ご挨拶

ご挨拶

 

2023年4月からセンター長を拝命した渡邉幹夫です。

 ツインリサーチセンターは2009年(平成21年)に国内で初めて設置された双生児研究基盤を整備しふたご研究を推進・支援する日本唯一の研究機関です。

 

 ふたご研究は、医学に限らず、ヒトのすべての営みに影響する遺伝要因と環境要因を明らかにするためになくてはならない研究手法です。近年になり、遺伝子(DNA)が働き始めるうえでの複雑な制御機構がいろいろと解明されてきており、これらの制御機構も環境要因として無視できなくなってきています。もちろん従来から研究対象になっている環境要因(生活習慣や教育環境など)も重要ですから、ひとくちに環境要因といっても千差万別になっています。しかも、ある環境要因が影響しやすい遺伝的体質があるなど、遺伝要因と環境要因も複雑に影響しあっています。

 このような複雑な要因解析を行うためには、体系的・組織的なサンプル収集や高度かつ高品質なデータ収集が必要であり、研究者個人や個々の研究グループが一念発起したとしても容易にできることではありません。

 

 ツインリサーチセンターは、10年以上にわたって継続的に双生児の登録者を増やして登録簿を維持拡張し、ご協力いただけるふたごの皆さんを対象として、DNA、RNA、血清(血液)といったサンプル収集と、生活習慣、教育環境、心理状態、病歴などのアンケート調査を体系的に行ってまいりました。さらに歯科検査、MRI検査、腸内細菌の解析などを行ったふたごの方々もおられます。

 DNAからは遺伝情報(ゲノム)や遺伝子の制御情報(エピゲノム)が、RNAからは遺伝子の発現情報(トランスクリプトーム)が、血清からはさまざまな臨床検査情報や疾患の診断情報(プロテオーム・フェノーム)を得ることが可能です。それらをアンケート調査や病歴などとあわせて解析することで、従来の生活環境要因の解析にくわえ、オミックス情報(網羅的な生体分子についての情報)を基にした高度な環境要因解析が可能となります。

 

 これらの研究基盤を用いて、学内の数々の研究グループはもちろん、国内では医薬基盤健康栄養研究所、情報通信研究機構脳情報通信融合研究センター、慶應義塾大学、岡山大学、関西大学などとの共同研究を推進し,海外ではヘルシンキ大学(フィンランド)やセンメルワイス医科大学(ハンガリー)などの双生児研究チームとの共同研究も行ない、ジョイントラボの設置や部局間協定の締結につながっています。

 

 現在、IHDi(Integrated Health Design initiative)というプロジェクト横断型の研究機構構想が推進されており、ツインリサーチセンターの膨大な研究資産も含めて統合された健康科学研究がはじまろうとしています。研究基盤というものは長年の蓄積こそが後年の成果につながるという確信のもと、これからも日本のふたご研究領域を牽引し続けていきたいと考えています。

 

2023年4月

大阪大学大学院医学系研究科附属ツインリサーチセンター長

渡 邉 幹 夫