感染症・免疫学

生体防御学

新規リンパ球ILC2に着目した、アレルギーをはじめとする2型免疫疾患の克服に向けて
  • ILC2の分化機構、転写制御機構、活性化・抑制機構、サイトカイン応答機構の解明
  • 寄生虫・真菌感染におけるILC2による生体防御機構の解明
  • アレルギー・線維症・代謝疾患などの2型免疫疾患の病態解明
  • ILC2が原因となるすべての疾患の新規治療法開発
教授 茂呂和世
感染症・免疫学講座 生体防御学
自然免疫システム研究チームでは、2010年に世界に先駆けて報告した新しい免疫細胞、”2型自然リンパ球(Group 2 innate lymphoid cell: ILC2)”に着目した研究を行っています。ILC2の基礎的な機能解析から病態発症機構、治療法開発まで一貫して行うことで多様な疾患の理解につなげたいと思っています。

新しいリンパ球の発見が病気の克服になることを目指して

ILC2は腸間膜に存在するリンパ球集積 “Fat associated lymphoid cluster (FALC)”で発見され、当初NH(ナチュラルヘルパー)細胞と名付けられました。ILC2は他の免疫細胞の成熟マーカーや抗原認識受容体を発現せず、傷害を受けた上皮細胞から放出されるIL-25やIL-33などのサイトカインに強く応答し、IL-5やIL-13などの2型サイトカインを迅速かつ多量に産生することで寄生虫排除やアレルギーの病態形成に寄与します。

2型サイトカインを産生する細胞として知られるTh2細胞が抗原特異的に活性化するのに対し、自然免疫系の細胞であるILC2は抗原認識機構を介さずに活性化します。ILC2の発見を契機に、ヘルパー活性を有する自然免疫系のリンパ球の存在が世界的に認知され、現在ではInnate lymphoid cells (ILCs)と総称されています。ILCsは産生するサイトカインによって3つに分類され、抗ウイルス/抗腫瘍免疫においてIFNγを産生するILC1、寄生虫排除/アレルギー性疾患においてIL-5やIL-13を産生するILC2、自己免疫疾患においてIL-17やIL-22を産生するILC3に大別されています。

Th細胞分化が数日を要するのに対し、ILCsは成熟したリンパ球として定常状態の組織に常在します。そのため、ILCsは抗原に即座に反応可能であるだけではなく、生体の恒常性維持に寄与することが明らかになっています。なかでもILC2は、脂肪組織、肺、腸、皮膚、骨髄、脳、筋肉など全身の様々な組織に存在し、アレルギー性炎症の惹起以外にも、肥満や線維症などの慢性炎症やリウマチなどの自己免疫性疾患の制御にも関わることが知られています。さらに、免疫系以外の細胞との相互作用が次々に報告されており、ILC2が組織幹細胞や上皮細胞の増殖を促し修復機構に寄与するほか、神経近傍に局在し神経伝達物質による制御を受けていることが明らかになっています。

ILC2はヒトでもその存在が確認されており、ヒト検体を用いた研究が盛んに行われています。IL-33などのILC2関連遺伝子群が様々な疾患に関与する可能性が遺伝子多型解析によって示されており、ILC2を標的とした臨床研究に注目が寄せられています。

当研究室ではILC2の分化機構、シグナル機構、活性化・抑制機構などを解析することで、ILC2の理解を深めると共に、ILC2が他の細胞にどのような影響を与えるのか、またはどのような細胞によってILC2が制御されるのかを明らかにすることを目標にしています。また、ILC2によって発症する、アレルギー性疾患、線維症、代謝疾患など、多様な疾患の発症機構を解明することで、新しい治療法の開発を目指します。