研究

高血圧・老化研究室 Section of Hypertension & Aging Research

2022年研究成果 【高血圧・老化グループ: Hypertension and Aging Research】

1.基礎研究

レニンーアンジオテンシン(RA)系の新規メカニズムの解明

パターン認識受容体(PRR)リガンドがAT1を活性化するメカニズムに関する研究を実施中である。酸化LDLによる受容体(LOX-1)を介したAT1の活性化により酸化LDL-LOX-1-AT1複合体が細胞内に取り込まれることや(2021 iScience)、AGE受容体(RAGE)リガンドが同様にAT1を活性化させる機構を見出した(2021 Sci Rep)。酸化LDLとAIIが同時にAT1を活性化すると反応が増強し、腎傷害やアルドステロン産生が増強することや、amyloidβとRAGEの結合によるAT1活性化がアルツハイマー病進展に寄与することを支持する結果を得ており検討を進めている。また、RA系における抑制系分子であり、COVID-19原因遺伝子受容体のACE2が老化に及ぼす影響を検討中である。これまでに高齢ACE2欠損マウスが筋量筋力低下や皮膚菲薄化を呈し、この老化形質はA1-7を介する経路やRA系活性化に依存しないことを見出した(2018 J Cachexia Sarcopenia Muscle., 2019 Clin Sci(Lond)., 2020 Hypertens Res. 2020 Clin Sci(Lond)(review). 2021 J Am Heart Assoc., 2022 Front Nutr.(review))。現在、ACE2の老化制御機構に関して腸管ACE2に着目し検討を開始している。

各種加齢性疾患におけるαシヌクレイン(SNCA)の新規病態メカニズムの解明

これまでに血中SNCAは糖代謝及び血圧に対し、保護的に作用するが、加齢に伴い低下し、糖代謝異常や高血圧に関与する可能性を報告してきた。SNCAは血管内皮細胞にも発現し、また、分泌していることを発見し、更に内在性及び外因性SNCAは血管内皮に対し、保護的作用を有し、老化に伴い低下することで血管内皮障害による血圧上昇に関与する可能性を報告した(2022 FASEB J)。また、脳血管内皮細胞におけるSNCAはβ secretaseやtight junction関連蛋白の発現に関与していることを見出し、認知症の病態への関与も検討している。更に、血管内皮及び赤血球特異的ノックアウトマウスを作成し、詳細な解析を予定している。SNCAの病理学的機能としては、老化によるSNCA凝集に伴う分子形態変化のneurovascular unit障害への関与及びその治療標的分子について検討中である。

高齢者におけるSNRAEタンパク質とオートファジーによる老化の全身への広がりの解明

生体内では日々、細胞が増殖・分解を繰り返し、動的平衡状態を保っている。同様に細胞内小器官も細胞内で動的平衡状態にあり、これを実現するオートファジーは加齢に伴い低下する。これまで独自の臓器スライスカルチャーでオートファジーの異常による膵腺房細胞での病的分泌と膵炎発症機構を明らかにし、その機能を改善する機構を解明してきたてきた(2020 Autophagy.)。また、インスリン分泌、細胞膜癒合に関わるSNAREタンパク質の新しい特性を見出した(2022 Nat Commun.)。さらに現在は老化によるオートファジー機能変化とSNAREタンパク質の変化と細胞老化関連分泌形質(SASP)による老化現象の局所から全身への広がりの解明を検討している。

2.臨床研究

SONIC

保健学科神出計教授主導の元、大阪大学歯学部池邉一典准教授、および大阪大学人間科学部権藤恭之准教授との共同研究である健康長寿の因子検索のためフィールドワーク(SONIC)を、兵庫県朝来市、伊丹市在住の高齢者を対象に実施している。

認知症

老年内科医が診る認知症として、早期診断および介入によりADLとQOLをいかに維持するかをメインテーマとしている。 物忘れ検査入院では、詳細な認知機能検査に加え、High-quality CSF(cerebrospinal fluid)バンクを構築している。これら豊富な脳脊髄液バイオマーカーのデータを用いて神経病理学的背景と認知症の表現型を悉皆調査し、病理学的背景に基づいたADの未知の関連因子Xの解明や放射線科との共同研究によりMRIの次世代イメージング解析方法(NODDI)の有用性を検討している。

新しいフレイル評価法の探索

正確な予後推定を可能とし、かつ、簡易な診療情報のみから算出可能なフレイルの評価法を開発することを目的として、全国4施設の老年内科病棟の急性期入院患者の前向きコホート研究を実施している。また、老年代謝・糖尿病グループと共同で、新規技術を用いてフレイルを定量評価する手法を開発している。歩行動画の解析や連続バイタル測定が可能なウェアラブルデバイスを用いた解析などを進めている。

せん妄予防に対する多職種介入の有用性の検討

2020年1月より、せん妄リスクの高い高齢者に対し包括的に介入する新しい多職種チーム(通称エルケアチーム)の活動を開始した。チームは老年内科医、精神科医、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、医事科職員より構成され、医療情報部とも連携し、Multimorbidityに対する多職種介入により、せん妄予防に貢献している。現在、エルケアチームは阪大病院全体のクリニカルパスにおけるせん妄や転倒リスクの高い睡眠薬の是正も行っており、エルケアチームの発足による効果を検討中である。

睡眠呼吸障害

高齢者の睡眠呼吸障害に関して、従来の重症度指標に加えた新たな予後予測マーカーの開発研究を予定している。

その他

原発性アルドステロン症のデータベース構築(JPAS)にも参加し、高齢者PAの病態や治療に関する研究等を報告してきた(2018 JCEM, 2018 J Hypertension, 2019 Hypertension, 2020 Clin Endocrinol(Oxf), 2020 Hypertension, 2021 Scientific Reports)。現在JPAS研究を発展させたJPAS2に参加しており、引き続き重要課題について検討していく。また、外来高齢高血圧患者の認知機能低下の実態に関して多施設共同研究を行い、横断的データの解析を報告した(2021 Hypertens Res.)。縦断的データ解析では経時的な認知機能低下と筋力低下が同時に生じることを見出しており、報告予定である。

所属者

山本浩一、鷹見洋一、高橋利匡、本行一博、横山世理奈、野里陽一、中嶋恒男(臨床遺伝子治療学)、井原拾得、小原僚一、竹下ひかり(森之宮医療大学)、竹屋泰(保健学科)、神出計(保健学科)、黄一彬(留学生)、王誠(留学生)、王紫溦(留学生)、劉維東(留学生)、郭昱(留学生)、尹楠翔(留学生)
木村英梨子(秘書)、小石喜典(技術補佐員)、田中知香(技術補佐員)、曹婧婧(技術補佐員)

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