診療

診療内容のご紹介(医療従事者向け)

認知症

認知症の診断と治療

認知症とは物忘れなどの認知機能障害により日常生活に支障を来すようになった状態のことをいいます。“認知機能障害”には、物忘れ(記憶力の低下)の他にも、判断力や集中力の低下、言葉が上手く出ない(言語障害)、道に迷ってしまう、といったさまざまな症状が含まれます。認知症の原因となる病気にはいくつかの種類がありますが、多くはまだ根本的な治療法がありません。認知症は進行性の病気のため、時間の経過とともに悪化していきます。しかし、早期に発見し適切な予防策や治療を行えば、症状の進行を遅らせ、健康でいる期間を長くすることができます。認知症になる一歩手前の状態を軽度認知障害と呼びます。この時点で診断することで、早めの対応が可能になり、日常生活に支障が少ない状態を長く保つことができます。このため、認知症の初期のサインを見逃さずに出来るだけ早期に診断することがとても重要になります。

認知症の検査は大きく分けて、
① 認知機能障害の“程度”(重症度)を評価する検査
② 認知機能障害の“原因”を調べる検査
の二つに分かれます。

① 認知機能障害の“程度”(重症度)を評価する検査
<物忘れの問診>

患者さん本人から直接お話を伺います。また患者さんをよく知る人(家族)から患者さんの普段の様子や、これまでの経過をお聞きします。物忘れのある患者では、ご自身では物忘れの自覚がないことが多く、周囲の人からの情報が診断に非常に重要になります。

<神経心理検査>

質問表を使って、記憶、見当識、実行機能などの現在の脳の機能を客観的に評価します。事前準備は特に必要ありません。検査は面談形式で、質問に答えたり、文章や図形を書いて回答します。10分程度で終わる簡便なものから1時間程度かかる詳細なものまで様々な種類があります。

② 認知機能障害の“原因”を調べる検査

“認知症”は物忘れを起こす病気の総称で、その原因となる病気は様々です。代表的なものとして図のような病気が知られています。認知症の原因として最も頻度が高いのがアルツハイマー病で、全体の5~6割を占めると言われています。アルツハイマー病についで頻度の高い、レビー小体型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症を併せて4大認知症疾患と言われています。認知症はその原因によって、治療薬や対応方法が異なります。そのため、認知機能障害(認知症)の原因を出来るだけ正確に判断することが、適切な対応のために重要になります。

<神経学的診察>

認知症の原因となる病気の中には、認知機能障害だけではなく、運動障害など体の動きの変化が現れるものがあります。パーキンソン症状(動作が遅い、歩行が不安定)、脳血管障害(麻痺、感覚障害、失調など)の評価のため、神経学的診察を行います。

<血液検査>

血液検査で分かる認知症の原因もいくつか知られています。甲状腺ホルモン、ビタミン、感染症(梅毒)の指標は認知機能に影響を与えることが知られていますので、認知症の検査では重要です。また、生活習慣病(糖尿病、脂質異常症)は認知症のリスクとなることが知られているため、血液検査でチェックし必要に応じて治療を行います。

<頭部MRI検査>

脳の萎縮の程度や脳梗塞、脳出血、脳の血管の狭窄、動脈瘤などを調べることができます。CT検査と比較すると放射線被爆が無く、より詳細な画像を撮影することができるため、認知症の検査に適しています。心臓ペースメーカーなど体内に金属がある場合には、検査が行えない場合がありますので、事前に確認を行います。

<脳血流SPECT検査>

認知症の早期診断や原因の特定を目的として行う画像検査です。ラジオアイソトープという方法で脳の血流の状態を調べます。脳の機能が低下すると、その部分の脳血流が低下します。脳血流の低下は脳の萎縮が起こる前から見られるため、認知症の早期診断に役立ちます。また、アルツハイマー病やレビー小体型認知症などでは特徴的なパターンの血流低下がみられるため、認知症の原因の特定に役立ちます。

<脳ドーパミントランスポーターシンチグラフィー:DAT scan>

認知症の原因となる病気の中には、脳機能だけではなく身体の動きに障害がみられる場合があります。代表的なものはパーキンソン症候群と呼ばれ、身体のバランスが悪くなったり、手足の震えやこわばりが見られ、転倒の原因になります。このような状態では、脳内のドパミントランスポーター(DAT)という物質が減少していることが知られており、画像検査で調べることが出来ます。レビー小体型認知症などパーキンソン症候群がみられる認知症の鑑別に有用です。

~バイオマーカー検査~

最近ではバイオマーカー検査という方法で、脳の中の状態をより正確に検査できるようになってきています。アルツハイマー病は脳に異常な蛋白質が蓄積してしまう病気で、アミロイドβタウという二つの蛋白質が関係していると考えられています。アルツハイマー病の発症に繋がるこのような脳内の変化は、認知症を発症する15年以上前から既に始まっていることが知られています。

バイオマーカー検査は、これらの異常な蛋白質が脳に蓄積しているかどうかを推察するために行われます。認知機能障害の原因がどのような病気によるものかを診断したり、あるいは特定の病気の可能性を除外することが診療上で有益な場合に行われます。バイオマーカー検査だけで確定診断がされるものではありませんが、上記の様々な検査と組み合わせて総合的に判断することで、より正確に病気の状態を知るために役立ちます。

<髄液検査>

髄液検査はアルツハイマー病のバイオマーカー測定を行うための方法の一つです。髄液とは脳脊髄の周りにある液体のことです。脳に接している体液であるため、その成分を調べることで脳の状態を正確に知ることが出来ます。髄液中のアミロイドβ42の低下リン酸化タウ蛋白の上昇は、アルツハイマー病の状態を反映することが知られています。

髄液を採取するために行われる腰椎穿刺は、通常の診療行為の中で行われる基本的な医療技術の一つで、局所麻酔で行います。腰の骨の隙間から針を進め、髄液が自然と出てくるのを回収します。(骨髄検査とは異なります。

<アミロイドPET検査>

脳の中にアミロイドβの沈着があるかどうかを画像で調べる検査方法です。Positron Emission Tomography (PET: 陽電子放出断層撮影)という撮影方法で、脳内のアミロイドβの沈着物を可視化します。現時点では保険適応外のため、検査費用は全額自己負担となります。当科の認知症検査の中では基本的に行っておりません。

【認知症の予防】

現在、残念ながら認知症を完全に治癒させる根治療法は確立されていません。ほとんどの認知症は進行性の疾患のため、一度悪化してしまうと、改善が期待しにくくなっていきます。そのため、早期から予防を行い、進行を少しでも抑えることが重要となります。

右の図は認知症のリスクとそのリスクを予防することで認知症発症率を減らすことができるパーセンテージを示しています。中年期以降の難聴、高血圧、飲酒、肥満、高齢期の喫煙、抑うつ、社会的孤立、運動不足、糖尿病など生活習慣を見直すことで予防できるリスク因子が多くあります。これらに気を付けて対応することで、約40%も認知症の発症リスクを減らすことができる可能性があります。

【物忘れ精査入院】

認知症の診断には問診、身体診察、神経診察、認知機能検査、画像検査、血液検査など多くの検査から総合的に物忘れの重要度を判定し、原因となっている病気を診断していくことが重要になります。そこで、当科では約1週間の短期入院で認知症に関連する検査を詳細に行い、出来るだけ正確な診断と治療方針の決定に役立てています。専門的な神経心理検査や、必要に応じて髄液検査も実施しています。同時に認知症発症のリスク因子を評価し、予防に役立てています。

正確な検査結果に基づいて、今の認知機能がどのような状態にあり、原因としてどのような病気が考えられ、今後どのように治療や対応をしていくべきか、個々の患者さんの状態に合わせて総合的に判断していきます。

【よくある質問】

認知症が心配で、これまでに何度か脳の検査を受けましたが大きな異常は見つかっていません。ただ、症状がどんどん進んでいる様で心配です。前に受けた検査で異常が無くても、改めて調べてもらうことは出来るのでしょうか?

病期の初期には頭部MRIや簡単な認知機能検査では異常が見つからないことがよくあります。ただ、普段から様子を見ているご家族の方が感じている変化は、一般的な検査より正確であることもあります。この様な場合は専門的な検査やアセスメントが必要になります。認知症の初期のサインを見逃さないためにも、ご家族の方が心配されているようであれば、受診を考えてみてください。

手術の後に一時的に言動がおかしくなって「せん妄」と言われました。退院してからは元に戻っているのですが、このまま様子を見ていて大丈夫でしょうか?

せん妄は認知症に似た症状で、高齢者が手術などを受けて体の負担が大きくなった場合に一時的に現れることがあります。急激に意識が変化し、おかしな言動をとることがありますが、認知症とは異なり、退院後は元に戻ることが多いです。ただし、認知症の方はせん妄を起こしやすいことがしられており、また、一度せん妄が起きると将来的に認知症のリスクが上がることも知られてきています。せん妄を起こしたばあいは、認知症が隠れていないか一度検査を受けられることをお勧めします。

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