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Clinical Journal Club 4. Ecological Study

疫学研究デザインの分類

   疫学研究デザインには、様々な分類法があります。介入の有無に基づいて、「観察研究」と「介入研究」に大別される事が多いです。しかしながら、実際に臨床研究が進められていく過程を考えると、仮説の段階に従って記述疫学分析疫学介入研究に分類した方が現実的でしょう。

介入の有無 研究デザイン 対象 仮説の段階
観察研究 生態学的研究
Ecological Study
集団 仮説を立てる
記述疫学
症例報告
Case Report
個人
症例集積
Case Series
横断研究
Cross-sectional Study
症例対照研究
Case-control Study
仮説を分析する
分析疫学
コホート研究
Cohort Study
介入研究 無作為割付していない介入研究
Non-Randomized Controlled Trial
仮説を検証する
介入研究
無作為割付した介入研究
Randomized Controlled Trial

   記述研究で立てられた仮説は、分析疫学でふるいにかけられて、最終的に介入研究によって検証され、エビデンスが作られていきます。下記のような疫学研究ピラミッドを思い浮かべれば理解しやすいかもしれません。

疫学研究ピラミッド
疫学研究ピラミッド

   もちろん介入研究が不可能な研究では、分析疫学のエビデンスレベルが最も高くなるという事実は認識しておかなければなりません。例えば、20歳の成人に無理やり喫煙をさせる「喫煙群」と喫煙を一切しない「非喫煙群」を作成して、喫煙の有害性をRCTによって証明する事は倫理的に不可能です。したがって、分析疫学が最高のエビデンスレベルを有する事になります。

記述疫学

   それでは、疫学研究の第一段階とも言える記述疫学に注目してみましょう。記述疫学(descriptive epidemiology)とは、変数の分布を記述することのみに関心があり,そのためにのみデザインされた研究です。その研究デザインには因果関係あるいは他の仮説検証を含みませんが,得られたデータは状況把握と仮説構築に用いられます。

   ロンドンでのコレラ流行状況をまとめたJohn Snowの研究は,優れた記述疫学研究の一例です(http://www.ph.ucla.edu/epi/snow.html)。

John Snowのコレラ研究

   John Snowの疫学的研究は、1883年にRobert Kochがコレラ菌を発見する30年も前に行われました。疫学的手法によって感染源・感染経路を解明する事で、病原体が不明であっても感染症流行を止めることができるという事を明らかにした歴史的な偉業です。現代の社会で行われている疫学研究も本質的にはJohn Snowの研究と全く変わりはありません。

   記述疫学において注意しなければならない事は、単なる仮説に過ぎず、信頼性が低い事です。そこで、まずは下記の5項目に関して、仮説の妥当性を検討する必要性があります。

   (1) 関連の一致性 (Consistency)
   (2) 関連の強固性 (Strength)
   (3) 関連の特異性 (Specificity)
   (4) 関連の時間性 (Temporality)
   (5) 関連の整合性 (Coherence)

   記述疫学で立てた仮説が上記を満たしていれば、分析疫学へ進みましょう。

Ecological Study

   Ecological study(生態学的研究)は、地域相関研究とも呼ばれます。集団を単位として,異なる地域に共通する傾向があるかの検討または一つの地域での経時的傾向を調べる記述疫学です。末期腎不全発症率と、エリスロポエチンの消費量との関係を示した古松等の研究はその一例です。

Furumatsu Y,et al. Nephrol Dial Transplant 984-990, 2008

Furumatsu Y,et al. Nephrol Dial Transplant 984-990, 2008

   Ecological studyは、観察の単位が地域、国、都道府県、市町村などの集団であるため、、集団レベル(group Level)での相関しか検討できません。したがって、交絡因子(撹乱要因)の影響を受けやすく(Ecological Fallacy、生態学的誤謬)、発見された相関関係が個人レベル(individual level)でも成り立っているとは限らないことに注意が必要です。