腎グループ 研究概要

はじめに

腎臓を通して、また麻酔管理の視点から患者予後の改善を目指しています。
周術期・集中治療領域で、急性腎傷害の研究を中心に行っています。
麻酔管理の視点から、麻酔科(手術室)領域での臨床研究も行っています。
現在取り組んでいる大きなテーマは2つです。

1. 尿中酸素分圧持続測定を用いた急性腎傷害研究

尿中酸素分圧持続測定という他にはない手法を用いて、急性腎傷害の研究を行っています。
急性腎傷害は発生頻度が高く、患者予後に影響する病態であることが明らかになっています。腎臓の状態のリアルタイムなマーカーがなく、早期診断や治療法の開発の障壁になっており、治療を変容できるマーカーの確立が求められています。
急性腎傷害発症の鍵となるメカニズムは腎髄質酸素分圧の低下であり、動物実験で尿中酸素分圧が腎髄質酸素分圧を緊密に反映することを明らかにしてきました。私達は動物実験レベルであった尿中酸素分圧測定を実臨床に応用すべく準備を進めてきました(トランスレーショナルリサーチ)。現在、尿中酸素分圧持続測定を用いて、急性腎傷害の早期発見、治療法の探索を目的とした実臨床での測定および臨床研究を実施しています。急性腎傷害の早期発見にとどまらず、発症機序や治療法開発の可能性を示唆する知見が得られ始めています。実際の測定例です。

またシステミックなパラメーターだけでは、腎臓内の酸素化を予測することは難しい可能性もあることが分かってきました。今後は尿中酸素分圧持続測定を用いて、多くのことを明らかにしていき、急性腎傷害の早期発見、予後改善に繋げていきます。
尿中酸素分圧持続測定を医療機器として世に出すことを目的として、大阪大学未来医療センターと連携し、医療機器の開発も行っています。
尿中酸素分圧研究会を国内7施設で結成し、医療機器としての承認・保険適応を目標に、海外の研究者とも一緒になって多施設臨床研究の準備も進めています。

臨床での尿中酸素分圧持続測定。

2. レミマゾラム麻酔の心臓外科手術後せん妄への影響: ランダム化比較試験

集中治療に長く関わってきた経験から、麻酔科(手術室)には患者予後を改善させる多くの視点があると感じています。全身麻酔薬や麻酔管理のエビデンスの構築、患者予後の改善を目指しています。現在は麻酔薬の選択による患者転帰への影響を中心に検討を行っています。代表的な研究は心臓外科術後せん妄をターゲットとした新規全身麻酔薬と従来の麻酔薬を比較する単施設RCT(ReDCard trial, jRCT番号:jRCT1051210195)になります。他の診療科との良好な関係をもとにした、院内の多くの診療科・部署が関わる本格的なRCTであり、患者転帰の改善につながることを期待しています。今後は多施設のRCT実施も視野に入れています。
今後も手術室での麻酔管理をテーマにした臨床研究を計画しており、新しく来られる先生方のクリニカルクエスチョンに答える研究(前向き・後ろ向き)も企画可能です。麻酔薬/麻酔法の腎機能への影響は未検討な部分が多く、研究タイトル1,2を組み合わせて、麻酔薬/麻酔法の腎機能への影響も研究していきます。

3. その他、国内・海外施設との共同研究

国内外の施設と連携した基礎研究・臨床研究を行っています。共同研究にも積極的に参加し、国内での多施設臨床研究(J Crit Care. 2017; 38: 253-258)、国際的なネットワークを活かした調査研究を行った実績(Crit Care. 2021; 25: 45)もあります。
現在はPharmacokinetics of Antibiotics in Critically Ill Patients Receiving CVVHF
(NCT04800952)で日豪の国際共同研究を行っています。また実施した国際多施設観察研究の結果を受け、前向き研究も今後も継続していく予定です。