育学会(2009年8月6日流通科学大学)において、本ページが紹介されました。
ESPアプローチとコーパスを利用したCALL教室での医学系大学院生を対象とした英語論文指導
照井雅子(大阪大学大学院言語文化研究科)
野口ジュディー(武庫川女子大学)

English for Specific Purposes (ESP: イーエスピー)とは?

   日常会話で用いる英語を、English for General Purposes (EGP: イージーピー)と呼ぶのに対して、ある特定のコミュニケーションの場面に適した英語をEnglish for Specific Purposes (ESP: イーエスピー)と呼びます。

   貴方がこれから書こうとしているのは、医学(更にSpecificに言うと、腎臓病学)に関する論文です。腎臓病学を探求するという、共通目的を持った集団(Discourse Community: ディスコースコミュニティー)で、繰り返し現れる言葉の種類(Genre: ジャンル)を認識せねばなりません。

   文学を書こうとするのであれば、高名な作家の文章を参考にしましょう。

ESPとEGPの相違例

例1) 医学英語では、「However,」は文頭に来ても良い。・・・むしろ、文中で使うより、文頭で使う方が多い!

   文学表現では、「 , however」と文中で用いますが、医学英語では、「However, 」と文頭に持ってきても構わないのです。何故このような違いが生じるのでしょうか? それは、言語の使用目的が異なるからです。文学では流暢に伝えることでカッコイイ響きを生み出しますが、医学では流暢に伝えることよりも、正確に伝えることが重視されます。医学論文では、Sentenceの長さが文学に比べて短い事実に気づいている方は多いと思います。より分かりやすく伝える為に、(箇条書きに近い形で)言語が進化しているのです!

例2)such as」の使い方

   医学では「such as」を修飾したい単語のスグ後に持ってくることが多いですが、文学では修飾する語をsuchとasでサンドウィッチすることが多いです。

言語の歴史的変遷

   明治初期に、福沢諭吉が「難解な文語調は分かりにくく、実学では分かりやすさが重要である」と説いてから、言文一致の機運が起こりました。坪内逍遥の「小説真髄」に指摘されているように、当初は言語調をそのまま文章にすると軽薄な印象を受ける為、当初は受け入れ難かったようですが、(英文は文語調と言語調が同じであり、非常に分かり易いことに感銘を受けた)樋口一葉の「浮雲」では「〜だ。」調が取り入れられ、成功を収めます。その後、「ですます調」「である調」も成功を収め、以後言文一致が広まっていった経緯があります。

   言葉は生きています。時代とともに変わって当然です (Medical Englishでさえも、時代と共に変遷しています)。Corpus言語学(後述)は、福沢諭吉の説く「実学における文語のあり方」から外れるものではありません。英文学に慣れ親しんだ人の中には、違和感を覚える方もいらっしゃるでしょうが、「目的の違いで言葉は変化する」事を認識すれば、医学固有の言い回しも受け入れ易いと思います。

Corpus (コーパス)言語学とは?

   それでは、腎臓病学というDiscourse Communityにおける英語の特徴を掴むにはどうしたら良いのでしょう?

   従来は、「論文を読みまくって、同じ表現をパクル」という方法しかありませんでしたが、今や「Corpus (コーパス)言語学」の時代です! 3Cを意識したGenre (ジャンル)分析で、論文をBrush upしましょう。

   3Cとは、

1 Corpus (コーパス) 言語資料を集めたデータベース
2 Concordance (コンコーダンス) 使いたい語句や文例を見つけるソフトウェア
3 Collocation (コロケーション) 後に続く情報を示す信号のような表現

の3つです。

   英語では、以下のように定義されます。

1 Corpus a database of texts of the target genre
2 Concordance software to help view text features
3 Collocation words that frequently appear together in this genre being examined

   "百聞は一見にしかず"ですので、実際に体験してみましょう。

 

既存のCorpus(コーパス)を利用する (初級編)

   まずは、医学系CorpusのWeb LSDを使ってみましょう。

医学系Corpus: WebLSD
-> http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/ja/service/weblsd/index.html

その他のリンク: Online CORPORA
-> http://corpus.byu.edu/

 

Web LSDの使用例

   Web LSDに入り、下図のように、「however」と入れて、「共起表現」をクリック。

   文頭でもしっかり使われていることが分かりますよ。

共起: Collocation (語と語の繋がり)
Corpora (コーポラ) : Corpusの複数形

   3Cの解説に戻りますが、 WebLSDにおける (1) Corpus (コーパス:言語資料を集めたデータベース)とは、PubMedに集められるAbstractデータベースのことです。(2) Concordance (コンコーダンス)とは、このサイトのような検索ソフトを指します。(3) Collocation (コロケーション)とは、「However, little is known about,,,」のような頻出表現のことです。

   論文作成時、単語の使用法に迷ったら、ココで適切なCollocationを見つけましょう。

Original Corpusを作成する (上級編)

   上記Web LSDは、Abstractのみをデータベース化しているので、例えば、「Discussion」などで使用される言語は含まれていません。また、自分の関心領域に特化していないのが弱点です。

   最終的に論文を作成する時には、referenceとして20〜30本は論文を参照することになりますから、自分OriginalなCorpusを作成しましょう。

手順 Corpus Building
1 論文をPDF形式で入手 (ドキュメントスキャン等でOCRしても良い)
2PDFを開き、「名前を付けて保存」を選ぶ。
3 「ファイルの種類」を「テキスト (プレーン) *.txt」に変更して「保存」
4 すると、論文がテキスト形式に変換される。
5 上記作業を、他の論文でも行い(10本以上が望ましい)、まとめて1つのフォルダに入れておく。

 

   Corpus Buildingの次は、Condordance Programの入手です。

   Anthony先生のAntConcをダウンロードしましょう。
-> http://www.antlab.sci.waseda.ac.jp/software.html

 

   ここまでで準備は完了です。実際にAntConcを使って見ましょう!

   日本語解説は、神戸大学 石川慎一郎先生のサイトが秀逸です。
-> http://www11.ocn.ne.jp/~iskwshin/antconc.html

手順 AntConcを使おう!
1 AntConcの.exeファイルを実行
2-1 Corpus Fileの読み込みを行います。
2-2 左上の「File」を選び、「Open Dir」を選ぶ。
2-3 「textが入ったフォルダ」を指定。
3 調べたい単語(例えば、「however」)を入力。

 

   これで、自分の領域: Discourse Community(ディスコースコミュニティー)のGenre(ジャンル)分析が出来るように成りましたね。貴方の論文も進化している筈!?です。

   (Genre分析は実際にやってみるまでは有り難さが分かりませんでした。20文献ほど集めてやってみると"使える"ことが分かりますよ。)

 

謝辞: 御指導賜りました、野口ジュディー教授に心より御礼申し上げます。

推奨文献

(1) 「理系たまごシリーズB 理系英語のライティング
      野口ジュディー、深山晶子、岡本真由美 著
      アルク

(2) 「ESP的バイリンガルを目指して - 大学英語教育の再定義
      福井希一、野口ジュディー、渡辺紀子 著
      大阪大学出版会

 

-> ESPアプローチとコーパス (Corpus) を利用した英語論文指導