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  • 佐藤 悠、小玉 尚宏 ≪消化器内科学≫ 予測だけで終わらない治療も変えるバイオマーカーを発見
    ~CA9による肝がん免疫療法の個別化と治療抵抗性の克服~

佐藤 悠、小玉 尚宏 ≪消化器内科学≫ 予測だけで終わらない治療も変えるバイオマーカーを発見
~CA9による肝がん免疫療法の個別化と治療抵抗性の克服~

2026年5月26日

掲載誌 Journal for ImmunoTherapy of Cancer

図1. CA9が肝細胞がんの治療抵抗性に与える影響
CA9高値症例では、免疫抑制性の腫瘍微小環境形成と細胞傷害性T細胞活性の低下を伴い、複合免疫療法に対する治療抵抗性の上昇が認められた。さらに、CA9阻害により治療抵抗性の改善が示された。

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研究成果のポイント

  • 手術で取り除くのが難しい肝細胞がんに対する免疫チェックポイント阻害薬を含む複合免疫療法について、治療前の血中CA9※1濃度が治療効果を予測するバイオマーカー※2になることを明らかに
  • 治療効果や予後を治療開始前に予測できる実用的なバイオマーカーの確立が求められてきたが、ヒト検体およびマウスモデルの解析により、血中CA9濃度が高い場合に治療が効きにくく患者の生存期間が短縮することを発見し、さらにCA9が治療抵抗性に直接関与している可能性を見出した
  • 肝細胞がんに対する複合免疫療法の個別化に向けて、低侵襲な血液バイオマーカーの実装と、新規併用治療戦略の開発に期待

概要

 大阪大学大学院医学系研究科 消化器内科学講座の佐藤悠さん(博士課程)、小玉尚宏教授らの研究グループは、切除不能肝細胞がん※3に対する標準一次治療であるアテゾリズマブ/ベバシズマブ療法※4について、治療前血中CA9濃度が治療効果を予測するバイオマーカーになることを明らかにし、さらに、CA9分子が治療抵抗性に関与する可能性を見出しました(図1)。

 切除不能肝細胞がんに対する薬物治療は、免疫チェックポイント阻害薬の登場により大きく進歩しましたが、治療開始後、病勢進行を認める症例や、期待されたほどの腫瘍縮小が得られない症例も少なくありません。そのため、治療開始前の段階で、治療効果や予後を事前に予測できる実用的なバイオマーカーの確立が強く求められてきました。

 本研究では、治療前患者血漿を用いた高感度プロテオーム解析※5により候補分子を探索し、78例の探索コホートと89例の独立検証コホートで解析を行いました。

 その結果、アテゾリズマブ/ベバシズマブ療法前の血中CA9濃度高値例では、無増悪生存期間※6および全生存期間※7が短い傾向を示し、治療効果が得られない可能性が高いことが分かりました。加えて、単一細胞トランスクリプトーム解析※8の結果、CA9発現は肝がん組織中において主にがん細胞に局在していることが分かりました。また、肝腫瘍モデルのマウスにおいて、CA9を過剰発現させた腫瘍では、抗PD-L1抗体※9/抗VEGF抗体※10併用療法に抵抗性を示し、CA9阻害薬との併用により、抵抗性が解除されることを見出しました。

 本成果は、肝細胞がんに対する複合免疫療法の個別化に向けて、低侵襲な血液バイオマーカーの実装と、新規併用治療戦略の開発につながることが期待されます。

 本研究成果は、2026年4月9日(木)に米国がん免疫療法学会誌「Journal for ImmunoTherapy of Cancer」(オンライン)に掲載されました。

研究の背景

 近年、切除不能肝細胞がんに対する薬物治療は免疫チェックポイント阻害薬の登場により大きく進歩しました。免疫チェックポイント阻害薬の一つである抗PD-L1抗体アテゾリズマブと、抗VEGF抗体であるベバシズマブの併用療法は第一選択薬の一つであり、腫瘍に対する免疫応答の向上と腫瘍血管新生抑制により従来薬を上回る有効性を示してきました。その結果、切除不能肝細胞がんの治療成績は着実に改善し、一部の症例では長期生存も期待できるようになっています。一方、こうした進歩にもかかわらず、実臨床において治療開始後まもなく病勢進行を認める症例や、期待されたほどの腫瘍縮小が得られない症例も少なくありません。そのため、治療開始前の段階で、どの患者がこの併用療法の恩恵を受けやすいのかを見極めることは極めて重要な課題であり、治療効果や予後を事前に予測できる実用的なバイオマーカーの確立が強く求められてきました。

 これまでの肝腫瘍組織を用いた研究からは、腫瘍内の免疫細胞浸潤や血管新生、低酸素状態など、がん微小環境※11の特徴が免疫療法の治療効果と深く関係することが示されてきました。とくに、細胞傷害性T細胞※12の浸潤低下や免疫抑制性細胞の増加は治療抵抗性と関わる重要な要素と考えられています。しかし、切除不能肝細胞がんでは、診断時に必ずしも腫瘍組織が採取されるわけではなく、肝機能や出血リスクの観点からも繰り返し組織を取得して評価することは容易ではありません。こうした背景から、近年は採血のみで評価可能な血液ベースのバイオマーカーに大きな期待が寄せられています。血液検査は低侵襲で繰り返し実施しやすく、患者負担が少ないうえ、日常診療にも導入しやすいという利点があります。とくに、治療前の血漿中分子を用いて治療効果や予後を予測できれば、患者ごとの治療選択をより適切に行うことが可能になります。そのため、切除不能肝細胞がんに対するアテゾリズマブ/ベバシズマブ療法の有効性を反映しうる、信頼性と実用性を兼ね備えた血液バイオマーカーの開発が、重要な研究課題となっていました。

研究の内容

 本研究では、切除不能肝細胞がんに対するアテゾリズマブ/ベバシズマブ療法の効果を治療前に予測できる血液バイオマーカーの同定を目指し、まず探索コホート78例の治療前血漿を対象に、Olinkを用いた高感度プロテオーム解析を実施しました。その結果、治療効果と関連する候補分子としてCA9を同定しました。さらに、独立した検証コホート89例で治療前血中CA9を評価したところ、CA9高値群では奏効率※13および無増悪生存期間と全生存期間が短い傾向を示しました。これらの結果から、治療前血中CA9がアテゾリズマブ/ベバシズマブ療法の効果を予測する有望な指標である可能性が示されました(図2)。

図2. 血中CA9濃度による治療効果層別化
A) 高感度プロテオーム解析による発見コホートの解析で、初期無効群においてCA9などの血中濃度上昇を認めた。検証コホートの解析で、CA9高値症例ではB)奏効率、C)無再発生存期間、D)生存期間の悪化を認めた。

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 次に、血中CA9の由来とその生物学的意義を明らかにするため、腫瘍組織解析、公開単一細胞トランスクリプトーム解析データ、ならびにマウスモデルを用いた検討を行いました。その結果、CA9は主として腫瘍細胞に由来することが示されました。また、CA9高発現マウス肝がんモデルでは、抗PD-L1抗体/抗VEGF抗体併用療法に対する感受性の低下が認められ、CA9が単なる相関分子ではなく、治療抵抗性に関与する可能性が示されました(図3)。

図3. CA9発現細胞と擬似的マウスモデル
A)ヒト検体の単一細胞解析による、CA9の発現細胞種の検討。B)マウス肝細胞癌株(NC)とCA9高発現株(CA9OE)をマウスに皮下注射し作成した擬似的なCA9高発現肝細胞癌モデル。C)このモデルに対する抗PD-L1抗体/抗VEGF抗体併用療法の結果。

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 さらに、CA9高発現腫瘍の腫瘍微小環境を解析したところ、細胞傷害性T細胞浸潤の低下、M2様マクロファージ※14の増加、血管新生関連分子の発現亢進が認められました。すなわち、CA9高発現腫瘍では、免疫応答が抑制され、治療抵抗性につながる免疫抑制的腫瘍微小環境が形成されていることが示唆されました。加えて、ヒト公開データの解析結果からも、CA9高発現腫瘍において同様の免疫抑制的特徴が確認されました。

 最後に、CA9阻害薬を抗PD-L1抗体/抗VEGF抗体併用療法に追加したところ、CA9高発現腫瘍において抗腫瘍効果の増強が認められました(図4)。これらの結果は、CA9が切除不能肝細胞がんにおける治療効果予測バイオマーカーであると同時に、治療抵抗性克服を目指した新たな治療標的となり得ることを示すものです。

図4. CA9高発現腫瘍の腫瘍免疫微小環境
A)マウスCA9高発現腫瘍では細胞障害性T細胞の活性低下、血管新生代替経路と免疫抑制性マクロファージ活性増加を認め、B)CA9高発現ヒト肝細胞がんでは細胞障害性T細胞活性は低下を認めた。C)この腫瘍に対する抗PDL-L1抗体/抗VEGF抗体併用療法にCA9阻害薬を併用すると治療抵抗性の改善が得られた。

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本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 本研究成果により、治療開始前の採血のみでアテゾリズマブ/ベバシズマブ療法の効果を予測できる可能性が示され、肝細胞がん治療の個別化に寄与することが期待されます。また、CA9は単なる予測マーカーではなく、治療抵抗性に関与する機能分子である可能性が示されたことから、CA9阻害を組み込んだ新たな併用療法の開発にもつながります。今後、CA9を指標とした患者層別化や、CA9標的治療を組み合わせた臨床試験の展開が期待されます。

研究者のコメント

<小玉教授のコメント>
肝がん患者さんに対する薬物療法は近年大きく進歩してきましたが、依然として治療効果には限界があり、副作用の問題も少なくありません。私たち消化器内科教室は、「最適な治療を、最適な患者さんへ届ける」ことを使命とし、日々研究と診療に取り組んでいます。今回の研究成果が、肝がん治療の個別化を一歩前進させ、少しでも多くの患者さんにとって希望となることを願っています。

用語説明

※1 CA9
Carbonic Anhydrase 9。低酸素環境で発現が高まりやすい蛋白質。がんの進展や治療抵抗性との関連が報告されている。

※2 バイオマーカー
病気の状態や治療効果、予後などを予測・評価するための指標となる分子や検査値。

※3 切除不能肝細胞がん
手術で取り除くことが難しい肝細胞がん。腫瘍の広がりや肝機能などの理由から、薬物療法が中心となる。

※4 アテゾリズマブ/ベバシズマブ療法
免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)と、血管新生を抑えるベバシズマブ(抗VEGF抗体)を組み合わせた治療法。切除不能肝細胞がんの標準的な一次治療の一つ。

※5 高感度プロテオーム解析
生体内に存在する多数の蛋白質を網羅的に調べる解析手法。病態や治療効果に関わる候補分子の探索に用いられる。

※6 無増悪生存期間
治療開始後、がんの悪化(増悪)または死亡が確認されるまでの期間。病勢の進行をどの程度抑えられているかを評価する指標。

※7 全生存期間
治療開始後、患者が生存していた期間を示す指標。治療の最終的な有効性や予後を評価するうえで重要な指標。

※8 単一細胞トランスクリプトーム解析
細胞を1個ずつ解析し、それぞれの細胞の性質や違いを詳しく調べる手法。

※9 抗PD-L1抗体
がん細胞が免疫から逃れる仕組みに関わるPD-L1を標的とする薬剤。免疫細胞の働きを回復させ、がんを攻撃しやすくする。アテゾリズマブがこれに該当する。

※10 抗VEGF抗体
血管新生に関わるVEGFを標的とする薬剤。腫瘍に栄養や酸素を供給する新しい血管の形成を抑える。ベバシズマブがこれに該当する。

※11 がん微小環境
腫瘍の周囲に存在する免疫細胞、血管、線維芽細胞などを含む周辺環境。免疫細胞が十分に働けず、がんを攻撃しにくい状態の腫瘍周囲環境を呈することがあり、免疫療法が効きにくくなる一因と考えられる。

※12 細胞傷害性T細胞
がん細胞を攻撃する中心的な免疫細胞。腫瘍内への浸潤が治療効果と関係することがある。

※13 奏効率
治療により腫瘍が一定以上縮小した患者の割合。治療効果を評価する基本的な指標。

※14 M2様マクロファージ
腫瘍の増殖や免疫抑制に関与する性質をもつマクロファージの一種。がん組織内では免疫応答を抑え、腫瘍の進展や治療抵抗性に関与すると考えられている。

特記事項

本研究成果は、2026年4月9日(木)に米国科学誌「Journal for ImmunoTherapy of Cancer」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】

“Carbonic Anhydrase 9 as a Circulating Biomarker and Therapeutic Target in Patients with Hepatocellular Carcinoma treated with Atezolizumab plus Bevacizumab”

【著者名】

Yu Sato1,*, Takahiro Kodama1,*, Kazuki Maesaka1, Machiko Kai1, Kazuhiro Murai1, Yuki Tahata1, Yoshinobu Saito1, Tasuku Nakabori2, Kazuyoshi Ohkawa2, Satoshi Tanaka3, Ryotaro Sakamori3, Masanori Miyazaki4, Kunimaro Furuta5, Hisashi Ishida5, Kengo Matsumoto6, Seiichi Tawara7, Takayuki Yakushijin7, Yasutoshi Nozaki8, Atsushi Hosui9, Akira Nishio10, Nobuyuki Tatsumi10, Naruyasu Kakita11, Changhoon Yoo12, Moto Fukai13, Akinobu Taketomi13, Hayato Hikita1, Tomohide Tatsumi1, and Tetsuo Takehara1

(*共同筆頭著者)

DOI: 10.1136/jitc-2025-013384.

【所属】

1. 大阪大学大学院医学系研究科 消化器内科学
2. 大阪国際がんセンター 肝胆膵内科
3. 国立病院機構大阪医療センター 消化器内科
4. 大阪警察病院 消化器内科
5. 市立池田病院 消化器内科
6. 市立豊中病院 消化器内科
7. 大阪急性期・総合医療センター 消化器内科
8. 関西労災病院 消化器内科
9. 大阪労災病院 消化器内科
10. 地域医療機能推進機構(JCHO)大阪病院 消化器内科
11. 市立貝塚病院 消化器内科
12. 蔚山大学校医学部 アサンメディカルセンター 腫瘍内科
13. 北海道大学大学院医学研究院 消化器外科学教室I

 なお、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)肝炎等克服実用化研究事業 肝炎等克服緊急対策研究事業「NAFLD/NASHおよび非ウイルス性肝がんの病態解明と治療法開発」、「MASLD/MASH肝がんの治療開発を目指すリピド・ゲノミクス研究3.0」、次世代がん医療加速化研究事業「革新的な腫瘍不均一性モデル動物と多施設共同臨床研究による肝癌複合免疫療法効果予測バイオマーカー探索」、革新的がん医療実用化研究事業「がん進展過程における疑似時間解析を利用したがん微小環境構成細胞間のネットワーク解明と新規治療標的の探索」,日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金研究の一環として行われました。

【参考URL】

小玉尚宏 教授 (消化器内科学)
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/0beed4448a279bc6.html