2.発見の詳細
<研究の背景と経緯>
多発性硬化症は、脳や脊髄、視神経などに炎症が生じ、重篤な神経症状をきたす神経難病です。多発性硬化症のはっきりした原因はまだ明らかになっていませんが、免疫系の異常、特に、抗原提示細胞 注5) によるT細胞の活性化に異常があると考えられています。しかしながらそのメカニズムについては、不明の点も多く、今後の解明が待たれていました。一方、RGMたんぱく質は発生の途上で神経の回路形成を制御するたんぱく質として知られていました。本研究グループは、RGMたんぱく質が抗原提示細胞にも発現していることを突き止め、免疫系におけるRGMの機能を解明することを目的として、本研究を遂行しました。
<研究の内容>
本研究グループは、抗原提示細胞である樹状細胞が活性化される時に、RGMの発現が高まることを見いだしました。さらに、この樹状細胞に発現しているRGMたんぱく質が、T細胞の活性化を強めることを明らかにしました(図1)。すなわち、抗原提示細胞がT細胞を活性化する際に、RGMはその活性化を促進することを示すものです。そこで本研究グループは、マウスに実験的自己免疫性脳脊髄炎 注6) を発症させました。これは、多発性硬化症に類似する脳脊髄炎を発症する実験モデルです。このマウスにRGMの機能を中和する抗体を投与すると、脳脊髄炎による神経症状が抑えられました(図2)。この中和抗体の効果は、樹状細胞に発現するRGMに結合することで、T細胞の活性化を抑えるためであることがわかりました。また多発性硬化症は脳脊髄炎の再発を繰り返す難病ですが、このRGM中和抗体は脳脊髄炎の再発を抑制する効果も持っていました(図3)。さらに研究グループは、多発性硬化症患者から採取した血液を用いて解析を進めました。その結果、RGM中和抗体は、末梢血中のT細胞からの炎症性サイトカイン産生を抑制しました(図4)。これらの結果より、RGM中和抗体は、T細胞の活性化を防ぎ、脳脊髄炎に特徴的な炎症性サイトカインの産生を抑制することで、自己免疫性脳脊髄炎の発症と再発を防止する効果をもつことが明らかになりました(図5)。
<今後の展開>
今回の研究成果は、RGM中和抗体が多発性硬化症の治療薬として有望であることを示したものであります。今後、ヒトに有効な治療薬(ヒト型モノクローナル抗体)の開発が期待されます。
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