病理学

がん病理学

がんの理を解き基礎と臨床をつなぐ
  • ゲノム変異、転写後制御、クロマチン制御、代謝の観点からクロススケールな「がん」の理解を得る
  • 血液がん・固形がんにおける未踏の病態解明とそれらに基づく治療応用
  • ヒトデータと動物モデル、単一細胞レベルでの多階層解析により「がん」と正常を切り分ける仕組みの探索
  • 「がん」における現象と進化的保存の意義とは何か?
  • 「がん」はどこから来てどこへ向かうのか?多細胞システムや時間の概念から明らかにする
教授 井上 大地
病理学講座 がん病理学教室
当研究室の主宰者は病理学第一講座の佐多愛彦教授まで遡ることができ、以降、村田宮吉、木下良順、宮地徹、北村旦、北村幸彦、仲野徹という個性派教授の系譜を経て現在に至ります。神戸生まれの本研究室は阪大の豊かなリソースを生かして、より大きく「がん」の理を解く研究へと発展させていきます。

正常と腫瘍を切り分ける未知の仕組みの探索と治療応用

がんは複雑かつ緻密な戦略で自身の生存を担保しています。人類の宿命とも言えるがんを理解し対峙するためには、正常な幹細胞の制御機構を把握した上でがんの脆弱性を捉える必要があります。当教室ではスプライシング機構の破綻に代表されるように転写後RNAレベルで遺伝情報が歪められる現象や、がん細胞が細胞外小胞などを用いて周囲の細胞を自身にとって都合のいいように改変していく様子を明らかにしてきました。特に、白血病などの血液がんを主な研究対象として、クロマチンリモデリング因子、転写因子、シグナル制御因子がRNAスプライシング異常によって機能が変容・喪失し、それらが他の重要な遺伝子の転写や増殖機構を支配する現象を見出してきました。これらの発見はセントラルドグマを彩る未知の制御メカニズムの存在を示唆するものと言えます。

このような現象はRNA結合タンパクの変異や発現変化に代表されるトランスの異常だけでなく、イントロン自身の変異というシスの異常でも生じ、固形がんも含めてがん横断的に認められます。さらに、がん細胞の脆弱性はRNAメチル化やRNA輸送から翻訳に至るまで、転写後の様々な機構に存在しており、ゲノム・染色体レベルでの「情報の書き換え」を超えた解像度での病態解析を行っていきます。

がん病理学講座では、ゲノム変異、転写後制御、クロマチン制御、代謝リプログラミング、細胞死の観点から多細胞システムの中でクロススケールな評価を行うことで、基礎と臨床双方のアプローチで医学・生物学の未来を照らす「新時代の病理学」を実践していきます。また、前がん病変と多臓器連関、進化的保存と発がん、発がんと個体発生など、がんの病理を解く研究は領域を跨いだ研究へとつながっていきます。これまでの解析技法では捉えることができなかった点を克服し、「がんはどこから来てどこへ向かうのか?」多細胞システムや時間の概念から明らかにしていきます。これらを効果的に推進するためには、単一細胞レベルでの解析基盤、ゲノム編集、塩基編集を用いたスクリーニングや細胞系譜解析を実践し、新しい病理学を通して次世代を担う研究者の育成を行っていきます。