先進癌薬物療法開発学寄附講座

1.当寄附講座の特徴

先進癌薬物療法開発学寄附講座は、2011年4月に開設された消化器癌先進化学療法開発学寄附講座を継承する形で2016年4月に発足しました。当講座では「院内での標準治療の実践、さらに癌新薬の開発治験、新しい薬物療法を開拓することを通じ、消化器外科の診療、研究をサポートしながら、大阪の、日本の、世界の癌診療を良くしていく事」を目的としています。

 

消化器癌先進化学療法開発学寄附講座は、診療部門と研究部門の2つのグループで構成されています。

2.診療部門

先進癌薬物療法開発学寄附講座の診療面を分かりやすく表現すると「消化器がんに特化した腫瘍内科」です。当講座の診療部門を担当するスタッフは、腫瘍内科医で構成されています。腫瘍内科とは、がんの化学療法(抗がん剤治療)を中心としてがん診療を総合的に判断・計画し、患者さんの生活の質(Quality of Life:QOL)をいかに保つかに注力する診療科です。近年は抗がん剤や抗がん剤の副作用に対する治療の進歩が著しく、化学療法ががん治療の中で大きな役割を担うようになってきました。化学療法に、外科的切除や放射線治療、緩和ケアなど様々な分野の治療を組み合わせることで、がん治療に対して治癒やQOLの向上が期待できるようになってきました。

 

化学療法を受ける患者さんの中には、手術の前後で術後の再発のリスクを下げるために一定期間の抗がん剤治療を受ける方もいれば、手術でがんを取り切れないもしくは再発したがんに対して予後改善の目的で抗がん剤治療を受ける方もおられます。特に消化器がんでは外科的な手術療法と内科的な抗がん剤治療がその時の病状に応じて必要になります。大阪大学消化器外科の一員として腫瘍内科医が診療を行っていることは患者さんへ最良のがん治療を提供するという点において大きなメリットとなります。

 

また"先進癌薬物療法開発"の名が示すとおり、当講座では新規薬剤の開発治験や市販後の抗がん剤などの薬剤に関する医師主導臨床試験など、多岐にわたる臨床研究を消化器外科と一丸となって押し進めています。新規薬剤による治療や既存薬を用いた新たな治療法の開発は、未来の患者さんの役に立つだけではなく、今現在がんで苦しんでおられる目の前の患者さんにも福音をもたらすと信じています。

 

2016年9月には大阪大学医学部附属病院にオンコロジーセンター棟が開設されました。(http://www.hosp.med.osaka-u.ac.jp/topics/files/document/news_document_0181_20150807.pdf)。当講座が開設されて以来、消化器外科の外来化学療法患者さんの数は年々増加してきていました(下記図)。オンコロジーセンター棟の開設によって、外来化学療法室も19床から42床へと増設され、院内で化学療法を実施する患者さんの治療環境もさらに改善されました。がん薬物療法を専門とする腫瘍内科ということで院内他科から紹介された、血管肉腫、平滑筋肉腫や原発不明癌などの患者さんを診療することもあります。

3.研究部門

我々が研究しているテーマをご紹介します。

 

幹細胞の特異的代謝制御に着目し、特に解糖系の酵素ピルビン酸キナーゼMの幹細胞における制御機構並びに、その機能解析を行っています。これまでにピルビン酸キナーゼのスプライシングがスイッチすることで糖代謝制御変化し、この代謝変化がES / iPS細胞の多能性維持及び分化に関わる重要な因子であることを証明しました(Regenerative Therapy 2015)。またこのスプライシングスイッチはマイクロRNAにより制御されていることも明らかにしました。一般的なマイクロRNAは、標的のmRNAの3’UTR領域に結合することで、mRNAを不安定化させタンパク質の翻訳量を減少させると認識されています。しかし我々が発見したマイクロRNAは逆に標的であるピルビン酸キナーゼM2のスプライシングファクターのmRNAを安定化させ、タンパク質翻訳量を増加させる非常にユニークなマイクロRNAであることがわかりました(PLoS One 2015)。スプライシングファクターのタンパク質量が増加することでピルビン酸キナーゼMはM2型にスプライスされ、細胞は嫌気性解糖を行うようになることを示しました。

 

また、がん幹細胞の性質の一つである遠隔転移は、がん幹細胞が上皮間葉転換を起こすことでその運動性、浸潤能が増加し引き起こされると考えられています。この上皮間葉転換が起こる重要なメカニズムの一つとして細胞接着因子であるE-カドヘリンの発現低下が挙げられます。核内において転写調節を行うピルビン酸キナーゼはTGIF2, HDACとタンパク質複合体を形成することでE-カドヘリン遺伝子プロモーター領域のヒストンH3を脱アセチル化することを明らかにしました(PNAS 2015)。このエピゲノム制御の結果、E-カドヘリンの発現は低下し上皮間葉転換が起こることでがん幹細胞の遠隔転移が引き起こされることを証明しました。

 

先進がん薬物療法開発学の研究部門は、消化器外科および関連講座の癌創薬プログラミング学と共同しながら進めています。

4.研修生募集

一緒に働いてくれる若手の先生方の研修を募集しています。消化器癌の化学療法を学びたい先生、最先端の新薬開発について学びたい先生を募集しています。大阪大学附属病院化学療法部と連携していますので、幅広い癌腫も担当することができますので「がん薬物療法専門医」の資格を目指すことも可能です。また消化器外科と協力してトランスレーショナルリサーチや基礎研究に取り組むこともできますので、学位取得も可能です。