Professors talk - 教授あいさつ -

 

  

大阪大学は、緒方洪庵先生の適塾「1838年(天保9)~1862年(文久2)」に淵源を有し、その後、医学部は明治維新後の1869年(明治2年)に大坂仮病院と大阪医学校に引き継がれてゆきます。外科教室は1881年(明治14年)、初代教授に熊谷省三先生を抱いて開設され、以来130年近くが経過しました。この間、1922年にはドイツからヘルテル教授が招請され、第一外科として新たな教室を立ち上げ、それまでの外科学教室を第二外科として小幡亀壽先生が担当することとなり、2講座制が発足しました。第一外科と第二外科はお互いに切磋琢磨しながら発展してきましたが、この間整形外科、微研外科(現在の乳腺内分泌外科)、麻酔科、脳神経外科、特殊救急部、小児外科などが分離独立しました。 本体の第一外科・第二外科についても、臓器別編成の流れがおこり、平成16年から実質的に臓器別診療科となっていきました。このような流れの中で、第一外科の消化器外科グループと第二外科の消化器外科グループが一体となり、大阪大学消化器外科学講座が発足しました。平成20年4月には森 正樹、5月には土岐祐一郎が教授に就任し、 2名の教授による教室運営という、全国的に見てもおそらく初めての運営方法がスタートしました。私たち大阪大学の消化器外科学講座は、 1)患者さんからは受診し治療を受けて良かったと満足していただける事、 2)医学部の学生、若い医師からは同じ釜の飯を食って一緒にがんばってみたいと思われる事、 3)全国の消化器外科医からは良い意味で阪大恐るべしと言われる事を目指しています。そのために真摯に努力し、研究成果を発表していく姿勢を持ち続けたいと考えています。
旧第一外科・第二外科の再編により、スタッフ、連携病院、症例数など圧倒的な存在感を有する消化器外科となりました。連携病院のほとんどは大阪府にあり、大学との連携も良い方向に向かっています。実際に大学を基盤とし、これら連携病院が参加する消化器外科共同研究会が発足し、疾患ごとに臨床治験、臨床研究などを積極的に進めていっているところです。このような仕組みを持つところは、全国を見渡してもほとんど無いと思います。ですから、上記の3つの目標は今後の10年で必ず達成できると確信しています。以下にそれぞれの立場の方々へのメッセージを記しますので、お読みいただければ幸いです。

1)患者さんへ

われわれ消化器外科は a)消化器(食道・胃・大腸・肝臓・胆道・膵臓など)の悪性腫瘍の治療、 b)肝臓移植・膵臓移植などの臓器移植、c)炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、機能性疾患(逆流性食道炎、アカラシア)などの良性疾患の外科治療など、多岐にわたる分野に、それぞれの専門家を配置して診療にあたっています。外科の手術法に関しては、ソフトバンクホークスの王監督の治療で有名になった腹腔鏡を用いた外科手術は大腸癌や胃癌、食道癌などで以前より行っており、症例数は日本のトップクラスに位置しています。
また、特徴的な治療として癌特異的免疫療法があります。これは自分自身の免疫力を利用して癌細胞だけを攻撃する治療で、 副作用が少ない点で優れています。ただこの治療はもう少し研究が必要で、全ての患者さんが受けられるものとはなっていません。近いうちに 自分のお腹やおしりの脂肪から採取した幹細胞を再生医療に用いる治療もスタートする予定です。さし当たっては炎症性腸疾患(クローン病など)に行う予定で準備を進めています。また、肥満を外科的に治療する肥満手術も準備中です。詳細はこのホームページのそれぞれの項目をご覧下さい。

2)開業医の先生方、勤務医の先生方へ

当科では消化器(食道・胃・大腸・肝臓・胆道・膵臓・GISTなど)の癌診療のほか、肝臓移植・膵臓移植などの移植外科、炎症性腸疾患、機能性食道疾患の診療などを行っています。当科の特徴は低侵襲手術から骨盤内臓全摘手術などの超拡大手術、さらには移植手術などの繊細な技術と高度な術後管理を要するものまで、適材適所に人員を配置し、チームワーク良く診療を行っている点と思います。抗癌剤や放射線などの集学的治療についても関連する科と連携しながら、適切に行っています。紹介いただいた患者さんは原則として紹介元の先生に逐次報告させていただき、相談しながら、患者さんにとって最適の診療を行うようにしています。もちろん特異的癌免疫療法、再生医療、NOTESと呼ばれる超低侵襲手術の開発、肥満手術の開発など、これからの医療を見据えた臨床研究も積極的に行っています。

3)私たちと一緒に仕事をしてみたいという先生へ

現在、大阪大学消化器外科グループ(大阪大学消化器外科および連携病院)で私たちの仲間と一緒に消化器外科医としての仕事をしてみたいという先生を広く募集しています。志望される若手の先生方のために大阪大学消化器外科専門医育成プログラムを作成しました。具体的には2年間の初期研修の後、50を越える連携病院の中で3年間の後期研修を行い、その後は、大学院に入る場合と、もうしばらく連携病院で臨床経験を続ける場合に分かれます。どちらにするかは本人の希望に沿って決めています。大学院に入る場合は研究に没頭する期間は2年程度を目途とし、残りの期間は臨床、研究のどちらかを希望にそって行えるようにしています。いずれにしても外科認定医、専門医取得は必須であり、その後、消化器外科専門医はできる限り早期に取得していただけるようにカリキュラムを用意しています。その後は、希望により消化器病学会や消化器内視鏡学会の専門医を取得することも可能です。また、外科系の高度な知識・技術を要求される内視鏡外科技術認定医や肝胆膵外科高度技能医には、大学病院、連携病院とも特に力を入れておりますので積極的に取得されることをおすすめします。 当科はそれぞれの希望に沿って本人にとって最も良いと思われる道を勧めます。外国留学は希望者にはできる限り行ってもらいたいと考えています。留学先は米国のHarvard University, Brown University, Johns Hopkins University, Ohio State Universityなどの他、有名企業の研究所もあります。最終的には本人が希望するポジションに最も効率良く就けるように指導する点が大阪大学の特徴と考えています。特に大学や地域の中心的病院のリーダーとなる人材を育てる教育を第一にしています。 大阪大学消化器外科学は、臨床では患者さんと紹介医に満足いただけることを第一にしています。最高の医療を施すとともに、さらに一歩進めた医療の開発にも取り組んでいます。このような最新医療の開発には研究が欠かせません。さまざまな特徴・性格を有する若い医師が集い、切磋琢磨しながら研究を推進しています。患者さんと開業・勤務の先生方には是非当科をご利用いただきたいと願っています。また全国の消化器外科医を志す学生さんには是非当科の門を叩いて欲しいと願っています。

令和元年12月   土岐 祐一郎、江口 英利