臨床研修お問い合わせ先
牧野知紀 tmakino@gesurg.med.osaka-u.ac.jp
三吉範克 nmiyoshi@gesurg.med.osaka-u.ac.jp
消化器外科は、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門にいたる消化管と、肝臓、膵臓、脾臓などの実質臓器など多岐にわたる臓器の、腫瘍性疾患、炎症性疾患、機能性疾患など多彩な病態に対する外科的疾患を扱っており社会的ニーズの最も多い診療科のひとつです。特に、年々増え続ける悪性腫瘍のほとんどが消化器系癌であり、この外科的治療を含めた集学的治療の大部分を担っているのが消化器外科医です。消化器外科医は、ただ単に手術だけではなく、内視鏡検査、超音波検査、画像診断能力など、種々の検査診断技術も身につける必要があり、さらに、周術期の全身管理に必要な、循環器、呼吸器、内分泌管理能力も必要です。又、癌に対する、手術の前後に行う化学療法も消化器外科が担当する場合が多く、薬物に対する知識、治療経験も必要になります。つまり、消化器外科医は、一般的医療のオールマイテイーであるといっても過言ではありません。確かに研修は楽ではないかもしれませんが、多くの同僚たちと友情を深めながら切磋琢磨し、さらに仕事に対する充実感、達成感を味わうことが多く、やりがいのある診療科であると確信しております。皆さん、医療の最前線に常に立つことの出来る消化器外科に、ぜひ足を踏み入れてみてください。
1)大阪大学消化器外科とは
大阪大学消化器外科の最大の特徴は、大阪近辺の大規模病院を多数関連病院として登録している点であり、他大学と比較して、 共同研究、人事交流がスムースに行えるという特徴があります。実際、大阪大学消化器外科は50近い関連病院と人事交流を行っており、すべての関連病院を加えると総病床数約18000床, 消化器外科の年間手術症例数約28000と、我が国でも最大規模かつレベルの高い診療グループを形成しております。関連施設が多いため、個々のキャリアプランや、目標とする医師像に応じた勤務先を選びやすく、多様な希望に応じやすいのが大阪大学消化器外科グループの特色といえると思います。 また阪大と関連病院の消化器外科は協力して大規模の多施設臨床研究を積極的に行っており、関連病院全体のレベルアップにつながっております。
大阪大学消化器外科は、平成20年の春に新しくなり、森正樹教授、土岐祐一郎教授の2名の教授のもと、上部消化管、下部消化管、 肝胆膵移植の3つの診療グループにわかれ、専門的かつ高度な医療を提供するとともに、質の高い、基礎研究、臨床研究を行っており、令和元年12月からは土岐祐一郎教授、江口英利教授の2名体制にて運営をおこなっています。
2)大阪大学消化器外科関連病院(病床数順)
施設 |
2023年 |
病床数 |
|
1 |
大阪大学 消化器外科 |
927 |
1034 |
2 |
846 |
828 |
|
3 |
800 |
688 |
|
4 |
1117 |
678 |
|
5 |
1024 |
642 |
|
6 |
950 |
599 |
|
7 |
1131 |
580 |
|
8 |
234 |
580 |
|
9 |
609 |
525 |
|
10 |
996 |
520 |
|
11 |
563 |
518 |
|
12 |
1336 |
500 |
|
13 |
894 |
480 |
|
14 |
635 |
433 |
|
15 |
630 |
431 |
|
16 |
609 |
414 |
|
17 |
552 |
401 |
|
18 |
755 |
400 |
|
19 |
639 |
378 |
|
20 |
809 |
375 |
|
21 |
789 |
364 |
|
22 |
256 |
360 |
|
23 |
402 |
352 |
|
24 |
382 |
350 |
|
25 |
133 |
350 |
|
26 |
612 |
338 |
|
27 |
567 |
317 |
|
28 |
1434 |
304 |
|
29 |
500 |
300 |
|
30 |
372 |
278 |
|
31 |
231 |
276 |
|
32 |
310 |
257 |
|
33 |
610 |
250 |
|
34 |
445 |
249 |
|
35 |
45 |
247 |
|
36 |
225 |
228 |
|
37 |
106 |
204 |
|
38 |
331 |
199 |
|
39 |
54 |
197 |
|
40 |
1017 |
185 |
|
41 |
2072 |
143 |
|
42 |
174 |
118 |
|
43 |
455 |
60 |
3)大阪大学消化器外科研修制度
(1)初期臨床研修(2年間)
阪大プログラムを利用されても、それ以外のプログラムを選択されてもかまいません。阪大プログラムにおける2年間の初期臨床研修は、大阪大学医学部附属病院でも関連病院でもかまいません。又、“たすきがけ”で1年ずつ研修を行うことが可能です。詳しくは、大阪大学医学部附属病院卒後教育開発センターのホームページをご覧ください。阪大ホームページ初期研修説明へリンク
(2)専門研修(新専門医制度における専攻医、3年間、後期研修)
初期臨床研修を終了したのち、大阪大学外科専門研修プログラムにて3年間のプログラムを履修していただきます。大阪大学では、消化器外科は心臓外科、呼吸器外科、小児外科、乳腺・内分泌外科と共に外科学講座を形成しています。外科学講座は、2017年より外科専門研修プログラムを作成し運用しています。本プログラムでは、大阪大学医学部附属病院を基幹施設として、外科学講座の関連67施設と連携し、600人の専門研修指導医および年間40000件程度のNCD症例を有しており、年間70名の外科専攻医を募集しています。
大阪大学大学院医学系研究科 外科学講座
外科専門研修プログラムでは、外科共通コースとサブスペシャリティの専門医の取得を目的とするサブスペシャリティ重点コースに分かれています。消化器外科では、外科専門医の取得と将来の消化器外科専門医の取得を並行して研修することができます。
サブスペシャリティ重点コースの消化器外科専門医コースでは、プログラムのうち、1年間は基幹病院である大阪大学医学部附属病院にて研修をしていただき、2年間を大阪大学消化器外科関連病院で勤務していただきます。この間に、外科専門医を習得するためのサポート、さらに、外科専門医取得後のキャリアサポートを行います。外科専門医取得後も、第一線の外科医として活躍していくためには、消化器外科専門医の資格をとる必要があります。このサポートを大阪大学消化器外科及びその関連病院で行っていきます。以下に概要を記載します。
1. 大阪大学消化器外科では、専門研修は大阪大学医学部附属病院と関連病院にて行っております。この研修にも2つのコースがあり、卒後3年目に基幹病院にて1年間の研修を行い、卒後4年目と5年目の2年間を関連施設で研修を行うコースと、卒後3年目と4年目の2年間を関連施設で研修を行い、卒後5年目に基幹病院にて研修を行うコースです。研修病院については、本人の希望を加味して、大学の外科系各科の委員で構成される外科学講座運営部会で決定します。消化器外科医として3年間勤務する場合問題となってくるのが、外科学会専門医の資格を得るために必要な消化器外科以外の手術症例数(下記参照)です。各施設内で、一定期間他科へ出向するプログラムを用意されているところもありますが、そうでない場合は、大阪大学医学部付属病院の研修期間のうちに、外科系診療科(心臓外科、呼吸器外科、小児外科、乳腺内分泌外科など)にローテートすることにより、必要な手術症例数を経験することができます。また、大阪大学医学部附属病院の研修期間中に集中治療部にローテートを行い、重症例やハイリスク症例の周術期管理を学ぶことができます。
大阪大学消化器外科は、年4回「専門医を目指す消化器外科セミナー」を開催しており、腸管吻合のハンズオンセミナー、ビデオコンテスト、症例検討、特別講演などを通じて専攻医の先生のレベルアップをしています。また、年1回「大阪内視鏡外科セミナー」を開催し、アニマルラボを通して、内視鏡手術のトレーニングを行っています。
2. 大阪大学消化器外科では、基本的には専門研修は3年間と決めております。これは、研修医として学べる技術、知識には限界があり、又同一施設での研修は、知識に偏りが出てしまうと考えているからです。後期研修3年目は、やっと手術というものがわかりかけてきた時期であり、又、同じ施設での勤務は居心地がよいと感じるかもしれませんが、研修を延長しても得られる知識の量はかなり減少していくと考えます。ただし、もう少し手術などの臨床経験を積みたい、他の関連施設での研修を受けたいという方に対しては、1年単位(最大2年)で、関連施設を異動して受けていただきます。
(参考資料)
外科専門医取得に必要な条件
1)診療経験
外科専門医制度修練施設において以下の手術を経験する。本プログラム在籍期間中に、外科専門医修練カリキュラムが定める最低手術症例数を経験・クリアーする。各領域の症例数は術者または助手として経験する手術手技の最低症例数を示す。
・ 最低手術経験数 350例
・ 術者として 120例
・ 消化管及び腹部内臓 50例
・ 乳腺 10例
・ 呼吸器 10例
・ 心臓・大血管 10例
・ 末梢血管 10例
・ 頭頚部・体表・内分泌外科 10例
・ 小児外科 10例
・ 外傷 10点
・ 内視鏡手術 10例
消化器外科専門医取得に必要な条件
1)診療経験
・臨床研修終了後,指定修練施設(認定施設及び関連施設)において通算4年間以上の修練を行っている
・300例以上の手術経験
・術者として50例以上の手術経験を必須とし,そのうち中・高難度手術から20例以上の術者としての手術経験を必須とする.
・食道癌の手術 3例
・胃癌の手術 10例(術者5例以上を含む)
・結腸癌の手術 10例(術者5例以上を含む)
・直腸癌の手術 5例
・膵頭十二指腸切除術 5例
・肝切除術 5例
・腹腔鏡下胆嚢摘出術 10例(術者5例以上を含む)
・腸閉塞の手術 5例(術者3例以上を含む)
・急性汎発性腹膜炎の手術 5例(術者3例以上を含む)
(3)専門研修終了後のキャリアデザイン
5年間の初期臨床研修・専門研修の終了後のキャリアデザインについて説明します。研修終了後の進路については、大きく分けると2つ(大学院コースと一般臨床コース)あります。大学院コースは、大阪大学消化器外科で大学院生あるいは研究生として、高度医療の経験と臨床研究、基礎研究を行い、博士号を取得するコースで、取得後は、希望により海外留学、関連施設へスタッフとして勤務、大学病院で教官としての勤務というコースです。大学院の博士課程は4年間ですが、消化器外科では研究期間を3年間としており、早期修了を推奨しています。大学院生の期間は、病棟管理を離れて研究に没頭することができます。消化器疾患に関する基礎研究を行い、研究結果を英文論文としてまとめて、研究発表会(公聴会)を行うことにより、医学博士の学位を取得することができます。大学院卒業後は、消化器外科医として臨床に復帰する方が大多数ですが、ある一定の期間基礎研究を行うことは、消化器疾患を科学的に理解し、また後進の指導を行う上で重要な期間と考えております。
もうひとつは、大学での研究をせず、臨床を継続するコースです。この場合でも、5年間の研修終了後に、大阪大学にて1年間臨床を行っていただきます。この目的は、市中病院ではなかなか経験できない高度医療の研修と、外科学に関する臨床研究、基礎的研究を通して研究マインドを養ってもらうことです。又、いろいろな施設で研修を行った先生方と、お互いの知識を交換し合えること、同期のみではなく先輩の先生とも交流を深めることができることは、先生方にとってもプラスであると思います。又、同時に、我々スタッフも、先生方の技量、人柄を評価させていただき、今後の関連施設での就職の参考にさせていただきたいと考えております。
卒後10年目以降は、関連施設あるいは大学病院にてスタッフとして勤務し、食道外科専門医、肝胆膵高度技能医、内視鏡外科技術認定医の取得を目指します。
なお、大学院への進学については、大阪大学外科専門研修プログラム以外の他のプログラム修了者も受け付けています。詳しくは医局長の野田・植村までお問い合わせください。
(4)海外留学と海外だより
大学院にて基礎研究を行い、医学博士の学位を取得したのちに、海外の研究室で基礎研究を継続することができます。留学先は、以前に留学していた先輩のつてで留学するケースと、自ら留学先を探して応募して採用されるケースに分かれます。ほとんどの施設で、年間4万ドルほどの給料が支給され、また学会などの留学助成金への応募も支援しています。初めての海外生活を楽しみつつ、大学院の基礎研究で培った知識・技術をもとに、海外でより大きな研究成果を達成してくれています。
海外だより
・University of Texas, MD Anderson Cancer Center (米国:平成18年卒業 富原英生)
・Thomas E. Starzl Transplantation Institution (米国:平成21年卒業 佐々木一樹)
・Thomas Jefferson University (米国:平成21年卒業 菅生貴仁)
・ペンシルバニア大学、コロンビア大学 (米国:平成21年卒業 益池靖典)
・フィラデルフィア小児病院(CHOP)研究所 (米国:平成21年卒業 原 豪男)
・Weill Cornell Medicine/New York-Presbyterian Hospital (米国:平成22年卒業 浦川真哉)
・University of Michigan (米国:平成22年卒業 武田昂樹)
・University of Texas, MD Anderson Cancer Center (米国:平成22年卒業 竹田充伸)
・MD Anderson Cancer Center (米国:平成22年卒業 福田泰也)
平成25年卒業 山本慧 (卒後7年目)
経歴:
平成25年 関西医科大学医学部卒業
平成24年 関西医科大学附属枚方病院(初期臨床研修医 2年間)
平成27年 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター(外科後期研修医 3年間)
平成30年 大阪大学消化器外科学 大学院
私は卒後7年目で、現在大学院3年目として上部グループに所属しております。
学生の頃から手術全般への興味があり、漠然と外科系への専攻を考えていた私は、出身大学で初期研修を行いました。当時目標としていた先輩からの誘いもあり、国立大阪医療センターで後期研修をする事と致しました。
3年間の後期研修を終了し、博士課程への進学を決めました。研修医の時から憧れていた食道・胃専門医を目指して、日々研鑽に努めております。
私は後期研修終了後、卒後6年目で大学院に入学しました。通常、大学院1年目は大学病院の病棟医として今まで通り臨床に従事し、実際の研究は大学院2年目からです。ただ私は"早期研究"として半年間早く研究に配属頂いたので、通常より研究期間を長くとる事が出来ました。前後の学年の人数やグループ内のバランスにも左右されますが、"早期研究"をすれば3年間で大学院を卒業し、大学院で修学した事を早く臨床に生かすチャンスになります。こういった進路の相談もある程度は可能です。
私は現在新たな"がん治療"の柱となりつつある腫瘍免疫療法に関する研究を行っております。抗PD-1抗体療法をはじめとした免疫療法への関心が高まり、近年この分野の研究は飛躍的な進歩を遂げております。腫瘍免疫微小環境における細胞傷害性T細胞や免疫抑制性細胞の働き、特にT細胞の疲弊化が抗癌化学療法や全身状態に及ぼす影響に関して研究を行っております。大きなトピックスである分野の研究に関わる事が出来、臨床応用に繋がる研究成果を出す事を目標に研究を続けて参りたいと思います。
最後に消化器外科の魅力をお話しします。癌治療には様々な段階があります。初期の精査・診断、早期癌であれば内視鏡治療、進行癌であれば外科的手術、再発すれば化学療法/免疫治療、根治治療が出来なくなれば緩和治療といったように、病期に応じた治療法を選択します。消化器外科医はこの全てに関わる事が出来る唯一の職種です。自分がどういう患者さんを最も大切にしたいかを考え、自分の専門をどこにでも持っていく事が出来ます。ドクターXのような卓越した技術の習得を目指す外科医、手術の限界を感じ化学療法や免疫治療への可能性を見出す外科医、死を見据え残された時間の"お供"をする外科医、様々な外科医がいて良いと思います。それを自由に選択出来る事がこの"裾野の広い"消化器外科学を専門とする我々の強みです。決して楽な仕事ではありませんが、臨床・研究と是非一緒に頑張ってみませんか。


平成24年卒業 村上弘大 (卒後9年目) 大学院2回生
経歴:
平成24年3月 神戸大学医学部医学科 卒業
平成24年4月~ 大阪府済生会中津病院(初期研修医)
平成26年4月~ 大阪医療センター(外科後期研修医)
平成29年4月~ 大阪国際がんセンター(消化器外科専修医)
平成31年4月~ 大阪大学大学院医学系研究科消化器外科学講座 大学院生
私は学生時代から外科医になりたいと考えており、初期研修医でスーパーローテートをしているうちに、消化器外科を専攻しようと決めました。
私が外科医としての始まりである後期研修病院に大阪医療センターを選んだのは、高度な手術も含めて豊富な症例数があり、後期研修医が毎年複数名おり臨床だけでなく学術活動を含めた教育体制がしっかりあることが決め手でした。実際の研修生活では1年目から2年目、3年目と経るにあたって手術、病態の複雑な症例を担当するようになりました。手術に関しての具体例として、多く担当させて頂いた腹腔鏡下結腸切除を例にしますと、まずはスコピストから始まり、視野がわかるようになってきた頃に助手をさせて頂けるようになり、鉗子の使い方が安定してくると容易な症例から術者を任せて頂けるといった形で自分の成長に合わせて経験を積むことができました。その他、後期研修中に上部消化管領域では胃全摘術、肝胆膵領域では肝切除術や膵頭十二指腸切除術といった高難度手術、さらには腹腔鏡下脾臓摘出術といったあまり経験しない症例の執刀もさせて頂きました。また、学術活動においても地方会での発表に始まり、全国的な学会でのポスター発表、口演発表と大きな場での発表を任せて頂きました。
後期研修終了後、私は大阪国際がんセンターでさらに2年間専修医として勤務させて頂き、肝胆膵領域の高難度手術を多く経験させて頂きました。同施設では基本的に悪性腫瘍の症例のため、手術だけで完結せず、化学療法や放射線治療も含めた集学的治療も必要となり、それらに携わることでより深く治療を考えることができるようになりました。また学術活動の面では、豊富な症例数があったため臨床的な疑問を自院のデータを用いて解析することができ、そのデータを発信する機会も与えて頂き、貴重な経験を積むことができました。
外科医として手術手技や病棟管理といった臨床業務だけでなく、学会発表や論文投稿といった学術活動の指導もしていただけるのが、大阪大学関連施設の特徴だと思います。
後期研修の際に同じ立場の人が多くいることは受け持ち症例が分散してしまうので望ましくないと考える方もいるかと思いますが、1つ2つ上の先輩の姿をみて1年後、2年後の目標を定めたり、同期と自分を比較して励みにしたり、後輩にアドバイスをすることで自分の知識を整理したり勉強しなおしたりすることができたため多くのメリットがあったと感じました。当時の後期研修プログラムは基本的には1つの施設で3年間を過ごすというものでしたが、現在は大学病院を中心として複数の施設で研修できるようになっており、各施設それぞれのメリットを活かし、偏りの少ない研修が積めるのではないかと考えられます。
このような研修生活を経て現在私は、大学院生として基礎研究を行っています。世間一般のイメージでは外科医というと手術やベッドサイドで患者さんと接して治療をしてこそと考えられていると思います。消化器外科で治療を行う主な疾患の1つが癌ですが、癌治療において手術は数少ない根治を狙える治療法である一方、手術だけでは治らなかったり、手術ができなかったりすることもあり、特に私が研究している膵臓癌では多いです。そのため、治療が難しいとされている膵臓癌の予後を改善させるには手術以外の治療法についても考える必要があると思い、大学院に進学しました。大学院での研究では、これまでに外科研修をしてきた中で得た臨床経験から、同様の治療を行っていてもその反応性には個人差があると感じていたので、個々の膵臓癌の進行・治療感受性に関わるメカニズムについて、膵臓癌が治療困難である原因の1つとして注目されているがん間質に着目して研究を行っています。外科医として働いてきた今までの環境と全く違うため最初は戸惑いもありましたが、慣れてくると新たな知識や技術を得ることに楽しみを覚えています。大阪大学外科学教室ではこれまでの実績もあって教室内の研究設備も充実しており、教室外の専門性の高い基礎研究室との協力もしていますので、研究を行う環境も整っていると感じています。

平成23年卒業 久保維彦 (卒後10年目)
経歴:
平成23年3月 関西医科大学医学部卒業
平成23年4月〜 兵庫県立西宮病院 (初期臨床研修医 2年間)
平成25年4月〜 兵庫県立西宮病院 (外科後期研修医 3年間)
平成28年4月〜 大阪大学大学院消化器外科学
令和 2年6月~ Thomas E. Starzl Transplantation Institute, University of Pittsburgh
私は小学校3年生の時に急性虫垂炎になり、緊急の虫垂切除術を受けました。耐え難い痛みが術後すぐに消えた経験に感動し、その時から外科医になることを目標として生きてきました。
大学卒業後、大阪大学の関連施設である兵庫県立西宮病院で初期研修および消化器外科での後期研修を受けました。西宮病院は病床数400床の3次救急も行っている救急指定病院です。外科も非常に活発であり、消化器癌や、鼠径ヘルニアや胆嚢結石症などの良性疾患の手術を数多く経験させて頂きました。救急指定病院であるため、腹膜炎などの緊急手術も沢山あり、私が幼い頃に苦しめられた虫垂炎症例も多く、今度は術者として虫垂炎に対峙し、数多くの虫垂切除術を執刀させて頂きました。このような臨床経験に加え、多数の学会参加・発表も経験しました。熱心かつ丁寧なスタッフの先生方の指導のもとで経験を積み、人前での発表に対する抵抗感を払拭することが出来ました。このように手術の基礎と術後管理や化学療法、そして学術面に関して徹底的に勉強させて頂き、非常に密度の濃い時間を過ごすことが出来ました。
次に大阪大学大学院に入学し、最初の一年は病棟係として上部、下部、肝胆膵・移植の3つのグループをローテーションし、最先端の手術や非常にアグレッシブな手術を経験しました。中でも特に惹きつけられたのが移植手術でした。以前から興味はあったものの、実際に移植患者さんを担当させて頂き、移植手術に携わる中でより興味を持つようになりました。また、移植に必要不可欠な免疫抑制剤の綿密な管理と副作用の恐ろしさも学びました。1年間という短い期間でしたが、濃密で、かつ次の目標を得た有意義な時間となりました。次の3年間は基礎研究に入り、膵癌および肝細胞癌の研究を通じ、悪性腫瘍の治療抵抗性や腫瘍免疫などに関して分子機序のレベルから学びました。このように一つ一つのテーマを深く勉強することで、医療に対して臨床とは違った観点を有することが出来ました。また、大学院で沢山の消化器外科の同年代の仲間たちと知り合い、この出会いは非常に貴重でかけがえのないものとなりました。
これらの大学院時代の経験や研究を通じ、移植免疫の研究に対する希望が強くなりました。先にも述べたように移植に不可欠な免疫抑制剤は怖い副作用を有する薬剤であり、この副作用を極力減らす、究極には同薬剤を使用しない移植、というものが私の目標の一つとなりました。この目標に関して指導教官や疾患チーフ、教授などの先生方に相談させて頂き、ピッツバーグ大学での移植免疫に関する研究留学をする機会を頂きました。
このように大阪大学消化器外科学は臨床研修から大学院での研究、そしてこれらの臨床と基礎研究の経験を踏まえ、主にはスタッフとして手術を行っていく、というシステマティックなプログラムを有しています。また同時に、私のように留学を希望する医局員にはその道を提供する、非常に柔軟で医局員のことを第一に考えてくれる教室であると感じています。
大きな教室だからこそ出来る沢山の経験があります。大学院では、私のように臨床だけでは想像もつかなかった目標やかけがえのない仲間を得ることも出来ます。
大阪大学で皆さんとともに、大阪の、ひいては日本中の患者さんと消化器外科医療に貢献できることを楽しみにしています。

平成23年卒業 池田敦世(卒後10年目)
私は、平成23年に医学部を卒業し、現在卒後10年目になります。経歴は以下の通りです。
経歴:
平成23年3月 神戸大学医学部卒業
平成23年4月 市立豊中病院 初期研修医
平成25年4月 市立豊中病院 外科・後期研修医
平成28年4月 大阪大学大学院 消化器外科学・大学院生
令和2年4月 大阪大学医学部附属病院 消化器外科・医員
私が消化器外科を志したのは、医学部5, 6回生の頃でした。患者さんの病気を診断し、自らの手で治療して、術後も寄り添っていく外科医に憧れを抱いたからです。外科医は仕事がハードだというイメージが強く、女性も少ないので、消化器外科を選択することを迷いましたが、見学に行った市立豊中病院で、外科の女医さんが生き生きと仕事をされていた姿を見て、また、「やりたいことをやるといいですよ」という当時の外科部長の言葉を聞いて、直感的に消化器外科に進んで患者さんを救いたいと決めました。
市立豊中病院での2年間の初期研修、3年間の外科後期研修は、とても充実していました。研修医2年目が主体となり救急外来の診療をしていたので、初期研修の間に、急性虫垂炎や絞扼性イレウス、消化管穿孔など、毎日のようにやってくる緊急手術症例を多く経験し、診察、診断、術前準備を適確に行うことができるようになりました。後期研修では、上下部消化管、肝胆膵、呼吸器、乳腺、小児と幅広い分野の手術にほぼ毎日入っており、日々多様なスキルや知識を習得できましたし、3年間で多くの執刀の機会を与えて頂きました。とくに、緊急手術症例では、術前検査、執刀、術後管理まで上級医の指導のもと自らが主体で行うことが多く、やりがいや成長を確実に感じることができました。また、私が腹腔鏡下腸切除などの手術を完遂できるようになった時に自分のことのように喜んでくれた指導医や、一人では解決できない困難を共に乗り越えてくれたコメディカルの方々、些細なことでも相談できた同期や先輩後輩達に囲まれ、豊富な手術経験のみならず、温かい人間関係のある、非常に恵まれた環境で研鑽を積むことができました。
卒後5年間の臨床が大変充実していたので、大学院で臨床を離れて基礎研究を行うことに、当初はあまり魅力を感じていませんでした。卒後6年目で大学院生となり、「ヒト腸管に存在する免疫細胞の解析」を中心に基礎研究を行いました。手術切除標本の腸管や癌組織から、リンパ球などのヒト免疫細胞を採取してきて機能解析を行うといった、消化器外科医だからこそ可能なとても価値のある研究です。研究は、大阪大学免疫制御学教室の先生方にサポートして頂きながら行いましたが、そこで、臨床だけを続けていたら出会えなかった基礎研究者達に出会い考え方が大きく変わりました。臨床への応用を目指して、医学・科学における大きな未知を解明すべく、日々小さな真実をひとつひとつ追究し積み重ねていく研究者達の姿勢は、心から尊敬できるものでした。外科医として、臨床的視野を持ちながら、手術切除標本を用いた基礎研究を行うことで、自分も何か、小さくてもいいから、患者さんの治療につながる医学の進歩の一助となる真実を発見したい、と思うようになりました。
大学院で研究を行うことに抵抗を感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、人との出会いで今までの考え方が180度変わり視野が広がることもありますので、ぜひ飛び込んでほしいと思います。基礎だけでなく臨床研究も指導して頂けるので、科学的・客観的に臨床を捉えることができるようになります。そして何より苦楽を共にできるかけがえのない同期に出会うことができます。この経験は必ず将来の臨床に生きると思っています。
以上のように、大阪大学消化器外科では、関連施設数や各施設における手術件数が多く経験値を積めるのみならず、自らの財産となる人間関係を築くことができます。経験豊富な指導医や、信頼できる仲間と出会うことができ、技術的にも成長できますし、広い考え方・視野を持って臨床を行えるようになります。教室員が多い分、出身大学や生活環境、臨床や研究における働き方も様々で、自分のやりたいスタイルで楽しく仕事ができると思います。サポートがあるので、外科専門医、消化器外科専門医、博士号も10年目までに取得可能です。
自分が手術した患者さんが元気に歩いて退院していく姿を見ることができたり、困難な術後治療や化学療法を頑張る患者さんの力になれて笑顔になってもらえたり、長い時間をかけた研究で将来の患者さんの治療につながりそうな発見ができたりと、消化器外科医は本当に魅力的だと思います。一人でも多くの方に、消化器外科医を選択して頂けることを心より願っております。

平成20年卒業 藤野志季(卒後13年目) 2018年修了
経歴:
2008年3月 神戸大学卒業
2008年4月- 市立豊中病院 (初期研修 スーパーローテート)
2010年4月- 市立豊中病院 外科(後期研修)
2013年4月- 大阪国際がんセンター 消化器外科 (レジデント)
2014年4月- 大阪大学消化器外科社会人大学院 (大阪国際がんセンター 消化器外科)
2015年4月- 大阪大学消化器外科大学院
2018年4月- 大阪大学消化器外科 特任助教
2008 年に市立豊中病院で初期臨床研修医としてのスタートをきり、継続して、市立豊中病院で外科研修をさせていただきました。市立豊中病院では胆石症や癌などの待機手術、また虫垂炎や腹膜炎などの緊急手術などいずれも多く、厳しいながらも愛に溢れた指導医の先生方の下で十二分に経験を積ませていただきました。3年目(外科1年目)は当然ながら助手として、外科の基本動作を学び、徐々に術者の立ち位置で手術をさせていただけるようになります。今考えると、指導医の先生の手の内で操り人形のように術者をしていただけなのですが、それでも、初めて腸管吻合を行った時は、縫合不全が起きないか手術直後から心配で、1日に何度もドレーンの廃液を見に行ったりしたことが、昨日の出来事のように思い出されます。5年目(外科3年目)になると、鼠径ヘルニアや虫垂炎の手術などは、3年目の先生の前立ちとして指導しながら、手術を完結できるように成長させていただきました。5年目には癌の手術も執刀させていただける機会が増え、益々手術が面白くなってきていましたので、私は、6年目からの2年間、大阪国際がんセンター(旧成人病センター)での消化器外科レジデントという道を選択いたしました。6年目から大学院にはいり、研究生活をスタートする先生も多いのですが、市立豊中病院で様々な症例を受け持ち、自分のなかで、大腸癌を扱う外科医になりたい、もっと手術の経験を積みたい、という気持ちが強まったからです。このように、多くの研修先があり、自分のやりたいこと、希望に応じた選択をできるというところも、大阪大学消化器外科の魅力であると思います。
大阪国際がんセンターでは主に下部消化管の症例を受け持ち、2年間で約130例程度の経験を積ませていただきました。また、臨床の経験だけでなく、大腸癌研究会や、JCOGの会議にも連れて行っていただき、「ガイドライン」を作成する立場を見させていただくことで、研究に対する意識が大幅に代わりました。それまで「誰かがやっている事」で正直「書類仕事が増えて面倒だな・・・」というように遠い存在であった治験や臨床研究の症例ですが、将来的に患者さんに有効な治療を提供するために「何がわかっていて何がわかっていないか」「この問題を解決するためには、何をやらなければいけないか」ということがわかり、また、携わる先生方のエネルギーを身近に感じることができました。それまでの気持ちを反省するとともに、臨床研究などにも積極的に携わっていきたい、と思うようになったのが、自分でも驚いた大きな変化でした。そのような変化の中で、大阪大学大学院で研究を行わないか、とお誘いをいただき、大阪国際がんセンターの2年目は社会人大学院生として臨床をさせていただき、2014年4月から、大学院としての研究生活が始まりました。
大学院3年間の基礎研究で、私が主に取り組んできたのは、「初代培養際細胞の樹立と解析」になります。患者さんの実際の『がん』をなるべく、生体内と同じようなキャラクターを保ったまま、試験管の中で培養できるようにする、というものです。例えば、ある2つの効果的な治療があった際に、どちらを選べば最良な結果が期待できるか、臨床試験などでわかっているものもありますが、わからないこともあります。全く同じ病期でも、Aさんには治療1が良く、Bさんには治療2が良い、といったように選ぶことができれば、夢のようだと思いませんか?個別化医療として世界中が取り組んでいることですが、試験管内のがんに、模擬治療を行うことで、答えがわかるかもしれません。そのために、より多くの患者さんのがんを安定的に樹立すること、また模擬治療の効果と実際の臨床での効果を比較することなど、を中心に研究を行ってきました。「なんで癌は転移するのだろう?重要臓器に転移しなければ命を落とさないのに。」といった疑問、「もっと効果的な治療法を開発できたらいいのに!」という気持ちが、私たち臨床家の研究の原動力ではないかと思っています。そんな気持ちを持ったら、是非一度、大阪大学消化器外科を訪ねてもらえませんか?きっと、答えの一つがあると思います。
最後に。
現在、社会環境が大きく代わり、女性の外科医も、妻がキャリアウーマンの男性の先生も増えています。私は、5年目と8年目に子供が産まれ、現在2児の母ですが、現在大阪大学の特任助教として勤務しています。時間的な制約がある事は事実ですが、やりたい事をやる、というのは仕事をする上で大きな原動力です。少々疲れても、無理しても、がんばれます。色々な家庭環境や立場があり、消化器外科を選ぶことを迷っておられる先生もいるかと思いますが、自分だけで悩むよりも答えが出る事は多くありますので、ぜひ一度相談に来てください。消化器外科医は素晴らしい職業だと思います。消化器外科を選択する、大阪大学消化器外科に来てくれる先生方が益々増えることを願っています。
