生体統御医学

救急医学

救急医学は医の原点、救急医療は究極の地域医療~新しい時代の救急を目指して!
  • 侵襲に対する生体炎症反応と免疫抑制のメカニズム解明と治療法の開発
  • 重症病態における腸内細菌叢と免疫応答メカニズムの解明
  • 心肺蘇生時の脳酸素飽和度
  • 重症頭部外傷の病態解明と予後改善
  • 日本型ER教育システムの構築
教授 織田順
教授 織田 順
生体統御医学講座 救急医学
当研究室は、昭和42年に日本初の重症救急専門施設「特殊救急部」として開設されました。その後、救急医療のパイオニアとして日本の救急医療を牽引してきました。その軌跡は2002年NHK「プロジェクトX」にも取り上げられました。現在も全国から救急医学を志す医師が集まり指導的人材を数多く輩出しています。

臨床の素朴な疑問を生かした基礎研究、基礎研究の成果を生かした臨床研究!

救急医学教室では、侵襲時の生体反応に関する研究を長年にわたり精力的に進め、重症外傷、熱傷、重症感染症、SIRS(全身性炎症反応症候群)、敗血症、DIC(播種性血管内凝固症候群)、ARDS(急性呼吸促拍症候群)、MODS(多臓器機能不全症候群)などの病態解明と新たな治療への応用を目指してきました。

全身侵襲に対し、生体がどのような応答をして克服していくのか、そのメカニズムは未だ不明な点が数多くあります。侵襲下では炎症が誘導されます。本来、炎症は損傷を受けた組織が修復するための大切な過程です。しかし、重症患者においては炎症の嵐が持続し、その過剰な炎症が自身を障害する病態が存在します。なぜ、重症患者では、炎症の制御が破綻してしまうのでしょうか。一方、重症患者は感染に弱いという一面も持ち合わせています。過剰な炎症と免疫抑制が共存するという不可思議な現象に陥る例が多々認められます。当研究室では、このような重症化の病態解明と新たな治療の開発を目指しています。

図1

現在、当研究室では、侵襲に対する生体炎症反応と免疫抑制のメカニズム解明、侵襲時の腸内細菌叢、心肺蘇生時の脳酸素飽和度、重症頭部外傷の病態解明、NETs(Neutrophil Extracellular Traps)、ICTを活用した救急医療体制の評価、熱中症、爆傷など様々な領域の基礎研究、臨床研究を行い、新たな治療法の開発、重症救急症例の予後改善を目指しています。

一例として、侵襲時の腸内細菌叢に関する研究について以下に紹介します。

侵襲時の腸内細菌叢

腸管は全身侵襲に対し脆弱な器官の一つです。腸管は栄養を吸収する役割を担っているだけではありません。腸管には腸内細菌叢が発達しており、これらの腸内細菌叢と呼応しながら、全身免疫系を安定化させていることが分かってきています。当研究室では、常在細菌叢の崩壊が予後と関連することを臨床データから世界に先駆けて発表してきました[1]。また、Bifidobacterium breve(ビフィズス菌の一種)とLactobacillus casei(乳酸菌の一種)とその生菌を増加させるオリゴ糖を投与する「シンバイオティクス療法」が、腸炎、肺炎、菌血症の予防に効果があることを発表しました[2]。

基礎研究においても侵襲モデルを用いて腸内細菌叢の崩壊時の免疫応答のメカニズムと治療法の開発を進めています。また、全身侵襲下においてなぜ腸管上皮が再生しにくくなるのか、どうしたら上皮としての機能を維持することができるのか、腸管機能不全がどう全身免疫系や代謝の破綻に関与するのか、という課題に立ち向かっています。外傷・熱傷・熱中症などの侵襲時は、自己由来の物質(DAMPs: damage-associated molecular patterns)が炎症を惹起し全身炎症・凝固機能異常・ショックを引き起こします。重症病態の解明を行うと同時に、新規薬剤・細胞治療の効果を判定し、実際の臨床応用に向けた新たな治療法の開発を進めています。

毎年、ショック学会、AAST(The American Association for the Surgery of Trauma)、 SCCM(Society of Critical Care Medicine)などの国際学会や国内学会での発表も目指して研究活動に励んでいます。また、米国、ヨーロッパへの留学の機会もあります。

救急医学、外傷学、侵襲学などに興味のある方はいつでも歓迎です!

図2

【文献】

1. Shimizu et al. Dig Dis Sci. 56(6):1782-8, 2011.
2. Shimizu et al. Dig Dis Sci. 54(5):1071-8, 2009.