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A) サイトカイン・増殖因子受容体を介する細胞増殖、分化、死の細胞内情報伝達機構に関する発生工学的、分子生物学的研究とこれらの異常による免疫異常、とくに自己免疫疾患の発症機構の研究

 


〔1〕初めに

(2)gp130からのシグナルの生体内 (in vivo)での役割の解明: gp130シグナル異常によって発症する自己免疫性関節炎の発症機構 

(3)図、gp130

(4)発表論文

 


 初めに

IL-6 induces a variety of funcitons, such as the differentiation of B cells to antibody forming cells, macrophage differentiation of M1 leukemic cells, neurite outgrowth in PC12 cells and growth of myeloma cells.

IL-6 induces the differentiation of B cells to antibody forming cells (Hirano et al, Nature 324, 73, 1986)

IL-6 is a growth factor of myeloma cells (Kawano et al, Nature 332, 83, 1988). Generation of plasmacytosis and plasmacytoma in IL-6 transgenic mice (Suematsu et al, PNAS,86, 7547, 1989; Suematsu et al,PNAS, 89, 232, 1992)

IL-6 induces macrophage differentiation of M1 leukemic cells (Miyaura et al, FEBS Letters, 234, 17, 1988; Yamanaka et al, EMBO J, 15, 1557, 1996; Nakajima et al, EMBO J, 15, 3651, 1996)

IL-6 induces neurite outgrowth in PC12 cells (Satoh et al, Mol. Cell. Biol., 8, 3546, 1988)

 

サイトカインは免疫系や神経系あるいは発生において重要な機能を果たしている生理活性分子である。本研究はサイトカインが受容体を介してどのような機構で細胞の増殖、分化、生存維持を誘導しうるのかを分子レベルで明らかにすることを目的としている。gp130は、当初IL-6 (interleukin-6)の受容体のコンポーネントとして、同定・cDNAクローニングされたものであるが、その後の研究から、IL-6のみならずLIF (leukemia Inhibitory Factor)、OSM (oncostatin M)、CNTF (ciliary neurotrophic factor)、IL-11、CT-1 (cardiotrophin-1)といったIL-6ファミリーサイトカインの受容体の共通コンポーネントであることが明らかとなっている。その一次構造は、他のサイトカイン受容体(G-CSF受容体、IL-3/IL-5/GM-CSF受容体、エリスロポエチン受容体、種々のinterleukin受容体等)・ホルモン受容体(growth hormone受容体、prolactin受容体、leptin受容体等)と細胞外領域に保存された領域(WSXWSモチーフおよびcystein残基の位置)を持ち、I型サイトカイン受容体スーパーファミリーと呼ばれている。IL-6ファミリーサイトカインは、gp130を介して、T細胞・B細胞等の免疫細胞、造血細胞、肝細胞、神経細胞に対して、増殖・分化・細胞死の抑制など多種多様なシグナルを細胞内へ伝えることが知られているが、そのメカニズムは明らかでない。
 gp130を介するシグナル伝達は、IL-6のシグナル伝達を中心に解析されてきた。IL-6は、細胞膜上に存在するIL-6受容体aと結合する。さらに、IL-6受容体aは、gp130と会合するとともにgp130どうしの二量体(homodimer)形成を誘導する。gp130の細胞内領域には、 I型サイトカイン受容体スーパーファミリー間で保存された、領域Box1, Box2構造が存在し、この部分にチロシンキナーゼJAK (Janus kinase)ファミリーに属するJAK1, JAK2, TYK2が構成的に会合することが明らかとなっている。刺激により、gp130が二量体を形成するとともに、gp130に会合するJAKも相互接近し、JAKどうしをチロシンリン酸化することにより活性化するものと考えられている。さらに、活性化されたJAKは、JAKをリン酸化するだけでなく、gp130細胞内領域存在するチロシン残基および、種々のシグナル伝達分子をリン酸化し、活性化することが知られている。これらシグナル伝達分子の内、転写因子STAT3 (signal tranducer and activator of transcription 3)は、分子内に、特異的リン酸化チロシン構造を認識するSH2 (src homology 2)ドメインを有し、gp130細胞内領域リン酸化チロシンを特異的に認識し、gp130上に運ばれてくると考えられ、JAKによりチロシンリン酸化される。チロシンリン酸化されたSTAT3は、自身のSH2ドメインを介してSTAT3二量体(homodimer)あるいはSTAT1との二量体(heterodimer)を形成し、核内へ移行し、特異的DNA配列を認識して結合し、多くの遺伝子の転写を制御していることが知られている。また、リン酸化チロシン特異的脱リン酸化酵素(phosphotyrosine phosphatase)の一つであるSHP-2も、STAT3同様、分子内にSH2ドメインを有し、gp130のチロシンリン酸化とともにgp130上へ運ばれ、JAKによりチロシンリン酸化されると考えられている。gp130は、細胞内領域に6個のチロシン残基を持っているが、その内、細胞膜領域から数えて2番目のチロシン(Y2, Y759)は、その周辺アミノ酸配列(YSTV)が、SHP-2のSH2ドメインにより認識される配列であること、このチロシンのリン酸化がSHP-2のリン酸化に必須であることが明らかとなっている。また、3番目から6番目のチロシン残基は、すべてチロシンのC末端側3番目の位置にグルタミンを有しており(YXXQモチーフ)、このモチーフが一つでも存在すれば、STAT3の活性化が誘導されることが明らかとなっている。
我々は、gp130からのシグナル伝達を解析するため、gp130の細胞外領域をGrowth hormone(GH)あるいはG-CSF受容体に置き換えたキメラ受容体およびその細胞内領域に種々の変異を導入した受容体を作成し、種々の細胞に形質導入し、種々のシグナル伝達に必要なgp130の領域を検討してきた。その結果、マウス白血病細胞株M1細胞の細胞増殖停止・マクロファージへの分化には、YXXQモチーフからのSTAT3の活性化が必須であること( EMBO J. 15:3651-3658, 1996. (Abstract)(PubMed)、 EMBO J. 15:1557-1565, 1996. (Abstract) (PubMed)、マウスB前駆細胞株BAF-B03のgp130依存性の細胞増殖には、2番目のチロシン残基から(SHP-2を介している可能性が強い)の細胞分裂促進のシグナルと、YXXQモチーフからSTAT3介した細胞死抑制のシグナルの二つのシグナルが必要であることを見い出した(Immunity 5: 449-460, 1996. (Abstract) (PubMed)(Immunity on line for Full TEXT)。またSTAT3の標的遺伝子としてc-mycとpim1/2を明らかにした(J. Exp. Med. 189: 63-73, 1999 (Abstract)(PubMed)、Immunity 11, 709-719, 1999. (PubMed) (Full Text in Immunity))。一方、gp130刺激によるPC12細胞の神経細胞への分化には2番目のチロシン(Y2, Y759)を介するMAPKの活性化が重要であり、3番目いかのチロシン(Y3-Y6)を介するSTAT3の活性化は抑制的に作用することを明らかにした(EMBO J. 17: 5345-5352, 1997(Abstract).(PubMed)。さらに、SHP-2およびSTAT3のシグナル以外に、JAKから直接STAT5(STAT3同様STATファミリーも属する)が活性化されること(Oncogene, 14: 751-761, 1997. (Abstract)(PubMed)、JAK以外にもTec型のチロシンキナーゼ(Tec/Btk)が活性化され、その下流にPI-3 kinaseやアダプター分子Vavが存在することを見い出した(Oncogene, 14: 2273-2282, 1997 (Abstract)(PubMed)。さらに、gp130からの新規のシグナル経路として、アダプター分子Gab1がgp130のチロシンリン酸化非依存性にJAKによりリン酸化されること。Gab1が、gp130刺激依存性にSHP-2およびPI-3キナーゼと会合すること、Gab1のシグナル伝達下流にMAPキナーゼERKが存在していることから、Gab1がSHP-2からERKへのシグナル伝達に重要な役割を果たしている可能性を明らかにしてきた(Mol. Cell. Biol. 18:4109-4117, 1998. (PubMed)(Full Text in MCB))。さらにGab2をクローニングし、Gabファミリーが種々のサイトカインや増殖因子、抗原受容体を介するシグナル伝達に関与していることを明らかにした(Blood, 93:1809-1816, 1999.(PubMed)). またGab1ノックアウトマウスを作成し、Gab1がサイトカインからMAPKへのシグナル伝達に必須であることを明らかにするとともに、心臓や胎盤の形成に必須の役割を担っていることを明らかにした(Mol. Cell. Biol. 20, 3695-3704, 2000.(PubMed)(Abstract)(Full Text in MCB)。さらに我々は生体内におけるgp130シグナルの役割を明らかにするために、gp130を介するSTAT3あるいはSHP2シグナルのみを特異的に欠失したgp130、すなわちシグナル特異的変異gp130を発現しているノックインマウスを樹立したImmunity, 12, 95-105, 2000. (PubMed) (Full Text in Immunity))。さらに重要な点はSHP2サイトに点変異を導入したgp130を発現しているノックインマウスは生後1−1年半後に100%関節リウマチ様自己免疫疾患を発症することが明らかになった(Atsumi, T et al., A point mutation of Tyr-759 in interleukin 6 family cytokine receptor subunit gp130 causes autoimmune arthritis. J. Exp Med. 196: 979-990, 2002 (PubMed))。この事実より、インターロイキン6ファミリーサイトカインのシグナル異常によって関節リウマチ様自己免疫疾患が発症しうることが初めて証明された。今後自己免疫疾患の発症機構を解明するために非常に有用なモデルマウスになる。

以上の様に、gp130を介するシグナルは大きく、(i) JAKからのgp130のリン酸化を介しない直接のシグナル、(ii) gp130細胞内チロシン759のリン酸化依存性にリン酸化されるSHP-2を介するシグナル、(iii) gp130C末端YXXQモチーフのチロシンリン酸化依存性にリン酸化活性化されるSTAT3を介するシグナル、の3つに分けることができる。これら我々が10年かけて明らかにしてきた研究成果をもとに、Gabファミリーを介する免疫、癌、サイトカインシグナルの研究、gp130シグナル異常によって発症する自己免疫疾患の発症機構の免疫細胞レベル、分子細胞レベルでの研究を集中して行う。

 

 

(1)gp130からのシグナルの生体内 (in vivo)での役割の解明

(a) gp130シグナル異常によって発症する自己免疫性関節炎の発症機構 

 我々は生体内におけるgp130シグナルの役割を明らかにするために、シグナル特異的変異gp130を発現しているノックインマウスを樹立した(Immunity, 12, 95-105, 2000. (PubMed) (Full Text in Immunity))。ヒトgp130のチロシン759およびYXXQモチーフを持ったチロシン767, 824, 905, 915をフェニールアラニンに変換した変異体(F2, F3-6)は、それぞれSHP-2・STAT3を介するシグナルを伝達することができない(シグナル変異体)。これら変異体及び野性型cDNAの細胞膜・細胞内領域を含む断片をマウスES細胞のgp130染色体DNAの同じ部分に相同組み換え法により挿入する(ノックインマウス)。このES細胞においては、組み込まれた遺伝子上では細胞外をマウスgp130、細胞膜・細胞内領域をヒトgp130及びその変異体に置換されたマウスーヒトキメラgp130を発現する。このES細胞を胚胞卵に注入しマウス子宮体に戻し、キメラマウスを作成する。交配により最終的に相同染色体両方のgp130遺伝子に変異を有するマウスを作成した。その結果、gp130を介するSTAT3シグナルは抗体産生、B細胞分化等に必要であること、SHP2シグナルはMAPKの活性化には必須だが、STAT3シグナルには負の作用をしていることを明らかにした。最近SHP2シグナルを欠損したgp130発現マウスにおいて生後1年ー1年半経過するとほぼ100%の個体において自己免疫性の関節炎が発症することが明らかになった。この関節炎はヒトの慢性関節リウマチ(RA)に酷似しており、RAの発症機構を研究する上で大変貴重な動物モデルであることが明らかになった。現在さらに免疫学的に詳細な解析を行っている。またなぜgp130を介するシグナル異常が自己免疫疾患を発症するのかという点に焦点を宛てて研究を進めている。特に樹状細胞やT, B細胞へのgp130シグナルがどのように免疫応答に関与しているのか?あるいはこの異常がどのような機構で自己免疫疾患発症に至るのか?という問題を解決すべく研究を進めている。このモデルは自己免疫疾患をサイトカインのシグナル異常という観点から免疫学的見地からのみならず、分子生物学的手法を使用して解析することが出来る貴重なモデルである。今後我々の研究室の長年にわたるシグナル伝達機構の分子生物学的研究の経験を活かして、研究室の総力を結集して、この免疫学、医学における最重要命題であり、かつ私が28年前に医学部を卒業して、免疫学に踏み込んで以来の夢である、セルフトレランスの破壊機構、すなわち自己免疫疾患の発症機構を解明し、自己免疫疾患の治療法開発のための基礎情報を得たいと考えている。おおいに新規な若い研究者の参加を期待している。

現在進行中の具体的な研究プロpジェクとは以下のようである

1,遺伝的背景と自己免疫の関係、促進遺伝子、抑制遺伝子の同定を目指す

2,自己免疫を促進する他の要因の解析(細菌感染、HTLV-p40Taxなど)

3,発症、及びエフェクターに関与する細胞の同定と、分子レベルにおける異常

4,発症以前における異常、細胞のレベルから、シグナルのレベルから(DNAチップ、遺伝子発現、等)

5,T細胞のネガティブ、ポジティブ選択の異常

6,メモリーT細胞の異常

7,樹状細胞の異常、

8,胸腺におけるT細胞分化異常、細胞運動異常

9,破骨細胞の異常

 
Figures for gp130

 

 

 


発表論文(抜粋):

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