私たちは、神経疾患の進行を抑制し回復を促進させる新薬の開発を行なっています。 速やかに治療薬を患者さんにお届けできるよう、産と学の力を結集し取り組んでいます。
中枢神経障害では、神経回路の破綻がおこるために神経症状が現れます。神経症状を改善させるためには、破壊された神経回路を修復する必要があります。ところが中枢神経系には軸索の再生を抑制する機構があるために、神経回路の修復は困難となります。私たちは軸索再生阻害の分子メカニズムの解析を行い、得られた基礎研究成果を土台としてRepulsive Guidance Molecule-a (RGMa)を標的とする抗体治療薬を開発しました。RGMaは免疫系細胞やグリア細胞に発現し、神経回路の再生を抑制するタンパク質です。また複数のシグナル伝達を制御することで免疫制御や細胞死の惹起、血液脳関門の制御にも働くなど多様な機能を有し(図1)、脊髄損傷や脳卒中、多発性硬化症、視神経脊髄炎、パーキンソン病、網膜疾患などの病態を増悪させることが示唆されています。RGMaを標的とする治療薬は、神経疾患に共通する病態である「壊れた神経回路」を修復させる効果を発揮することにより、多くの神経疾患に適応できると考えられます(図2)。近年、RGMの研究者コミュニティの連携が図られ、研究は加速しています(図3)。私たちは2005年に田辺三菱製薬株式会社と共同でヒト化RGM中和抗体の開発に着手し、2011年に新薬を創製しました(図4)。その後、非臨床試験を2018年に完了し、2019年より脊髄損傷を対象とした臨床試験を実施しています。開発した抗体治療薬は、神経疾患における複合的な病態に作用し効果を発揮することが期待されます。今後は複数の中枢神経疾患に対する本薬剤の治療効果の検証を進める予定です。
本研究開発に関連する基礎研究の概説
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/molneu/researchp1.html




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