感染症・免疫学

ウイルス学

ウイルス病原性への挑戦〜ウイルス疾患の制御から革新的な治療を目指して
  • ウイルス感染・増殖機構を宿主との相互作用の観点で見極める
  • 持続・潜伏感染するDNA腫瘍ウイルスが感染細胞・宿主個体に与える分子機構の解明する
  • ウイルス-宿主相互作用分子空間に介入し、疾患発生を制御する多角的治療薬・治療法を開発する
  • ボルナウイルスをはじめとする神経指向性ウイルスを用いて、その中枢神経系における病態を解析する
  • 宿主ゲノムの約40%を占めるレトロトランスポゾンとウイルスとの相互作用を明らかにする
教授 上田啓次
感染症・免疫学講座 ウイルス学
当研究室は平成21年7月にウイルス学の教育・研究を担う教室として誕生しました。源流は医学部細菌学教室(明治35年10月1日発足)です。医学部細菌学の母体が微生物病研究所に移り、再度医学部細菌学(井上公蔵教授)として誕生したのは昭和56年8月、微生物学(山西弘一教授)を経て現ウイルス学教室に引き継がれました。

緻密なウイルスの戦略を暴き出し、ウイルスを制御する

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ウイルスは生物ではないと言われるかもしれませんが、遺伝情報を携えたゲノムをもつ核酸・(糖)タンパク質・脂質などで構築された生化学的複合体です。一旦、標的細胞に侵入すると、その環境をウイルス宇宙へ変えてしまい、遺伝子発現・複製して、子孫(娘)ウイルスを産生します。標的細胞への付着・侵入から娘ウイルス放出までのこの営みは、精巧かつ緻密なウイルスの生き残り戦略です。私たちは、主にB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus; HBV)やカポジ肉腫関連ヘルペス(Kaposi’s sarcoma-associated herpesvirus; KSHV)を題材にこの仕組みを解き明かし、これらウイルスによる疾患発症機構に基づいたウイルス制御(治療法・治療薬の開発)を目指します。(図1)(図2)

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図2

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ウイルスの中には脳や脊髄などの中枢神経系に侵入・感染し、病原性を発揮するものがあります。例えば、麻疹ウイルスによる亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis; SSPE)やムンプスウイルスによる難聴などです。また、難病に指定されているギラン・バレー症候群もウイルス感染などが発症に先行することが知られています。精神疾患では症状が増悪・寛解を繰り返すことから、何らかのウイルス感染の関与を疑う「ウイルス仮説」も提唱されています。私たちは、神経に指向性を持ったウイルスの、中枢神経系における病態メカニズムの解析を行っています。特に、小動物への実験感染において精神疾患様行動異常を示す、ボルナウイルスやインフルエンザウイルスなどのウイルスの病態解析に力を入れており、得られた知見が精神疾患の病態理解につながることを目指します。(図3)

図3

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宿主ゲノムの約40%はレトロトランスポゾンが占めます。これらは、レトロウイルスのように、自身の転写産物をゲノムの他の領域に逆転写・挿入(コピー・ペースト)することができます。近年、レトロトランスポゾンがRNAウイルスの配列を逆転写することが明らかになってきています。私たちは、未だ明らかとなっていないレトロトランスポゾンとウイルスとの相互作用について、そのメカニズムや生理意義を探索しています。その結果、「なぜ、宿主はゲノム安定性を犠牲にし、ゲノム中にレトロトランスポゾンを保持し続けているのか?」という謎に迫ろうとしています。(図4)

図4