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診療内容のご紹介(医療従事者向け)

ASO(閉塞性動脈硬化症)について

①病態について

ASOは主に下肢の主幹動脈に全身の粥状硬化の一部分として血管内腔の狭窄または閉塞を来し、慢性の下肢の血流障害を呈する疾患です。その発症要因としては、他の部位の動脈硬化と同様に加齢、男性、喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病などリスクファクターが関与しています。超高齢社会であるわが国においては生活習慣病の増加を背景に急増しています。また、ASOは全身の動脈硬化症の一部分と考えられ、冠動脈,頸動脈や脳動脈,腎動脈など他の部位に高度な動脈硬化性病変が存在している可能性も考えた精査も必要となります。

当科では、循環器内科、心臓血管外科、皮膚科及び放射線科とも連携し、ASOに対する診療を行っております。

②症状、予後について

ASOは慢性の下肢虚血により側副血行路の形成などにより代償機能が作用している間は無症状に経過しますが、破綻し、十分な血流が保てなくなると臨床症状を認める様になります。典型的には運動時の下肢筋の血流低下による酸素供給と筋代謝の不均衡が存在すると疼痛が生じ、一定時間の休息によりその症状が軽減する間欠性跛行 (intermittent claudication (IC))を認める様になります。更に病変が進行すると安静時疼痛、潰瘍・壊死を生じ、壊死が進行し、安静時疼痛や感染症が重篤化する場合には切断も考慮します。下肢虚血症状の重症度分類として、Fontain分類があります。(Ⅰ度:無症状、しびれ、冷感 Ⅱ度:間欠性跛行 Ⅲ度:安静時疼痛 Ⅳ度:潰瘍、壊死) ASO患者における1年間の死亡率と脳心血管イベントの発現率は3.8%と5.4%と高く、全身性の動脈硬化症であることが示されています。従って、リスクファクターのコントロールが非常に重要と言えます。

③検査、診断について

1)身体所見

動脈拍動拍動(鼠径動脈、膝窩動脈、後脛骨動脈、足背動脈など)の触知により大まかな病変部位の診断が可能です。足関節上腕血圧比(ankle brachial index)はスクリーニング及び重症度評価に有用です。ABI<0.9はASOと診断されますが、糖尿病や人工透析例などの石灰化病変が強い場合には高値を示すので注意が必要です。

皮膚組織還流圧(SPP)はレザードプラ法を用いた測定法により末梢血管領域における下肢虚血の重症度評価を行うものです。SPP<30mmHは重症と判定されます。

2)トレッドミル運動負荷試験

運動負荷前後のABIの変化や跛行が生じるまでの歩行距離を計測することで、血流不足の重症度を客観的に調べます。施設によっては近赤外線分光法プローブを用いて機能的評価を行うこともあります。

3)画像診断

治療方針の決定のためには画像診断が必須になります。

下肢動脈の血管エコーや下肢造影CT検査、造影または単純MRAを行います。必要に応じて下肢動脈造影検査を行いますが、画像診断機器の発展により侵襲的な本検査を行う機会は減っています。しかし、血行再建を考慮する際には必須の検査となります。

その他、サーモグラフィーによる皮膚温の可視化により、血流障害を評価します。

④治療について

運動療法や薬物療法による保存的治療と血行再建術が行われますが、個々の患者の重症度(Fontain分類)や併存症、患者希望などを考慮して治療方針を決定します。

1)リスクファクターの改善

禁煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病などリスクファクターの改善による二次予防、三次予防が重要です。

2)運動療法

ASOの間欠性跛行患者に初期治療として、トレッドミルまたはトラック歩行による監視下運動療法が推奨されますが、保険で許可された実施施設は少ないのが現状です。その施行が難しければ、よく指導、管理されていれば、在宅運動療法にも効果が期待できます。また、リスクファクターの改善にも運動療法は効果が期待できます。

3)薬物療法

ASOに対してはシロスタゾール、塩酸サルポグレラート、プロスタグランディン製剤の投与の効果が期待できます。特にシロスタゾールは歩行とQOLの改善が認められており、心不全がない場合の第一選択薬です。

4)フットケア

潰瘍形成を伴うASOでは、皮膚科や形成外科、看護師を中心としたコメディカルと連携したフットケアの効果も期待できます。また、糖尿病や慢性腎臓病の患者では、コメディカルを含めた医療者による下肢の定期的観察、検査、フットケアが重症下肢虚血の早期発見、治療に繋がります。

5)血行再建術

運動療法や薬物療法による跛行の改善効果が不十分な場合や不十分と予測される場合には血行再建が考慮されます。具体的にはPTA(経皮的血管形成術)やバイパス術になりますが、放射線科や心臓血管外科と協議の上、その適応を判断します。

6)血管新生療法

先進医療として重症下肢虚血に対して、末梢血幹細胞移植や末梢血単核球移植、HGF遺伝子治療などがあります。

HGF(ヒト肝細胞増殖因子)遺伝子治療薬であるコラテジェン®は当科の姉妹教室である臨床遺伝子治療学 森下竜一寄付講座教授のグループにより開発されました。わが国初の遺伝子治療薬で、2019年9月に条件及び期限付き承認として発売されました。標準的な薬物治療の効果が不十分で血行再建術が困難なASOやBuerger病おける潰瘍に対して適応があります。コラテジェン®はHGFを発現するプラスミドDNAを下肢の筋肉に注射することで筋内細胞に取り込ませ、細胞内で転写・翻訳されて、HGF蛋白が産生・分泌され、その結果、HGFの血管新生作用により虚血部位の虚血状態を改善させます。しかし、投与部位の筋肉やその周辺組織に悪性腫瘍のある患者やその既往のある患者、骨または腱の露出を伴う潰瘍を有する患者、壊死を有する患者、感染症を伴っている患者などは適応外になります。当科では本治療を行っておりますので、該当する患者様がいらっしゃる場合はご紹介いただければと思います。

(文責:大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学 鷹見洋一)

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