協力講座

細胞応答制御学

ゲノムを守る仕組みを分子レベルで解析
  • DNAの傷はどのように修復されるのか
  • 修復方法はどのように決められるのか
  • DNA修復のバックアップシステムはどのようになっているのか
  • がん細胞でだけDNAの傷を残して、がんだけを殺傷する方法を考案したい
  • DNA修復機構をうまく使って安全に遺伝子を編集する方法を考案したい

直接観察できないDNA修復のメカニズムを分子生物学・細胞生物学・生化学を結集して解明する

細胞をコンピュータにたとえるならば、ゲノムとはハードディスクに書き込まれた情報に相当します。形としてゲノムを構成する素材の一つはDNAです。ハードディスクの情報にエラーが多発するとコンピューターが正常に動かなくなってしまいます。それは細胞でも同じです。ゲノム情報を長期間にわたり正確に保てないと、細胞が生存できなくなったり、異常が発生したりします。無秩序に無限増殖するような細胞はがんとなります。ゲノムが傷つく機会は多いので、細胞はいくつもの防御機構を備えて、ゲノムの恒常性を維持しています。その一つがDNA損傷応答・修復です。DNAが傷ついたところに様々なタンパク質が集結し、一致団結してDNAを修復するという機構です。DNA損傷が修復されていく過程を観察して研究したいところですが、DNAもタンパクも小さすぎて顕微鏡を使っても直接観察することができません。そこで私たちの研究室では、蛍光免疫染色法という技術を用いてDNA損傷部位に集まるタンパク質集団を可視化したり、修復前後のDNA配列を解析したり、うまくDNAが修復できると細胞が光るように工夫をすることで、DNA損傷応答・修復の仕組みを研究しています。特に注目しているのは、いくつかあるDNA修復方法がどのように使い分けられるのかということ、そして、1つのDNA修復方法が使えなくなったときに他の修復経路がそれをどう補うのか、ということです。このような研究を通して、ヒトはなぜがんになるのか、どのようにしたらがんになることを防げるのか、といった大きな疑問の解決に挑んでいます。

蛍光免疫染色

DNA修復が間に合わないと、細胞は死んでしまいます。もし、がん細胞でのみDNA修復ができないように工夫することができたらどうなるでしょうか。きっとがん細胞だけを殺すことができます。最近、多くのがん細胞でDNA修復の一部が利用できないと判明しました。このようながん細胞でバックアップとして機能しているDNA修復を止めてしまえば、がん細胞をうまく致死に誘導できるのでは、と期待して研究を進めています。

最近、ゲノム編集が注目を浴びています。遺伝性疾患の原因部分を効率よく正確に編集し、安全性も確保できれば、遺伝子治療への応用が期待できます。何段階かあるゲノム編集において、まさにDNAを書き換えるところは細胞のDNA修復機構が担当しています。私たちの研究室では、DNA修復研究者の立場から、今以上に高効率・安全・正確なゲノム編集法の開発をめざしています。