研究紹介
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久保武一氏のこと

本研究の枠組みを作り、当研究室における免疫研究の礎を確立した久保武一氏について、ここに記録しておきたい。久保氏は、平成2年に京都大学理学部を卒業後、大阪大学蛋白質研究所の故畠中寛教授のもとで大学院学生として学んだ。その後約10年間、製薬企業で免疫研究に携わった経験を持つ。
久保氏は、平成18年より当研究室(当時は千葉大学)に在籍し、免疫と神経のクロストークをテーマに研究を進めた。特に、私たちが研究対象としていた軸索再生阻害因子RGMが樹状細胞にも発現していることを見つけ、免疫系におけるRGMの役割の解析に取り組んだ。彼は、樹状細胞に発現するRGMがT細胞の活性化を促進すること、さらにその分子メカニズム(Rap1の活性化およびICAM-1への結合の亢進)を明らかにした。そして、RGM中和抗体がEAEの発症を抑制すること、そしてこの効果がT細胞からの炎症性サイトカインの産生を抑えることに基づくものであることを証明した。つまり本論文の骨格を形成する予備的な結果はすべて彼の手によるものである。
平成21年に、Nature Medicineに投稿した最初の版は、4つのシンプルな図からなる短い原稿であったが、編集者が興味を持ってくれた。当時のデータは特許明細書「T細胞活性化阻害剤、これを含有する医薬組成物およびT細胞活性化阻害物質のスクリーニング法」(発明者:久保武一、山下俊英)に公表されている。この時、久保氏は既に企業に勤務していたので、当研究室の村松里衣子(助教)を中心に、中村由香(特任研究員)、藤田幸(大学院生)で手分けをして、膨大な量の追加実験をこなしていった(具体的な貢献については論文内に記載)。1年3ヶ月に及ぶ3回のメジャーな修正を経て論文が受理された。
本研究以外にも久保氏が手がけた研究テーマは現在も続いている。短期間の在籍ではあったが、大きな功績を残してくれた久保氏に感謝している。

山下俊英

 
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