免疫細胞生物学
- 世界的にも独自の「骨の中の生きたままでのイメージング系」を駆使した新しい研究展開
- 免疫細胞は広い体の中でどうやって動いていくのか?働いているのか?
- がんはどのようにして浸潤・転移していくのか?再発するがんはどこにいるのか?
- 生きた細胞を1細胞レベルで可視化し、個々の細胞の役割を分子レベルで解明
- 「イメージング研究」の次なる目標~技術革新,数理システム化,ヒトへの応用~

世界的にも独自の「骨の中の生きたままでのイメージング系」を駆使した新しい研究展開
骨は極めて硬い組織で光をほとんど透過させないので、生きたままの状態で内部を観察することは不可能であると考えられてきました。これまでの骨の研究では、骨を取り出して、固い刃で薄く切って組織標本にして観察していました。当然ですが、このようにして解析すると、細胞の形は残っていますが、すでに死んでいるので動きません。当研究室では、2光子励起顕微鏡という特殊な光学顕微鏡をうまく利用することにより、骨の内部・骨髄腔を生きたままの状態で観察すること(=骨髄腔内の「非破壊検査」)に世界に先駆けて成功しました。これによって、今まで謎めいていた骨髄の中の生命現象が、手に取るようにリアルに分かってきました。
2光子励起顕微鏡を用いた骨組織・骨髄内の生体イメージング
一例として、炎症のときに骨を壊したり、通常の状態では古い骨を吸収して骨質のリモデリング(新陳代謝)に役割を果たしている破骨細胞に関して紹介します。この細胞は元々血液中のマクロファージ系由来の細胞で、これが骨表面に到達して「骨を食べるのに特化したマクロファージ」となったものです。骨髄内を生きたままでイメージングできるようになったことで、この「マクロファージが骨に到達するメカニズム」や「骨の表面で実際に骨を破壊するメカニズム」を、実体的に解析することができました。具体的には、破骨細胞になるマクロファージの骨の中での動きは、生理活性脂質の1つであるスフィンゴシン1リン酸(S1P)という物質によって巧妙に調節されていることを発見しました。昔から骨を強くすることが知られていましたが、そのメカニズムがよく分かっていなかったビタミンDが、S1Pによる破骨細胞の動きを調節することによって骨破壊を抑制することを発見しました。また、破骨細胞が実際に骨を壊す様子の可視化に世界で初めて成功し、骨の破壊には破骨細胞の数だけではなく、機能状態の調節が重要であることを明らかにしました。
骨の中は様々な免疫細胞・血液細胞が誕生し、分化して機能する場であります。また、転移性のがん細胞の隠れ場所でもあります。骨の中を生きたままで解析することで、免疫学・血液学のみならず様々な生命科学の分野において今後も様々な研究成果が期待されます。
スフィンゴシン1リン酸(S1P)による破骨前駆細胞の遊走制御機構
最近では、イメージング技術を駆使することにより、骨以外にも肝臓、肺、皮膚、脂肪、腫瘍などの様々な組織を生きたままで観察する研究や、それらを1細胞レベルで解析する研究にも取り組んでいます。