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Clinical Journal Club 14. バイアス

   臨床研究の基本的な目標は、exposureoutcomeの関係の強さを検討する事です。バイアスとは、exposureとoutcomeの関係の強さを系統的に歪めてしまうものであり、一般的に選択バイアス、情報バイアス、交絡に分類されます。それぞれのバイアスが、実際に臨床研究が進められているステップのどこに深く関与しているかに注目すると、理解しやすいです。

選択バイアス(selection bias)

   臨床研究の第1段階は、研究の対象となるtarget population(目的母集団)を設定し、target populationの中からsample(標本)をランダムに抽出する事です。選択バイアスが存在すると、target populationからのsampleの抽出がランダムに行われず、target populationとsampleの間にズレ(歪み)が生じてしまいます。

   実に様々な種類な選択バイアスが存在しますが、下記はその一部です。

Survivor Treatment Selection Bias

   生存期間が長い症例ほど、治療介入を受けやすい。

Referral Filter Bias (Healthcare Access Bias)

   予後不良例や治療抵抗例が専門施設に集積する。

Length-bias Sampling

   疾患罹患期間の長い症例(=予後良好例)が研究対象にされやすい。

情報バイアス(information bias)

   臨床研究の第2段階は、target populationからランダムに抽出された標本のデータを収集する事です。情報バイアスが存在すると、収集されたデータに歪みが生じてしまいます。

   実に様々な種類な情報バイアスが存在しますが、下記はその一部です。

Observer/Interviewer Bias

   対象症例のexposureやoutcomeの情報が先入観となり、データ収集に影響を与えてしまう。

Reporting Bias

   飲酒歴や喫煙歴の自己申告は、過小申告の傾向がある(underreporting bias)。

Lead-time Bias

   スクリニーング群の方が、疾患が早期発見されるため、非スクリニーング群よりも疾患罹患期間が長くなる(=予後良好である)。

交絡(confounding)

   臨床研究の第3段階は、収集されたデータを解析することによって、exposureとoutcomeの関係の強さを評価する事です。交絡因子とは、exposureにもoutcomeにも関連している因子です。したがって、交絡因子の存在を考慮しなければ、expoureとoutcomeの関係を課題評価あるいは過少評価してしまいます。

   例えば、解析の結果、飲酒(expoure)と末期腎不全(outcome)の間に強い関連性が認められたとします。しかしながら、飲酒習慣のある人には、喫煙している人が多いため、末期腎不全を発症しやすいかもしれません。あるいはメタボリック症候群の人が多いため、末期腎不全を発症しやすいのかもしれません。喫煙とメタボリック症候群は、飲酒とも末期腎不全とも関連している交絡因子なので、飲酒(exposure)と末期腎不全(outcome)の関係を検証するためには、交絡因子である喫煙とメタボリック因子の存在を考慮しなければなりません。

バイアスの調整方法

   バイアスを調整するために方法は、研究デザインを立案する時点で制御する方法と、データ収集が終了した後に統計学的手法を用いて制御する方法があり、バイアスの種類によって異なります。

バイアス 研究デザイン 統計解析
選択バイアス ×
情報バイアス ×
交絡

   選択バイアス情報バイアスは、研究デザインを立案する時点で制御しなければならず、データが収集された後に調整することができません。

   一方、交絡は、研究デザインを立案する時点で制御したり、あるいは統計解析の時点で調整する事も可能です。

   したがって、バイアスを調整するために最も重要なことは、データ収集を開始する前段階である研究計画を立案する時点で、バイアスの制御を考慮した研究デザインを立てる事です。

参考文献

Delgado-Rodriguez M, Llorca J. Bias. J Epidemiol Community Health 2004; 58:635-641